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第493話

2月も終わりに近づき、暖かな日も増えて、少しずつ雪も解け始めてきた。

いつもならば物資不足で食材の価格も高騰し、切羽詰まった生活を強いられる家庭も多いはずが、この度の冬は本当に除雪車と新型馬車が大活躍で、南国からの食料が大量に運び込まれたために、皆が余裕を持って冬を越すことが出来た。


ドモンがその変化を知ったのは、体の調子を崩して医者の元へと行った時のこと。

果物や野菜不足による栄養失調がなくなり、患者が激減していると聞いたためだ。


「この時期はただの風邪さえも命取りになるんじゃよ」とかなり年配の医者。

「ナナ・・・嫁に聞いたよ。ろくに栄養も取れないから、冬なんか痩せて当たり前だったって」病院のベッドで上半身裸になり、寝転がるドモン。

「異世界人のお前さんには信じられないじゃろうが、病気の子供に果物ひとつ与えるため、命懸けで南国へ旅立つ父親もいたんじゃよ」

「それも聞いたよ。結局旦那が帰ってこずに子供も亡くなってしまったって奥さんから・・・」


ドモンが来たこの異世界の時代背景は、元の世界の中世ヨーロッパに近いものであったが、異世界小説物にあるような呑気な世界観ではなく、病気が即死に直結するような世界であった。

実際にジャックの母親もそうであったし、向こうの街の例の医者からも話は聞いている。


「虫歯の治療に失敗して死んじまったんだってよ」

「そりゃ運がなかったな」


飲み屋でその話を聞いたドモンはゾッとした。

この世界では虫歯になった時、元の世界の中世と同じように、歯を引っこ抜く職人に依頼して歯を抜いていたのだ。

そこから雑菌が入り、しばしば死ぬことがあったとのこと。


この世界にも老人はいるけれど、元の世界に比べれば圧倒的に少ない人数。

詳しい数値はわからないが、明らかに平均寿命は元の世界よりも短く、「そりゃあ結婚相手にこんなおじさん連れてきたら、ヨハンやエリーも心配するよなぁ」とドモンも同情するほど。

ドモンは先日50になったが、この世界の平均寿命は恐らく60にも満たない。


それがこの冬を境に変化した。


冬だというのに通りは賑わい、たくさんの食料が売られ、冬の娯楽を楽しむ余裕も生まれた。

食事を楽しむ者、ビルの完成を楽しみにする者、美を磨く者やスケベな大人の店で楽しむ者、一日の疲れをサウナで癒やす者などで、街は笑顔にあふれていた。


こんな生活を与えてくれた国王と、除雪車や新型馬車と作ったギドや大工や鍛冶屋達は、今や英雄とも呼ばれ神格化されている。


それがドモンの功績であることはドモン本人が常に否定しているので、一部の親しい者以外にはほぼ知られていない。

ここしばらく通い続けているこの医者は、全てを知っているけれども。


「う~んお前さん、少しは酒とタバコの量は減らしたのかね?また体の状態が悪化しておるぞ」

「・・・減らしてるよ」

「その様子では減らしとらんようじゃな。出した薬は飲んでおるのか?」

「ああ、薬は飲んでるよ。面倒だから一日分を朝ごはん代わりにまとめて飲んじゃってるけど」

「バ、バカモンが!薬も飲み方によっては毒にもなるんじゃぞ!」


薬草をすり潰して乾燥させたものをドモンは貰っていたのだが、一回分が小分けにされているわけではなく、小さな壺にまとめて入っていた。

はじめは真面目に飲んでいたけれど、いちいち食後にスプーン一杯分を量るのが億劫となり、毎日スプーン三杯分を水に溶かして『濃いめの青汁』として飲んでいたのだった。


「そんなに怒るなよ。一度に多めの野菜を食べているようなもんだろ」

「野菜と薬草を一緒にするでない!ハァ・・・」


医者が怒るのも無理はない。

先程確認したドモンのステータスはこれだった。



レベル 50

職業 遊び人

HP 7/12

MP 0/0

属性 なし

スキル なし

状態 毒



「体の調子が悪い」と、初めてここに来た時の最大HPが24。

そこから来る度に減り続け、現在はこの状態。そして何を試しても毒が消えない。


付き添ったナナは、診察室の外の廊下で放心状態。

そばでは取り乱したサンをシンシアが必死に落ち着かせている。


「これはもう入院をしてもらうしか・・・」

「やだやだ!入院なんかやだよ。スケベもしづらいし。折角あのビルももうすぐ完成だというのに」

「この状態では仕方なかろう。万が一があってからでは遅いからの」

「嫌だってば!さささ、今日はこんなとこでもう帰るわ!」

「ま、待ちなさい!こら!まったく仕方のない・・・・薬は持っていくんじゃぞ!」


診察室から飛び出したドモンだったが、体力がない上に脚も悪いため、年老いた医者でもあっさりと追いついた。

「わかったわかった」とドモンはナナに肩を支えられながら、病院をあとにした。



自動車の中、運転席にはシンシアと助手席にはサンが座る。

トッポが自慢したことで、ライバル心に燃えたシンシアがこの冬に運転の猛練習をし、あっという間に誰よりも上手く運転ができるようになってしまったのだ。


今では車体を伸ばしたままでも、曲がりくねった王都の細い路地を通ることが出来るように。

シンシア自身も驚くほど、運転の才能を開花させたのであった。サンも今、横で運転のやり方をシンシアから勉強中。


「ねぇドモン・・・もう死んじゃうじゃない・・・」

「大丈夫だって。俺なんかいつも死ぬ死ぬ詐欺なんだから、きっと今回も死なねぇよアハハ」

「あんた一回死んでんだからね?」

「でもきちんと戻ってきたじゃねぇか」


車内のベッドに寝そべるドモンとナナ。

あのドモンがここ数週間、スケベもしていない。

実際はしようとしていたけれど、その行為の途中でHPが尽きかけてしまい、それどころではなくなってしまっていた。


寝転がったまま横にいるナナの大きな胸を鷲掴みにしようとしたが、力尽きたのか途中でドモンの腕がポトリと落ちる。


「だからきちんとお薬飲まないとダメって言ったでしょう?」

「わかったってば。ナナまであの医者みたいに」

「言うこと聞いていればきっと良くなるわよ」

「そうだな。・・・まあ俺のせいではなさそうな気もするけども」

「なんか言った?」

「いや。なんでも」


『そろそろ処分しねぇとな』あの時見た夢での言葉が、ドモンの頭をよぎる。

やるならひと思いに一発で殺してくれればいいのに、まるで排水口に詰まった髪の毛を溶かすパイプクリーナーを頭からかけられたかのように、ドモンの体を病がゆっくりと蝕んでいく。


漫画や小説で見る悪魔ならば、派手な殺し方で見せ場を作るところだろうけど、延々と苦しみを与え、ゆっくりと死を悟らせるこのやり口はあまりに残酷。


処刑ではなく、処分という言葉を使った意味がよく分かった。


ドモン達の乗った自動車が宿舎に戻ると、近々ビルの完成を見に来る予定だったトッポが、護衛のチィとミィと大勢の騎士達と共に待っていたのだが、その顔はなんとも複雑そうな顔であった。




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