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第500話

「まだエルフの森だか探してんの?わたしその辺ウロウロしてるからね?」とナナ。

「あ、ああ」


西側の望遠鏡に居座り、何度もサンからお金を貰って望遠鏡を覗き込んでいるドモン。

時間になる度に「サン!早く!!」とせかして、サンがせっせとお金を追加。

銅貨が足りなくなってしまったのでドモンが覗き込んでいる間に、フロア中央付近にある子供用スマートボールの両替機で銀貨を両替。


ナナはもう風景を見るのも飽きてしまい、サンについていって、そのスマートボールで遊び始めていた。


「やはりエルフの森のことが気になるのですか?御主人様」

「う、うん。そりゃ気になるよ、こりゃどうにも・・・」

「先ほどエルフの方から頂戴したお薬で、御主人様の顔色も随分と良くなったように思えます。そ、その・・・久々にお元気になられたというかそのぅ~・・・気持ちに余裕ができたような」

「ああ、確かに。スケベな気持ちにもならないほど体が辛かったのが、なんだか急にムラムラしちゃって、ついなハハハ」


あの少量の薬でここまで劇的に治るというのなら、エルフの森に行けば、もっと効果のある薬があるのかもしれないとサンは考えた。

そしてドモンもきっと同じ考えなのだろうと思い、そう聞いたのだ。


毎日のようにされていたスケベなイタズラも今ではすっかりご無沙汰で、サンは心配でたまらなかった。

この日久々にイタズラをされて、少しだけホッとしたのとともに、久々すぎて妙な声が出たのが恥ずかしい。


「奥様に叩かれたお尻、痛くはないですか?」望遠鏡を覗き込んでいるドモンのお尻を優しく擦るサン。

「そりゃまだ痛いけど・・・ちょ、ちょっとサン、今そんなにお尻を触られたら・・・」

「ウフフ!さっきの仕返しです」

「こんなの見てる時にその辺触られたら、違うのが元気になっちゃうってば」

「え???」


ちょっとだけ前かがみになっているドモンを押しのけ、踏み台を置いてサンが望遠鏡を覗く。


「あぁ~もう~・・・なんてものを見ていたんですか!こんなの覗いちゃダメです!メッ!」

「サンだって覗いてるから共犯者だよ。それにしてもすげぇだろ。昼間だってのにものすごい勢いで腰を振って」

「そ、それはそうですけどぅ~・・ずっとこんなものを見ていただなんて」サン、更に少しだけ拡大することに成功。


まだ肌寒さが残るというのに窓を全開にして、若い男女が何故か裸でなにかの運動しているのが見えていた。

四階という高さに油断したのだろう。

時間切れとなり、慌てて銅貨を十枚追加投入するサン。


「サン、代わってよそろそろ」

「もう少し!もう少しだけ!今窓際の方へやってきて・・・あぁなんて大胆なことを!」

「エルフの森は見つかったの?私にも見せてよ」

「ひぃ!」「うわっ!」


突然戻ってきたナナが、サンを押しのけ望遠鏡を覗き「なるほどね」と冷たくひと言。

ドモンとサンは顔を見合わせ、一度うんと頷いてからナナのお仕置きを覚悟。


カチャンという音が鳴り、望遠鏡は時間切れ。そしてナナはそっと十枚の銅貨を追加投入。

結局最後は三人並んで覗き大会。当然犯罪である。


そんな楽しい時間も、やってきたトッポとシンシアにこっぴどく怒られすぐに終了。

先程まで『やはりドモンは最上階付近に住むべきでは?』と皆で議論していたが、この事もあり、やはり住むのは二階で確定した。



それから数日後、元いた住民達が帰ってきた。


居住スペースは11階から19階までなので、エレベーターを使用して荷物を運び入れなければならず、引っ越しは一日に7~8家族程度が限度。


「な、なんて眺めだ・・・良いのか・・・王城よりも高い位置に住むなんて」ベランダ付きの窓からの風景に驚く夫。

「いいんだよ。その王様からもきちんと許可取ってるしな」

「し、しかも家賃がいらないだなんて本当なのかい??あたしゃ信じられないよ」何度か部屋を下見もしたというのに、まだ実感が湧かない奥さん。

「大丈夫だよ。それよりも・・・・」


ワーイと部屋の中を走り回る子供の声がする中、ドモンはその場に土下座した。

目に涙を浮かべながら。

膝が悪いので相変わらず不格好な土下座。こんな姿をナナ達には見られたくはなかったので、付き添いも断っていた。


「すまなかった!俺のせいで思い出の家を手放すことになってしまって・・・なんと詫びれば良いのやら、まるで見当もつかない酷いことをしてしまった」

「やめてくださいドモンさん!俺達の方こそあんたが仕組んだことだと勘違いをしちまって。あんたは悪くないし、もう恨むどころか感謝してるよ」

「そう言ってもらえると少しは気持ちが救われるけど・・・」


ドモンは自分も小さな頃に、同じ目にあったことをこの家族に話した。


「そうだったんですかい・・・」

「ねえお父さんお母さん見て!ここにあるやつって、僕の身長が書いてある柱だよ!」

「まあ!」「なんだって?!」


押し入れの柱のひとつだけ、取り壊した家から持ってきていた柱へと取り替えてあり、家族は大いに喜んだ。


ドモンが昔住んでいた家の夢を見る時にいつも出てくるのは、自分の身長を刻んだ柱、夏休みの工作を作ったテーブル、宝物を隠した物置、雨の中を走る車を見ていた窓などだった。

住んでいた時は何も思わなかったが、家を失った時に初めて、それがどんなに尊いものだったかを知った。

なのでドモンはみんなの家が取り壊しになる前に、出来る限りみんなの思い出を残し、なんとか現在の家に組み入れたのだ。


「おじさんありがとう!」息子は満面の笑み。

「おじさんじゃなくお兄さ・・・おじさんかやっぱりハハハ」



この日から10日ほど、このような謝罪をドモンはひとりでこなし、連絡のついた家族の殆どを迎え入れることに成功した。

だがしかし、全ての家族を迎え入れることが出来なかった時点で、ドモンにとってはやはり失敗であった。



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