第506話
しばらくぶりに会ったドモンの様子がおかしいことに気がついていたカールだったが、ドモンが体を綺麗にしている間義父に事情を聞き、殴りつけてしまったことを深く後悔した。
以前ならば殴ったとしても、床に頭を打ち付けるほど倒れたりはしなかった。
頭に血が上っている時は気が付かなかったが、今よく考えてみれば、ドモンは以前よりも一回り小さく思える。
「あれでも少し前よりかは元気になった方なのよ」とナナに聞かされ、カールは震えた。
そんなやり取りを見ていたトッポと義父を除いた他国の王族達は、ドモン達を気遣い、オープンしたビルの見学へ。
護衛にオーガやオーク達もついていった。
「急にどうしたんだよカール。あんなに殴っておいて今更。まあ、ああしなければ収拾もつかなかっただろうから仕方なかったんだろうけどさ」ドモンはヤレヤレのポーズ。
「それはそうではあるが・・・ここで一体何があったというのだ?なぜそんなにも弱ってしまったのだ?」
「まあ俺もカールの歳に追いついちゃったからな。体も弱るってもんさ」
「・・・・」
抱きしめたドモンに、生気が全く感じられなかったカール。
死ぬ間際の父親でも、今のドモンよりはマシだった。
「それにしてもみんなのせいで、俺はもううんち漏らしの人として生きていかなければならなくなったんだぞ。どうしてくれる!」暗い雰囲気に耐えきれず、とりあえず話題を変えたドモン。
「だって、あんなに頭から血を流してたら、うんちがどうのなんて言ってる場合じゃないと思うでしょ!」正論をぶつけるナナ。
「俺が平気だって言ったら平気なの!実際自力ですぐに歩いて去っただろ」
「そりゃそうだけど・・・ドモンはいつも無茶するからよ。でもドモンのあの顔ときたらプププ」
体は弱っても、ドモンの怪我への強さだけは変わらない。
これは悪魔的な力などではなく、今まで数々の怪我を乗り越えたことにより、痛みへの耐性を身につけたからだ。
頭を床にぶつけた瞬間、ドモンは痛いと思うよりも先に「まあ30くらいかな?」と考えた。
死を意識し始める数値は80以上。つまりドモンにとって30は、他人から見てどんなに酷い怪我だとしても「平気」なのだ。
本人の知らぬうちに、その魂と引き換えているのだけれども。
「一度戻って療養してはどうだ?それにサンとの披露宴を子供らも楽しみにしておるのだぞ?」
「うーんまあでも・・・こうして家も持ったし、新しく店も構えたんだ。いきなりそれをほっぽり出すわけにも行かないしなぁ」
カールとドモンのやり取りを、リビングの長椅子に座って見つめるトッポと義父。
ドモンのそばに居て、徐々に弱っているとは思ってはいたが、久々にあったカールが困惑するほど状態が悪化しているとは思わず、激しく動揺した。
ナナとシンシアは変な話になるが、ドモンのスケベ具合の変化によって気がついていた。
そしてドモンの変化を一番に感じていたのは、今ドモンの汚れ物を洗濯しているサン。
ドモンが漏らしたのはこの時だけではない。それに嘔吐や吐血でドモンが汚した時も、サンがこっそりと処理をしていたのだ。ドモンに秘密にするように頼まれながら・・・。
「今は自動車もあるのだから、そこまで危険な長旅にもならぬだろう。温泉宿も出来たのだ。貴様が言うアカスリ施設や、混浴も・・・」
「仕事が一段落ついたら行こうか。宿の出来も気になるしな」ドモン、即答である。
「・・・・」「・・・・」「・・・・」「・・・・」
その後の結果から言えば、今回のドモンの失態により常連客以外の新規の客はつかず、コンサルタント会社は閑古鳥が鳴くことに。
ほとぼりが冷めるまで休業することになり、無事ドモンの里帰りは実現することになる。
洗濯をしていたサンが戻り一段落ついたところで、ドモン達も先に行った視察団と合流。
人数制限のおかげで、建物内は人でギュウギュウ詰めにはなっていなかったが、それでも興奮した人々達のせいもあって、ものすごい熱気。
もちろんその興奮した人々の中には、先に視察していた王族達も含まれている。
「おおドモン殿見てくだされ!見たこともない果実と香辛料がこんなにも!ここは宝の山ですな!」とシンシアの父。
「もうお父様!はしゃいでしまって恥ずかしい。それにこの店もドモン様が関わっているのですから、すべて知っていますわ」母と一緒にヤレヤレのシンシア。
「ちょ、ちょっと待つのだドモンよ!あ、あれはまさか・・・」何かの店を見つけ、愕然とするカール。
「ああ、まだ種類は少ないけれど、ようやく店頭に並べることに成功したんだよ。まだまだお試し段階だけどな」とドモン。
カールは目を輝かせ店頭まで駆けていき、呆然とそこに並ぶ商品を見つめた。
このビルも当然のことながら、この店の存在によって、ドモンがどれだけこの世界にとって重要なのかを改めて知ることになった。
前回うっかり話数間違い(訂正済み)
そして今回の「まあ30くらいかな?」というのも、先日頭をぶつけた時の実話。
「イテッ!」と叫べる範囲は10以下。骨折が20くらい。




