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第492話

「はぁ・・・なんだかもうドモンさんのおかげで、夫婦でそういった話を気軽に出来るような気がしてきました。ね?ジロー」

「ああ、なんだか悩んでいたのが馬鹿らしくなるよ。今日はどうかな?スミレ」

「ウフフ、今夜楽しみにしているわ。寝かさないわよ?」


すっかり遠慮が無くなったラーメン屋夫妻。

まるで今までのことがなかったかのように鞘に収まった。

こうなればもう父親も出る幕がなく、水に流すしかない。可愛い孫がそれを喜んでいるのだから。


「ほら早く謝んなさい!スケベ変態おじさん!」ナナによってポイッと差し出されたドモン。

「わ、悪かったよ・・・でも話は本当なんだってば。俺の知り合いの話なだけだけど。お詫びと言っちゃなんだけど、今作っている20階建ての建物に、お前らのラーメン屋も出してみないか?きっと目玉になると思うし、何ならこちらからお願いしたいと思っていたところなんだ」

「えぇ?あの噂の建物にかい?!」と驚くラーメン屋。


只今絶賛建築中の高層ビルは王都のみならず、国中、そして世界中からの注目の的である。

たった一ヶ月と少ししか経っていないというのに、ギドの頭脳と大勢の一流職人やオーガ達の協力によって急ピッチに建設が進められ、現在は12階ほどまでの高さになっている。


そのビルを見た元住人達は、住居を用意するから戻ってきてほしいというドモンの言葉が本気なのだと知り、次々と街の方へと戻ってきていた。


「だけど俺のラーメンなんかで支払えるような家賃ではないんだろう?噂に聞いたところ、月に金貨十枚の家賃の部屋でも抽選になっていると聞いているよ」

「確かに上の方の階は金貨30枚だか40枚だかで貸し出すと、ギドやら出資した貴族やらが決めていたな」


ある程度の権限はあるものの、ドモンが出資したわけではないし、儲けるつもりもないので、あくまでも他人事。


「王家で月に金貨二百枚を出すというのに、ドモンさんに断られたんですよ」横から口を出したトッポ。

「ワタクシのお父様も同じようなことを言っておりましたわ。最上階を借り受けたいと。当然ドモン様のものですから、ワタクシの方からお断りの連絡を差し上げましたが」とシンシア。


ビルがまだ出来る前から、このビルの最上階は『天の城』と名付けられ、世界中の王家や貴族、資産家などから羨望の眼差しで見られている。

その最上階に、ビルを作ったドモン達が住むのは仕方ないにせよ、高層階の部屋は争奪戦の様相を呈しており、その結果あまりに常識外れな金額の家賃になりそうになり、ドモンがストップをかけたのだ。これから同じようなビルが建てられた時に、その価値が落ちることを見越してのことである。


そんな理由で上層階は金貨3~40枚の家賃で落ち着いたのだけれども、そんな噂を聞いていれば、下層階もある程度の家賃になることは誰にでもわかった。

なのでラーメン屋も簡単に借りるとは言えなかったのだった。


が、ドモンの答えはラーメン屋の予想から外れていた。


「いやいや、ラーメン屋から家賃を取るつもりはないよ。こっちからお願いしたんだし」

「な、なんだって?!そりゃ本当か??」


ラーメン屋からしてみれば、願ったり叶ったり。

明日から『スケベ料理人』なんてあだ名が付いたりもするんだろうなと、ほんのちょっぴりドモンを恨んでいたラーメン屋であったが、その全てが吹っ飛ぶほどの驚き。

しかしその次の言葉で、ドモンはラーメン屋だけではなく、ナナ達まで驚かせることとなった。


「そもそも俺は最上階なんかに住むつもりはないよ。最上階は最初から、飲食をするレストラン階にすると決めてたんだから。ラーメン屋の店もその最上階の予定だよ」

「えぇ?!本当ですの??」「まさか嘘でしょ?!」


ドモンの言葉にシンシアとナナもびっくり。もちろん他の一同も。

その建物を建てた者、そこを治める者がその頂上に立つ。それが当然のことだと皆考えていたし、それが常識でもあった。

王城でももちろんのこと、元の世界の城でも大抵がそういうもの。その言葉通り『人の上に立つ者』がいる場所だからだ。


「俺はヤダよ一番上なんて。威張りたくないとか謙虚にとかじゃなく、単純に忘れ物を取りに行く時くっそ面倒だろ。火事になったらまず逃げ遅れるし。自己顕示欲満たすだけのために、そんな馬鹿な選択する馬鹿にはなりたくねぇよ。だから住むなら二階でいい」

「そりゃまあ・・・脚の悪いドモンは、その方が都合がいいのでしょうけど・・・」とナナ。


「そんなに高いところに住みたいなら、山の頂上にでも住んでろっての。元の世界でも、金持ちが高い所に住んでるのを見る度に、いつも指を差してひっくり返って笑ってたぞ。高い金出してまで、不便なところでご苦労さんってさアハハ」

「・・・・」「・・・・」「・・・・」


言われてみれば確かにそうだとしか言えない一同。

トッポは特に、実際に面倒な思いをしたことが何度もあった。


「ま、最上階からの景色は食事をしに来た人達に楽しんでもらうことにして、二階は俺のコンサルタント会社の窓口と事務所兼自宅、一階はここで商売をしていた方々の店舗、三階から十階までを服屋や装飾品屋や道具屋、大人の社交場や子供らの遊び場にしようと思ってる。残りの他の階は、住宅として貸し出すつもりだよ」


ドモンが目指したのは、いわゆる複合ビルである。

同じ建物の中に、店舗や娯楽、居住スペースなどが含まれるビルであり、もちろんこの世界では異例中の異例とも言える特別なもの。


こんなものを作ろうだなんてドモンは少しも考えてはいなかったが、立ち退きにあった人々、特にその子供達の顔を見てから、ドモンの中の何かが吹っ切れてしまったのだ。



『ここまでのゲームバランスの崩壊は、流石に看過できねぇなぁ。そろそろ処分しねぇとな』



その夜、ドモンはまた悪い夢を見たが、いつもはすべて忘れるはずの悪夢の、その台詞だけがきっちりと記憶に残った。






実家の引っ越しのため、数十年使っていた仏壇の処分や買い替えなどでなかなか時間が取れず。




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