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第519話

「ど、どうしたんだそれ・・・」

「逃げ・・て・・・逃げてぇ!!」


妹の叫び声に集まる子供達。

青年ゴブリンは妹を抱きかかえ「逃げるぞ!」と叫んで振り向いたが、真後ろの妹が出てきた茂みの方から、今まで見たこともない巨大な大猪が飛び出してきて、兄妹諸共吹っ飛ばした。


元の世界でも体重360キロという大猪が確認されたことがあるが、それとほぼ同等。

その突進ともなれば、軽自動車がノーブレーキで突っ込んでくるようなものであるが、それを不意打ちで背中からまともに喰らえばひとたまりもない。


車に轢かれ慣れたドモンであれば、何とかなるかもしれないけれども。


青年ゴブリンは、叫び声すら上げる暇もなく妹を抱きかかえたまま意識を失い、大猪の次のターゲットとなった。

残った小さな男の子達は、足を竦ませながら呆然と立ち尽くしてその様子を見ていた。完全に止まる思考。先程までの幸せな気持ちが嘘のよう。


「・・・逃げよう・・・助けを呼ばないと」

「兄ちゃんが食われてる・・・」

「おい!早く!」

「僕が助けないと全部食べられちゃう」


青年ゴブリンと妹を助けに行った男の子。結果的に言えばそれが大悪手となった。

大猪のターゲットが男の子達へと変わり、追いかけ回されることに。


二手に分かれて逃げ出した男の子達の片方をまずは跳ね飛ばし、大猪は踵を返すように振り向いてもうひとりの方へ。

あっという間にもうひとりの男の子に背中から突っ込み、そのまま貪り食い始めた。


「うぐぐぎぎぎぎ・・・・」


その光景を見て発狂し、思わず泣き叫びそうになったのをなんとか堪える、先に跳ね飛ばされた男の子。

柔らかな茂みに落ちたのと体重が軽い分、軽傷で済んだのだ。


折れた肋骨を押さえながら、音を立てぬように山を降り、休憩所の人の姿が見えたところで、無我夢中で走り出した。


「おかあさん!!おかあさぁん!!ウワァァァァン!!!」


頭から血を流しながら家へと飛び込んできた男の子を見て、全員が談笑中の笑顔のまま固まる。

少しの間があった後、母親は手に持っていた器をガシャンと床に落とし「ハアアアア!!」と叫びながら男の子に駆け寄った。


「どうしたの?!み、みんなはどこ?!」ギュッと男の子を抱き寄せた母親。

「いの・・猪がぁ!みんな食べられちゃう!!ウワァァァァン!!」

「どこだ坊主!助けに行くから場所を教えろ!!泣いてる場合じゃないだろ!!」


咥えていたタバコを灰皿に放り投げ、ドモンも駆け寄る。


「山の・・・山の、牙を捨てるとこウグ・・ウッウッウ」

「どこだよそりゃ!わかんねぇよ!」

「ウワァァァァァン・・・・」


思わず怒鳴ってしまい、男の子を泣かせてしまったドモン。

だが今はそれどころではない。


「私がわかります!」とゴブリンの姉。

「じゃあすぐに案内してくれ!ナナ準備!」

「任せといて!剣取ってくる!!」


家を飛び出して自動車に向かうナナ。


「サンは怪我の手当てを!シンシアは助けを呼んでくれ!」

「はい!」「わかりましたわ!」


サンも救急箱を取りに自動車へ。シンシアは強そうな男達を探しに。


「母さんは子供を落ち着かせてやってくれ。きっとこの様子だと辛い思いをしているから」

「えぇ・・・」


母親は今の状況に呆然としながらも、何かを悟ったかのように落ち着きを取り戻していた。


「なんか俺にも使える武器はないか?落ち着け落ち着け・・・よしまずこれと・・・」

「ドモン様ドモン様・・・決してご無理はなさらぬように」と母親。

「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!」

「私達は弱き者。こうなるのもきっと運命だったのですよ。だから・・・」

「運命なんてもんはすぐにひっくり返せんだ馬鹿野郎!」


キッチンからいくつかの物を持ち出し、ナナが戻ってきたところで家を飛び出したドモンと姉。

夜の冷たい風で喘息の発作を起こし、ノドをヒューヒューと鳴らしながらドモンは姉とナナを追う。

脚が悪いためどうしても遅れてしまうのだ。


「こっちよ!」と山の中の茂みの向こうへ飛び込んだ姉。

後を追ってナナも飛び込んだ瞬間、「いやああああああ!!」という姉の叫び声が山中に響いた。


あの叫び声からして、恐らく兄弟達の凄惨な姿を見てしまったに違いないと踏んだドモン。

「あっち行け!」というナナの声もしたので、大猪も近くにいると思われる。


大体の状況を頭の中で想像し、どんな言葉で姉を落ち着かせて逃がし、どうやってナナと一緒に戦うかを考えながら茂みに飛び込むと、そこにはドモンが想像していたものとかけ離れた光景が広がっていた。


ゴブリンの姉の首が胴体から離れて落ちており、その胴体を咥えたままの大猪が、尻餅をついて小便を洩らしながら後退りするナナに向かってゆっくりと迫っていたのだ。

王宮で貰った自慢の剣を抜くことも、魔法を放つ余裕もない。


「ナナ!」

「ドモ・・・助け・・・」

「おいこら!ボケクソ猪がよ!てめぇコラ舐めた真似しやがって!」


真っ赤な目をして威嚇したドモンに、大猪は咥えていた姉を無造作に吐き出して、グルルと唸り声を上げた。




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