第508話
「あ、ドモンさんだ!」「ドモンこっちこっち!」「ねえドモンさん見て!」
カールを含む視察団一行は、ついに最上階のレストラン階へ。
途中途中の階で様々な買い物をし、すっかり散財してしまったカール。
お付きの侍女や騎士達が山程の荷物を嬉しそうに抱え、その後ろをついて歩く。
もちろんそれは他の王族達も一緒で、なんだかドモンは修学旅行の引率の先生になった気分。
そんなドモンに話しかけてきたのは、このビルに住んでいる雪玉をぶつけ合った子供達。
お小遣いを貰って、この階にある子供用のスマートボールで遊んでいた。
最上階からの景色も気になるが、子供らが遊ぶスマートボールも気になる様子のカール。
「子供達が遊ぶあの機械は何なのだ?」
「知らぬのかカルロスよ。あれはスマートボールと呼ばれるもので・・・」
ドモンに聞いたはずのカールだったが、ドモンが子供達に呼ばれて行ってしまったため、義父が代わりに説明をした。
ただし説明をされたところで、何がなんだかさっぱりとわからない。
実際にドモンと子供らのところまで行き、カールは遊ぶ様子を覗き見た。
「絶対にそこ入れてよね!あとひとつなんだから!」「ドモンならやれるよ!前も一発で入れてたもん」
「ここが一番難しい穴だからなぁ。逆にここさえ先に入っていれば簡単なんだけど」
残り三球。慎重にバネの調節をして弾き出すも、惜しくも球は狙いの穴の真横を通過。落胆する子供達。
カールはその様子を目を丸くしながら見つめていた。
「なんだよドモンさん!駄目じゃないか!」「あーあ」
「だーからここは難しいんだってば。カールもほら、ちょっとやってみるか?」
「う、うむ」
「・・・・」「・・・・」「・・・・」「・・・・」
突如やってきた偉そうなおじさんに、子供達は緊張の面持ち。
貴族だけど友達だから平気だよとドモンが説明し、少し安心して子供達も近づいた。
「この棒を引いて飛ばせばよいのだな?」
「そうそう。この穴を狙うんだぞ?」
「うむ」
真剣に遊んでいるカールの姿が珍しく、義父やトッポ、他の王族達や侍女や騎士達まで周りに集まり様子をうかがい始める。
やや緊張していたカールだったが、そんな状況にますます緊張が高まってしまった。
勢いよく打ち出された球は一番奥の釘まで飛んでいき、それに跳ね返され、狙いとは真逆の明後日の方向へ。
そのあまりの期待外れな結果に、思わず子供達から大きな溜め息が漏れた。
カールを指を差して「ブフフ!」と笑うナナと、堪えきれずに「ぷっぴぃ!」と吹き出してしまったサン。
「なんと情けないのだカルロスよ。これは子供用のもので、大人用のものよりも余程簡単になっておるというのに」義父もがっかり。
「お、大人用のものまであるのですね。初めて故に勝手が分からず・・・」
「まったく・・・どれ私にやらせてみろ。こんなものは精神統一してだな、これをこうして・・・」
カールに代わって最後の一球を弾いた義父。
まるで再現映像を再生したのではないかというくらい、カールと同じ道筋を辿る球。
「ああ~!」「あー僕がやれば良かった」「あとひとつだったのに・・・」悲しむ子供達。
「なによ、おじいちゃんもヘッタクソじゃない!アハハハ!!」カールの時よりも笑うナナ。
「ぬうっ!誰か両替をしてこい!!今すぐにだ!!」懐から金貨を出した義父。
「ジジイ、一回銅貨十枚の遊びを何回やる気なんだよ。そもそもジジイがいくら出したって、子供達が自分の小遣いで辿り着いたさっきの気持ちは、もう戻っては来ないんだぞ」
「く・・・すまぬ皆の者よ」
ドモンに諌められ、肩を落とした義父。
子供達は王族と貴族が落胆する様子が面白くて、正直景品が貰えなかったことなどはもうどうでもいい。
結局ドモンからの提案で、義父が子供達に銅貨を三十枚ずつ渡しその場でお別れ。元気にお礼を言う子供達に大人達もニッコリ。
「貴様らのせいで恥をかいたわ」義父はドモンとカールに八つ当たり。
「も、申し訳ありません」「なんで俺のせいなんだよクソジジイ!横暴だ横暴!お前らがスマートボール下手くそなだけだろ」
「ぐぬぬ、此奴め・・・!」
素直に謝るカールと文句を垂れ流すドモン。
ふたり似た者同士ではあるが、育ちの違いはやはり明らか。特にドモンは年上を敬うということを知らない。
「では今夜、スマートボールの店も貸し切りにしておけ!銭湯のあと、誰が一番かを知らしめてくれるわ!」息巻く義父。
「へ?銭湯とスマートボール?え、今夜??もしかしてジジイはこっちに泊まる気でいるのか?」
「当然であろう。色街のあの宿はすでに押さえておるのだからな」
「うむ」「ええ」「もちろんですわ」
「え?!他のみんなも???」
先日一度泊まり、すでに味をしめている一行は、今度もそれが当然とばかりにラブホテルを予約済み。
そんなことは全く知らなかったドモン達とカールも呆然。
「カルロスの部屋も当然手配しておるぞ」
「は、はい・・・」
屋敷の子供らに王都のお土産や、王宮での土産話を期待されていたカールだったが、結局王宮どころか王都に入ることもなく、ラブホテルに泊まって帰る予定となってしまった。
だがドモンという一番の土産を持ち帰ることが出来るのだけは幸運であった。




