第521話
「まったく馬鹿な奴だ。日に二度もだなんて」
「二度?」
「完全に忘れちまったようだな。さっきはサンがゴブリンの子供に殺され、泣きついてきただろう。記憶は消していても、体や細胞が覚えているもんだろうが。俺との約束は覚えてるんだからよ」
「・・・・」
夢の中、ドモンと話すドモン。
このドモンは恐らくあの悪魔。それだけは理解していた。
「一度目は何があった?」
「ハァ面倒な奴だ。が、まあ今日のところはサービスしてやるか。お前があのゴブリンの娘に手を出しかけた時に、怒ったガキどもに刺されそうになってサンが庇ったんだ。心臓一突きで即死よイヒヒ」
「なんだって?!そんなバカな・・・」
「で、その少し前からやり直したんだ。あの母親のおっぱいを白目剥くまで弄り倒すって約束をしてなイーッヒッヒッヒ!あれは傑作だったぜ」
どこからやり直したのかを聞いたところ、遠くで火山が噴火したような感覚があったあたりらしいことがわかった。
思い起こせばあの瞬間から、ドモンは強烈なデジャヴに襲われていた。
そしてドモンは何かしらの危機感を抱き、咄嗟の判断で人々の視線を集めることにしたのだ。
ドモンの話によりシンシアが生き恥をかいたが、ゴブリンの子供達が来る前に注目を集めることに成功。
それにより子供達は慌ててナイフを引っ込めた。
結果、ドモンやサンが刺されることもなく済んだのだ。
その後ドモンはその記憶はないながら、ゴブリンの姉に対し警戒心を抱き手は出さず、そしてこの悪魔との約束を守るため母親には手を出した。
「やり直し・・・って・・・時間を巻き戻したってのか?タイムリープなんてあり得るはずないだろ」
「そんな高尚なもんじゃねぇよ。いわゆるリセットしただけだしな。お前もゲームでやったことあんだろうが。セーブ地点からやり直しをよ」
「この世界がゲームだということか?」
「ハッハッハ!残念ながらお前が想像してるようなもんじゃねぇよ。俺にとっちゃそんなようなもんだがな」
混乱するドモンの懐からタバコを一本取り出しそれを咥えて、「ン!」とアゴを突き出すあっちのドモン。
ドモンは頭の中を必死に整理しようとしながら、あっちのドモンのタバコに火をつけた。
「毎度手間かけさせやがる。ナナやサンを抱く時も何度やり直したことか。そりゃあいつらだって薄っすら気づくだろうよ」
「何がだ?」
「そいつらだけじゃねぇ。お前よく言われてるだろ?『初めて会った気がしない』ってよ」
「ま、まさか?!」
ドモンにも確かにそれは心当たりがある。
なんとはなしにそのように感じる時もあれば、今回のようなデジャヴと呼ばれるくらいのものまで。
「ナナの時は自分から近づいたら逃げられ、立ち上がっても斬られ、ジュースをやったらそのまま立ち去られ・・・」
「クックック思い出したか。ゴブリンを連れ帰った時の暴動も随分とやり直したな。何度やってもナナの顔面に石が直撃して顔が潰れるもんだからイヒヒ。ま、おかげで屋敷の侍女を三人もいっぺんに楽しめたから良しとしたがな」
「・・・・」
完全ではないけれど、甦る記憶の断片。
この世界でだけではなく、元の世界でもそのようなことがあった。
「さあ面倒な長話はもうゴメンだ。どうせお前の寿命の半分を貰ったところで大したことがないんだから、いつものようにスケベで返せ。今度はあのゴブリンの娘を犯すんだ。あの母親と一緒にな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!それじゃやってることはあいつらと同じだろうが!それに俺が暴行にあったり死んだ時はどうしてやり直してくれなかったんだよ!」
「女を犯したとしても、誰も殺してねぇだけお前の方がマシだろ。あとお前の時だけやり直さねぇのは、お前から魂を奪うためだ。話は終わり。出血大サービスってやつだったな。じゃあ両手を前に突き出して指を立てろ」
「頼む待ってくれ!!ああ!!」
いつものように記憶を消され、ドモンは暗い闇の中へ。
今はただあのドモンに従い、両手を前に突き出すのみ。
「・・・オホォ両方の先っぽぉぉおおん?!?」
ドモンに胸をツンとされ、人々が集まる広場でとんでもない声を上げてしまったゴブリンの母親。
ナナにより退治されたドモンはゴブリンの青年の背中に担がれて、ゴブリン達の家に戻ることになった。
ほぼ記憶がないまま、『ゴブリンの母娘を犯す』という使命感だけを持ちながら。




