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第517話

「早くしないとなくなっちゃうよおかあさん!」「ドモン様も食べてみてー」「もうなんにも食べられない・・・」


一体どれだけ食べたのか、ウップウップとしながらも満足げな顔を見せた子供達。

今はそれまでずっと調理を頑張っていたサンとシンシアが交代し、必死になって食べていた。


「私が冗談でまた胸が大きくなりそうって言ったら、サンが慌てて食べだしたのよ。シンシアも」そう言って両手で胸を持つナナ。

「ちがっ・・・たまたまですぅ!こちらがとっても美味しかったから!」「そうですわ!」


「それならこのあと出すのを食べたら、もっと大きくなるかもしれないぞ?」とナナの冗談に乗ったドモン。

「え?本当ですか御主人様?!」


その言葉に思わずサンが反応してしまい、ナナはニヤニヤ。サンは顔を赤くし、子供達は遠慮もなしに大爆笑。


「まあそれは冗談なんだけど・・・」

「もう!御主人様ぁ!」

「柔らかくて食べやすい上に、栄養価はものすごく高いんだ。それにすごく美味しい」

「へぇ~」「ふぅん」


その説明に皆感心はしたが、正直まだピンときていない一同。

卵と牛乳で作った液体を、ドモンが温めたり冷やしたりしていたのは見たけれど、それがどうなるのかがわからない。


水餃子をふたつほど食べて、ドモンはまたキッチンへ。

今が旬であるイチゴをスライスして皿に盛った生クリームの上に置き、皿の中央に先程から冷やしておいた器をポンと逆さまに置いた。

ドモンのその様子に、皆の視線は釘付け。


「何なのそれ??ひっくり返しちゃっていいの??」

「上手く出来てるといいけどな」


逆さになった器をドモンが軽く振ると、パクンという音を立ててそれが突然現れた。


「よし上手くいったぞ。待たせたな、これがプリンアラモードだ」

「・・・・」「・・・・」「・・・・」「・・・・」


宝石のように光り、まるで生きているかのようにプルプルと揺れるプリンに、皆完全に心奪われ言葉をなくす。

ドモンが水餃子を食べ終えたゴブリンの母親の前へ、スプーンを添えてポンと置いた。

母親はやはり言葉もない。


プリンにスプーンを入れるとほぼ抵抗もなく掬え、それがどれだけ柔らかいものなのかが食べなくても理解が出来た。

もちろん自身の口でもそれを確かめる。


「あ・・・あ・・・」

「どうなのお母さん?!」

「美味しい・・・美味しいのよすごく・・・生まれてきて良かった」

「そんなに?!」


目に涙を溜めた母親に、驚きの声を上げたゴブリンの姉。

使った物は卵と砂糖とミルクのみだというのに、そこからは想像も出来ないような食べ物が出来上がり、料理中にドモンは何度も否定はしていたが、姉はやはりそれを魔法のように感じていた。


「私にも早く頂戴よ!その不倫あらどうもとかいうの!」ナナのいつものやつ。

「お前はまた・・・とりあえず次は姉ちゃんに食べてもらってから、母さんと姉ちゃんに作り方教えるから、それまでみんなと待ってろ。お前達も順番だぞ?大人しく待っていてくれよな?」


椅子に座る子供達の頭をポンポンとしながら、プリンの用意をしに行くドモン。

あっという間に食べ終えた母親が、すぐにドモンのお手伝い。

次に食べた姉の「えぇー?!何なのこれは?!信じられない!!」という叫び声がキッチンにいるドモンと母親の耳に入り、お互いに顔を見合わせて笑いあった。



そこからは姉も加わり三人での作業。

一度コツを掴んでからは、脚の悪いドモンよりも手際よく作業を進め、皆に順次プリンが配られた。


すぐに家の中は大歓声に包まれる。

様々な甘味を食べてきたシンシアでさえ驚愕していたのだから、それも当然の話。

フレンチトーストのように、似たような味の液体をパンなどに染み込ませて作る物はあったが、このような滑らかな食感のいわゆる『カスタードプリン』は初めてとのこと。


「ミルクや卵は豊富ですし、砂糖も今では手に入りやすくなっていますから、これならば多く作ることが出来そうです」と母親。

「うん、似たような境遇の者達に作ってやってくれ。あとさっきも言った通り、ここの名物として売って生活の足しにでもしたらいいさ。あと歯のことはギドに任せておけば大丈夫だ。あいつは天才だからきっとなんとかしてくれるはずだ」

「あなた・・・ううん、ドモン様ありがとう」「本当に何から何まで・・・こんなに人から良くされるだなんて、少し前まで想像すらしていませんでした」


ここのゴブリン達もやはり人間達に追われ、殺され続けてきた経緯がある。

その上街に近い分、その危険度はあの村のゴブリン達よりも遥かに高く、まともな暮らしなど出来なかったのだ。

姉と母親は笑顔で涙を拭い、ドモンに心から感謝した。



「じゃあそろそろ片付けて自動車に戻るよ」

「あ、あの・・・本当に気にせず泊まっていってはくれませんか?寝床ならまだありますし、私達は床の上でも問題はありませんよ?屋根があるだけでも十分なのですから」

「それは悪いよ。それに年頃の娘もいるとあっちゃ、母親としても気が気じゃないだろうしなハハハ」


母親に断りを入れ、ドモンはひき肉機などを洗い帰り支度。

そこへふたつのご自慢のプリンを跳ね散らかしながら、ナナが走ってやってきた。


「ドモ~ン、おかわりちょうだい」

「これはゴブリン達のだぞまったく。子供らのおかわりが済んで、もし余ったらやるよ」

「残念でした~!みんなもう行っちゃったもんね。お母さんのための牙取ってくるんだって。いい子達よねみんな」

「ホントだよ。片付けを手伝わないで食べてばっかりの誰かさんにも見習って欲しいもんだ」


ドモンからプリンを受け取り、舌を出して戻っていったナナ。

その様子を見て、母娘はまた笑顔。


「それにしてもあの子達ったら私なんかのために」感慨深げな母親。

「母親を大切に思うのは魔物も変わらんだろ。魔物って言っちゃ悪いけど」

「そんなことないよ。こうなれたのは、ほんのつい最近のこと。それまでは自分が生き残ることが最優先だったし、自分より若い家族を守るので精一杯だったの」と姉。

「弱者が残っていくには、多くの子を産み、そこに望みを繋いでいくしかないのです」

「・・・・」


まさに自然の摂理。これはどの世界でも一緒。

虫などと同じように、弱い個体は数で勝負するしかない。殺される数よりも、産む数を増やせば生き残れる。

そんな中では親を敬うなんて余裕はなく、ただ生き残り、自分も子供を作ってその子供を守るのみ。


「それが今こんな幸せな思いができるだなんて、ドモン様のおかげですね。改めて先の失礼をお詫びします」と母。

「ま、そういうことなら多少スケベなことだって許してもいいわね。私さっき見てたんだから!あなたがお母さんに手を出してるのを。今回は大目に見るけど、次やったら奥様方に言いつけちゃうわよ?ウフフ」

「み、見てたのか」「見ていたのね・・・」


姉は本気で怒っている風ではなく終始笑顔。

「どうせなら私の初めても・・・」と言いかけて首を横に振り、姉も片付けの手伝いをした。




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