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第513話

「イテテテ・・・で、一体俺についてどんな噂を聞いていたんだ」


うつ伏せに倒れているドモンのお尻を擦るサンとゴブリンの子供達。

あんな事があったのにもかかわらず、意味がわかっていないのか、子供らは皆笑顔。


「はい・・・オーガやオークの方々からは素晴らしい方だと聞いていたのですが、ゴブリンの仲間達から伝え聞いた噂ではその・・・呪いにより無理やり発情をさせられ、長老まで手籠めにされてしまった村があると・・・」気まずそうに答えた母親。

「ほう」

「こんなきれいな奥様方を娶っているのを見て、それがただの噂じゃないと私も思ったの。それに滅多にここへやってこない母を、わざわざ狙うようにやってきたんだと勘違いもしちゃったし、母もきっとそうだと思って身を隠したのよ」と姉。


そんな話は聞いていなかった青年ゴブリンは大いに驚いた。

事が事だけに、母親や姉も言い出せなかったとのこと。


「しかし子供らと接する態度や私達への気遣いで、そんな噂は間違いだと気付かされたのです!」母親大反省。

「それですぐさま俺を追いかけてきて、いきなり胸の先っぽを触られて思わずビンタしてしまったと」

「それは咄嗟に手が出てしまったと言いますか・・・やはり噂通りだったのではないかと頭をよぎり・・・ごめんなさい」

「謝ることないわよ。大体その噂だって半分は本当なんだから」


鼻息を荒くしながら、煮込んだ鶏肉のスープを食べるナナ。

ドモンの指示により、シンシアがだし入りの味噌とゴマ油を加え、ただの塩味の煮込み料理を劇的に変化させていた。

ナナにおいでと呼ばれてそばに寄った子供達も一口ずつそのスープの味見をさせてもらい、今はもうその料理に夢中。


「あれは長老がいきなり俺とスケベしたんだろ」

「その割には誰かさんの何かは、随分とお元気になられていたように思えますけど?」

「それも俺のせいじゃなく、長老が触ったり挑発してきたから・・・」

「その時点で断ればいいじゃない!!」

「旦那さんの話をしててそんな雰囲気じゃなかっただろ?!」

「もうおふたりともっ!メッ!」


ヒートアップし始めた夫婦喧嘩を止めたサン。

そうしてゴブリンの村で起こった事の経緯をサンの方から事細かく説明し、ようやく本当に納得してもらうことが出来た。


「要するにそんな悪い人ではないけれど、少しでも油断したらうっかり抱かれてしまうってこと?」と姉。

「そうそう、そんな感じよ。またそれが質が悪いことに、悪い気がしないのよ。むしろ幸せを感じるというか」

「お、恐ろしい力ね」

「それにスケベなイタズラされると鬱陶しいけど、でも他人にしてるのを見てるとイライラしちゃうし。そうなったらもうドモンの術中にハマっているのよ」

「わかりますわ」「わかります・・・」「確かにどうしてお母さんなんかに」


ナナの説明に頷く姉、そしてシンシアとサン。

娘のその態度を見て、妙な優越感を得てしまったことに気がついた母親。

ドモンに近寄り「下着をつけずに駆け寄ってしまった私が悪いのです」と片手で服を押さえてみせたが、先っぽを隠す気は毛頭ない。ドモンがニヤニヤと少しだけ嬉しそうな顔を見せた事がまた嬉しい。


それに気が付いてキッと睨みつけたサンに対し、必死に平静を装いながら、母親はドモンを支え起こす。

お互いの吐息が混じり合うほど顔を近づけた時には、「もういっそのこと体を許しても」と母親も思いはじめていた。


「はーい駄目よふたりとも!離れて!まあどうせ今のドモンは、そこまで元気ではないから平気でしょうけど」

「はじめから何もする気はないってば」「・・・・」


少し前のドモンであれば、何かしらの悪知恵を絞ってこの母親を抱いていたかもしれないが、今は本当にその心配はいらない。

それがナナは嬉しくもあり、寂しくもあった。


そんなやり取りをしながら、今度はこのゴブリン家族の事情を聞いたドモン達。

聞けばやはりあの長老と同じく、旦那を亡くしてしまった未亡人であるというのだけども、その事情はかなり違っていて、栄養失調からの病で亡くなってしまったとのことだった。


「ねえおかあさん!ドモン様ならなんとかしてくれるんじゃないの?だってドモン様は僕達の夢を叶えてくれるんでしょう?」と子供のひとり。

「いくらドモン様といえどそれは無理よ。これは運命として受け入れなければならないものなのよ」と母親が子供の頭を撫でた。

「何がだ?」

「夫もそれが原因だったのですが、きっともうすぐ私も・・・。私も夫と同じように牙を失くしてしまったのです」

「虫歯かぁ・・・」


以前ドモンが飲み屋で聞いてゾッとしていたこと。虫歯の恐怖。

懸念していたことを実際に目の当たりにし、ドモンは顔を曇らせた。


たとえ乱暴なやり方でも治療方法がある人間はまだマシな方。

総入れ歯などはまだなかったが、丈夫な歯に針金のようなもので人工の歯を結びつける入れ歯はあったからだ。


治療法も入れ歯もない魔物達にとってみれば、歯を失うということは死と同等のこと。

これを言っては差別になるとドモンは口には出さなかったが、正直野生の動物に近い状況だ。


「誕生日を祝ってもらえるのは嬉しいのですけれど、このような食事をいただけるのも、もうそれほど長くはないと自覚しております」

「まだ若いだろうに。虫歯ってのは実は誰かから伝染るものなんだ。これだけ子供がいるのを見りゃわかるけど、その虫歯の旦那とよく愛し合っていたんだろ」

「あ、あの・・・その・・・はい・・・」

「男好きする体してるもんな。旦那の気持ちがわかるよ。抱き心地も良さそうだし、吸い付きたくなるような厚い唇に、弄ってくれと言わんばかりに主張している先っぽにイヒヒ」

「・・・・」


困った顔の上目遣いで、恥ずかしそうにドモンを見つめる母親。

歳を聞けばまだ40前で、子沢山特有のふくよかさはあるものの、女としての色っぽさはまだまだ健在。

スナックか何かのママさんでもやれば、たちまち繁盛店になるだろう。


「おかあさん『男好きする体』ってなぁに?それになったら牙がなくなっちゃうの?」大人が困る子供の素朴な疑問。

「あ、あなた達はまだ知らなくてもいいのよ。それよりもほら、私の分は考えなくてもいいからもっと食べなさい」

「はーい」「うん!」


女の顔から母の顔へと必死に戻し、取り繕う母親。

ドモンはあんなスケベな会話をしていたというのに、魔物達全員の問題で、それにより命を落とす者が後を絶たないと聞き、真剣な顔をして何かを思案していた。

その横顔を見て、また女の顔に戻ってしまった母親と顔を赤くするサン。


「仕方ない。なんとかしてやるか」ポンと右膝を叩いて立ち上がったドモン。

「そんな!奥様方や子供達もいますし・・・お情けで慰めていただけるのであれば喜ばしいことですけど、体の火照りを冷ますくらいなら今までもひとりでどうにか・・・」

「何を勘違いしてんだよ。歯のことだよ歯のこと!まあそっちもなんとかして欲しいなら手伝ってやらないこともないけど。ほらよ」

「オッホォォォォオオオ!?」


座っていた母親の服の中に、上からズボッと右手を突っ込んだドモン。

ガクガクと体を揺らしながら母親がサンの方へと倒れたのとほぼ同時くらいに、ドモンはナナの手によって成敗された。




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