第512話
「アハハ!ねえドモン様ってスケベなの?」
「ドモン様って毎日おっぱい吸わないと死んじゃうの?」
道の駅の裏手に、隠れるように建っていた大きな建物。二階建てのログハウス風。
話を聞けば、やはりオークキングがここに用意させていたとのこと。
ドモン達はその建物に招かれ、ゴブリン達と談笑。ギド達はまだあちこち見て回りたいと道の駅を散策中。
姉の後ろに隠れていた小さなゴブリン達は、徐々にドモン達に慣れ始め、床に座っているナナ達に抱きつきながらドモンに質問を次々と投げつけていた。
「こんなお綺麗な方々を妻として娶っているというのに、信じられない!私を犯そうとしていただなんて!」ドモンと向かい合う姉ゴブリン。
「ひ、人聞きが悪いな。ちょっと胸を揉んで指だけ入れてみようと思っただけなのに」
「どこに?!ヤダもう変態!スケベジジイ気持ち悪い!!私もお母さんと一緒に逃げればよかった!!折角・・・」
「え?お母さんもいるの?イヒヒ。まだ遠くには行っていないはずだな。それとも二階に隠れているのかな?」
「勘弁してください!」「やめてぇ!」「駄目よドモン!」「メッ!」「ドモン様!!」
ヨイショと立ち上がろうとしたドモンを全力で阻止。
二階のクローゼットの中でその会話を聞いていたゴブリン達の母は、両手を合わせ神に祈りながら震えていた。
小さな子供達はそんなこともお構いなく、普段怖い姉が狼狽えているのがただただ楽しい。
気がつけば大人達に混ざってドモンを止めるふりをして抱きつき、そのまま床に押し倒してみんなでドモンに馬乗り。
「重いってば!降参だ。それに顔の上に座ってるのは誰だ?う~ん幼女の香り・・・じゃなかった、サンと同じ匂いがする」
「あなた達早くどきなさい!最っ低!お母さんのみならず!!人間のクズよ!!」「うー!」怒る姉とサン。
ナナのお仕置きにより、ドモンのHPは残り1。
それでも懲りずにドモンに抱きつく子供達。
「ねえドモン様って私達の夢を叶えに来たって本当?」
「うーんどうかなぁ?少しくらいならその手伝いはしてやりたいと思ってるけど」
「攻撃魔法は使えないけど、お料理の魔法が使えるって僕聞いたよ」
「魔法は使えないよ。でも美味しいものなら作ってあげられるぞ」
「やった!」「ホント?!」
「作る時間があればな」
「やっぱり走れないの?しょうがいしゃ?っていうやつだから?」
「そうだよ」
「へー可哀想。俺走るの大好き!山まで止まらないで走れるよ」
「ドモン様は悪魔の子なんでしょ?」
「誰が悪魔の子だ誰が」
「イテ!頭叩かないでよぅ~!」
「それは俺の世界ではツッコミと言うんだ。怒って叩いたわけではない」
子供の頭に遠慮の二文字はない。
青年ゴブリンはオロオロとし続け、姉の方は憮然とした表情のまま。
「とにかく今日はここにお泊まりくださいませっ!折角食事も用意したんだから、さっさと食べたら?さ!私達は棲家に戻るわよ」
姉の言葉にピタリと子供らの声が止む。その表情はどこか寂しそう。
青年ゴブリンは階段を上り、母親を迎えに行った。
「まあごちそうじゃない!大歓迎ねドモン!」テーブルに並ぶ料理を見てナナは目を輝かせる。
「ああそうだな。でも残念だけど今日は俺達みんなお腹がいっぱいなんだ。悪いけどみんなが代わりに食べてくれないか?」ポンと叩いたお腹がタイミング悪く「ぐぅ~」と音を鳴らした。
「何言ってんのよ?!さっきあんたお腹す・・・」
「お腹いっぱいだよな?それに今日はサンと車の中のベッドでスケベするって約束しちゃったんだ。だから今日はこのまま戻るよ。な?サン」「は、はい」
そう言ってドモンがナナの口に指を立てると、ゴブリンの子供達はなんだかもじもじ。
キョトンとした顔の姉と、丁度階段を下りてきた青年と母親に別れを告げ、ドモン達は車へと戻っていった。
「ねえどうして食べないのよ!せっかくあんな料理を用意してくれたってのにぃ!お腹も空いて死にそうよ私」と車に戻る道すがら、ナナも盛大にお腹を鳴らす。
「悪かったってば」「察しが悪いですわねナナ。私達を見つけてから、あのような食事を用意する時間がありまして?」我慢できずにシンシアが横から口を挟む。
「どういうことよ・・・」
「恐らく誰かのお祝いをしようとしてたところだったんだよ。年配好みのあの料理だったら、母親かなんかの誕生日祝いでもしようとしてたんじゃないか?綺麗な服着ていたし、あの姉貴も『折角』って言って悲しい目をしてたしな」
結局ドモンがナナに説明。
正直シンシアはそこまで考えてはいなかった。
「じゃあオークキングさんが用意したあの家は?嘘だったの?」
「それは本当に用意してくれたんだと思うよ。ただ普段の管理をゴブリン達に任せてたんだろ。掃除も行き届いていたし、庭も草刈りをしてきれいに整えられていたしな。俺らが来たら家を空ける条件で住んでいたけど、たまたま今日が一番都合の悪い日だったんだよ。多分な」
「だから子供らも寂しい顔してたのね。てっきりドモンとお別れするのが寂しいのかと思っちゃった」
「そうだったら嬉しいけどな。でもあの姉貴の不貞腐れた態度には違和感もあったし。あいつきっと本来すごく優しい性格なんだと思うよ。子供らや母親を守ろうとしてただろ」
「優しいからお祝いを邪魔されて怒ってたのかもしれないわね。納得したわ。あー納得したらもっとお腹すいちゃった」
ドモン達は休憩所の建物には寄らず、そのまま自動車へ。
見た目は道の駅風ではあるけれど、残念ながら元の世界のように美味しい食事などは用意されてはいない。
あくまで雨風をしのいで寝られるだけだ。
「ドモン様!ドモン様!お待ち下さいドモン様!」「ドモン様ー」「ドモン様!!」
ドモン達が振り向くと、そこには駆け寄るゴブリン達の母親と子供達、その少し後ろに気まずそうな顔の姉と、申し訳無さそうな顔の青年がついてきていた。
「私が誤解しておりました!ドモン様のあらぬ噂を信じてしまい、間違いをおオホォ両方の先っぽぉぉおおん?!?」
ドモンに胸をツンとされ、人々が集まる広場でとんでもない声を上げてしまったゴブリンの母親。
ナナにより退治されたドモンはゴブリンの青年の背中に担がれて、ゴブリン達の家に戻ることになった。
また温泉で意識を失ってしまい、今度は顔面から硬い床に顔を打ち付け、鼻を折ってしまった。
これで意識失うの三連続なんだけど・・・(笑)




