第495話
翌朝一行は、ビル内で指揮を取るギドの元へ。
ドモンがエレベーターの最終チェックを行う予定だったが、急遽トッポも来るということになり、「王様にもしものことがあってはならねぇ」とギドの兄が試運転を買って出て、何度も何度も上へ下へと移動していた。
落下の危険を考えれば、丈夫なオーガが乗ればいい話なのだけれども、オーガには耐えられて人間には耐えられない振動などがあっては困ると、ギドの兄が自ら飛び込んだのだ。
流石のギドも止めたのだけれど、「俺の弟に失敗なんてあるはずがねぇ」と一番に乗り込んで上へと上がり、一階へと戻ってきた時には「そ、そら見ろ平気だ。ギドは天才なんだ」と膝をガックガクに震わせていたらしい。
今は何人まで耐えられるかの耐久テストをオーガ達としているとのこと。
「定員は30名としてますが、まあ百人乗っても平気なんですけどね。万が一紐が切れたとしても、その瞬間その場で停止するように設計しています。実際に切ってみる実験もしましたし」
車のスピードメーターのような形で出来ている階数表示を見つめながら、ドモン達に説明をするギド。
ただそう説明しているギドは、あまり浮かない顔。
「現在の私達の技術では、これが精一杯でした。エレベーター制御のための鋼の線が、これ以上細く出来なかったのです。それに二十階ともなると制御のための線が膨大になり、その重量だけでこのビルが崩壊してしまいます」
結局、現時点では物理的に、6~7階までのエレベーターが精一杯。
二十階建ての一番上に行くまでに、二回の乗り換えが必要となってしまった。
「この点は僕の力不足です」残念そうに項垂れたギド。
「十分じゃないですか!しかもこれを自動で動かすなんて!」ドアが開いてみんなが戻ってくる度、トッポは大興奮。
「そうだよ。俺も最初にその仕組みを聞いた時には、一番上と下だけ繋ぐ程度か、その真ん中の十階辺りで一度止まるくらいだろうなって思ってたもの」とドモン。
電子制御無しでこれをやってのけたのだから、ギドはやはりとんでもない大天才である。
ついこの前モーターが出来たばかりなのに、そこから約半年でここまで来てしまったのだ。
「しかし今回の経験で、先生の言うシーケンス制御というものの入り口くらいはわかったつもりです。帰ったらそれを利用して作りたい物がいくつもあって、もう居ても立ってもいられません」
「そうか。頑張れよ」
「はい先生!」
目をギラギラと輝かせるギド。
作りたい物のアイデアを書いたノートは、もう十冊を超えていた。
「ついでにもうひとつ作ってもらいたい物があるんだけど、ゴニョゴニョゴニョ・・・」みんなの目を盗んでドモンがギドに耳打ち。
「ハァ・・・それならばすぐに出来ると思いますよ?帰る前に作ってお渡しします。でもそんな物、一体何に使うのでしょう?」
「最近体力がないから・・・ゴニョゴニョ・・・夜にゴニョニョ・・・」
「!!!!!・・・・では、自動車の窓に使った樹脂で作った方が傷もつけずに済むので良いですね・・・」
身振り手振りで、長さや太さや動きの説明をするドモン。
「ふたりともなんの話~?そろそろエレベーター乗ろうよ」ナナがタイミング悪く駆け寄ってきた。
「ああ今行くよ」「ななななんでもありません!!ああ、神様ごめんなさい・・・」
ドモンとギドが誤魔化しながらエレベーターのドアの前に行くと、タイミングよくドアが開き、ぞろぞろとギドの兄とオーガ達が降りてきた。
「最終点検終了だ。みんな安心して乗ってくれ。これが俺の弟の最高傑作だ!」と兄。
「私ボタン押すボタン押す!」
「僕にもやらせてください!僕は王様ですよ!」
「ずるいですわよ、ふたりとも!サン乗りますわよ」「はい!」
我先にと乗り込む一同。
その様子を見ているギドと兄。
「兄さん・・・あとでちょっと頼みがあるんだ」
「ああ、なんでも言ってみろ。俺に出来ることなら何だってやるぞ!」
「あの・・・今晩、例の大人の店に一緒に行ってほしいんだ」
「え?!とうとうギドも女に興味が湧いたのか?!ハハハ」
「いやそうじゃなくて、兄さんに興奮してもらいたいというか、興奮してる時の立派なアレの寸法を測りたいというか・・・」
「???」
ドモンから依頼された怪しげな道具を作るため、ギドの兄は弟に対し、とんでもない生き恥をかくことが決定した。
ただドモンとしては悪ふざけで頼んだわけでもなく、ナナ達に夜寂しい思いをさせたくないと真剣に考えてのことだった。
たくさんの女性達を泣かせ、あれだけ暴れ回っていたスケベ大王が、ついに限界を迎えた。
そのお陰でその後、世の中の女性達を喜ばせる道具が出来たのは、なんとも皮肉な話である。




