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第516話

「ねえドモン様、これはこのまま食べてもいいの??」そんな訳はないのに、たまにやらかす子供の素朴な疑問。

「これは茹でて食べるものなんだ。中華スープがあればいいんだけどここにはないから、さっき食べた鶏肉の鍋の余りで茹でて食べよう。小さな魔導コンロあるかな?」

「すぐにご用意しますね」


スタスタとコンロを取りに向かった母親。

その間、母親の歯の状態をギドに聞いた。


「で、歯はどんな具合なんだ」

「正直良くはないですね。少しグラグラとした歯がまだありますし」

「例の入れ歯は作れそうなのか?」

「はい。ただ材料に丈夫な牙が必要かと。大猪やジャイアントベアーなどの牙があれば間違いなく」


その他、歯の治療器具の作成について、あれこれと議論を交わすふたり。

子供達がその話を心配そうに、そして真剣に聞き入っていた。

歯を失い、命まで失う恐怖から母を救い出せると、目を輝かせながら。


「大猪の牙なら、前に狩りをした時のがあったんじゃ?ねえ兄ちゃん」

「うーん、肉を処理したあと山に捨てちゃったけど、探せば出てくるかなぁ?」

「いつもの辺りでしょ?あとで僕取ってくるよ!」「私も行くー」

「じゃあみんなで探しに行こうか」


青年ゴブリンと子供達が相談をしていると、コンロを持った母親が戻ってきた。

全員で鍋を囲み、いよいよ水餃子の実食。


「鍋が煮えたらさっき包んだ餃子を中に入れるんだ。しばらくすると皮が半透明になって浮いてくるから、そうしたらすぐに食べられるぞ。ポン酢があればもっと美味しいんだけど、このままでも十分美味しいと思う」


ドモンがポンポンと鍋に水餃子を放り込んでいると、子供達も真似をしてひとつ鍋に投入。

その様子を母親がにこやかに見守っていた。


「火傷をしないように気をつけるんだよ?ほら、湯気も熱いから気をつけて」

「はーい」「わかってるってば」「平気よ平気!」

「もうこんなにはしゃいでウフフ。こんなに幸せな気持ち、あの人が亡くなってから初めてかもしれないわ」

「良かったねお母さん・・・」


母の隣で姉も子供達を見守る。

この日の食事を終えた後、これからは薬草のスープだけを飲んで生きていこうとしていたが、ドモンによって希望の光がもたらされ、ふたりとも食べる前から胸がいっぱい。


「さあまずはお母さんから食べてみてくれ。噛み切れなかったり飲み込みにくかったら、遠慮なく吐き出すんだぞ。その時はもう少し改良するから」

「私から?!いいのかしら・・・」

「そりゃあんたのために作ったもんだし、遠慮することないよ。ほら熱いうちに。って火傷は気をつけろよ?」

「あ、ありがとうございますドモン様」


器に鍋から掬った水餃子をふたつ入れて母親の前へ。

皆に見つめられながら恐る恐るフォークを刺し、フーフーと少しだけ冷ましてから口の中へ。


「ん・・・」

「どうだ?」「どうなのお母さん?!」

「はふっ・・・はふぅ~・・・んっん~・・・ハァ」


目を瞑り、少しもぐもぐと口を動かした後ゴクリと飲み込んだ母親。水餃子が喉を通る。

母親はその感動を伝える術が見つからない。その顔ですでに全てが伝わっているけれども。


「正直ドモン様を恨むわ。もう少し早く知っていれば、きっとあの人も今頃私の横で舌鼓を打っていたはずだもの。そしてドモン様に感謝を。これから多くの仲間がこれにより救われることでしょう」

「お母さん・・・」「母さん・・・」

「さあみんなでいただきましょう!とっても美味しいわよ!世界で一番!」

「わーい!」「ちょうだいちょうだい!」「わ、私にもちょうだいよ!私が作ったこの一番大きなやつも!」


作り方を覚えたサンに代わってもらい、ドモンはひとり抜け出しリビングのソファーへ。

タバコに火をつけひと休みしていると、母親がやってきて深々と頭を下げた後、ドモンの横へと座った。


「ドモン様・・・改めて謝罪をさせてください。私達のような弱き者に、これほどまでお気遣いいただけるだなんて、想像すらできませんでした」

「やめろって。俺は頭下げられるのが苦手なんだよ。その尖った先っぽを弄って遊ばせてもらったことでおあいこだよ」

「それはもうドモン様のお好きなだけ・・・」

「え?じゃあもう少し触っちゃおうっと。それよりも自分達が弱い者だなんて卑下するな。力の強さも関係ないし、生まれや育ちもこれからは関係ないよ。頼み事があるなら気軽に言ってくれ」

「はい・・・で、では早速手加減をほぉぉ・・・うぐ・・・」


みんなからの死角に入って、服の中にこっそりと手を突っ込んだドモン。

必死に声を抑え悶絶する母親の顔を見ながら、ドモンは何か違和感を覚えていた。

もちろんいつものスケベ心はあるものの、なぜか何がなんでもこうしなければならないという使命を感じていたのだ。


「ほら~ドモンも食べよう?何してるの?なくなっちゃうわよ」

「あ、ああ、ちょっとお礼を貰っていただけだ。すぐに行くよ。な?」「えぇ」


ナナに呼ばれて席に戻ると、あれだけあった水餃子の殆どが食べられていて、皆幸せそうに膨れた自分のお腹を擦っていた。




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