第518話
洗い物を終え、ドモンは姉に自動車へ物を運ぶのを手伝ってもらって片付け完了。
サンと母親は、子供達の分のプリン作り。
残っていた分をナナとシンシアが全て食べてしまったからだ。
「ちょっとお母さん!凄いよこの人の自動車って乗り物。水浴びするところもあって、寝るところまであるの。まるで家に車輪がついているみたいだった。お母さんも来たら良かったのに」興奮しながら戻ってきた姉ゴブリン。
「え?えぇそうね。でも私がお邪魔してはいけないと思って。それは次の機会に」
「???そんなことないわよね?中はすっごく広かったもん」
「・・・まあそうだな」
恐らく母親は違う意味でお邪魔と言ったのを察し、お茶を濁したドモン。
姉は不思議そうな顔をしたまま、プリン作りの手伝いに加わった。
「先生、僕達は兄と入れ歯や歯の治療に必要な物を用意しに行きたいと思います。今晩は泊まっていかれますよね?」とギド。
「ああ一泊していくよ」
「では兄に手伝ってもらって、そのまま向こうの小屋で作業をしますので。もし明日までに終わらないようでしたら、そのまま僕達を置いて出発しても構いません。乗り合いの馬車もあるようなので」
「あらま、そんなに時間がかかりそうなのか。まあその辺はその時になってから決めようか」
「わかりました。ではこれにて」
ギド兄弟が去っていき、家の中はドモン以外女だけ。
少し前のドモンなら、チャンスとばかりに行動を起こしていたかもしれないけれど、そんな元気もない今は大人しくソファーで一服。
キャッキャキャッキャと女同士、話に花を咲かせているのを大人しく見ていた。
一方その頃、ゴブリンの青年と子供達は山中で穴を掘り、ゴミ探しならぬ宝探し。
日も落ちて暗いこともあり、なかなか見つからず大苦戦。
「兄ちゃん、どこに牙捨てたんだよ~!」「全然出てこないねー」
「おっかしいなぁ・・・この辺に埋めたんだけど」
「もう溶けてなくなっちゃったとか?」
「牙はそう簡単に溶けやしないよ。必ずあるはずだ。いつもは逆に、穴を掘ったら前に捨てた牙が出てきちゃったりするんだけど」
てっきり簡単に見つかるものだと思い、道具も小型のナイフしか持ってきておらず、全く作業がはかどらない。
小さなゴブリン達も素手でそれらしい場所を掘り進めるも、出てくるのは虫ばかり。
「ねえ兄ちゃん、その牙ってお母さんの牙の代わりにするんでしょう?だったら捨てた牙なんかじゃなく、狩りをして新しい牙を手に入れたほうがいいんじゃない?」
「そうよね!美味しいお料理を作ってくれたドモン様に、お肉もお土産に渡せるし!」「そうだそうだ!」「そうしようよ!」
「う~んでも、こんなに暗くちゃ危険だし、それに武器だってこんなナイフしかないからなぁ」ナイフについた土を払う青年。
「大丈夫だよ!この辺はジャイアントベアーも出ないし、大猪なら兄ちゃんも狩り慣れてるでしょ?きっとお母さんも喜んでくれるし褒めてくれるよ!」
この日は母親の誕生日。
今まで自分の命を守るのが精一杯で、この日が生まれて初めての親孝行であった。
自分達も人間達のように、親を敬い、明日を夢見て暮らし、誰かのために働き、みんなの幸せを願う。
そう有りたいと思っていた。
「よし!じゃあ罠を仕掛けてみようか。大猪の気配も感じるし、これだけ暗ければ上手くいくかもしれない」
「わかった!僕手伝うよ!」「俺も!」「私、おびき寄せるための木の実を拾ってくるね」
大猪は日中に活動することが多いが、人里に近い場合は人間を警戒し、夜行性となる場合も多い。
青年ゴブリンは手際よく蔦のつるや木の枝などを絡ませ、ナイフ一本で見事な罠を作り上げた。
「流石は兄ちゃんだね。やっぱりすごいや」「ねー」
「慣れれば簡単だよ。ほら、あまり罠に近づきすぎたら危ないぞ?」
「わかってるってば!それにしてもあいつ、どこまで木の実を拾いに行ったんだ?全然帰ってこないな」
「雪解けしてすぐは、動物達も木の実を狙っているからな。なかなか見つからないんだろう」
一応大猪が通るであろうと思われる場所に罠を仕掛けたので、餌の木の実がなくてもなんとかはなる。
ただ今日は早く牙と肉を届けたかったので、他のみんなも木の実探しをすることに。
しばらくみんなで木の実拾いを続けていると、茂みがガサゴソと揺れ、妹がひょっこりと顔を出した。
「お兄ちゃん・・・」
「ああ、やっと戻ったか。今みんなも木の実を拾っているから、別に見つからなかったとしても気に病むことないぞ?それに」
「お兄ちゃん、みんなを連れて逃げて。私が餌になるから」
「???」
ハァハァと額から脂汗を垂らしながら姿を現した妹の、小さな可愛い左腕は、肩の下辺りから千切れてなくなっていた。




