第488話
「ハァ~・・・女ってものを本当にわかってないのね、あんた達」
「他になんか深い意味でもあったのかよ」
「深い意味なんてないわ。でもね、本当に嫌いな男だったら、わざわざ女の方から近づくことなんてしないわよ」
「どういうこと?」
「男ってほんっとうに鈍いんだから!仲直りできるかどうかか、仲直りするかどうかを探っていたのよ」
「えぇ?!」「なんだそりゃ?」
ナナの言葉の真意がいまいち掴めないラーメン屋とドモン。
男二人で顔を見合わせ、首を傾げるばかり。
「そんなこと言ったって、俺なんて今も面と向かって大嫌いだと言われたぞ。別れた時にも何度も言われていたし」ラーメン屋は大困惑。
「だーかーら、わざわざ言いに来ないってば。本当に嫌だったらそんな恐ろしいことしないの」
ナナの言葉にショックを受けるラーメン屋。
「じゃ、じゃあさ、この綿菓子は一体何だったんだろ?やっぱりナナ達に同情して?俺も散々な言われようだったんだけど、嫌な人の奥さんに『じゃあ奢ってあげよう』ってならないだろ普通」
「それはどういう意味かはわからないけど、もし私だったら『主人をどうかよろしく』という挨拶代わりってくらいの意味かなぁ。直接ドモンに何か渡したり、挨拶は出来ないじゃない。旦那さんのこと気にかけてるのを悟られたくはないし」
「な、なるほど~!」
なんとなくではあるが、ドモンもようやく納得。
つまり旦那に対して嫌いと言った建前上、そこで旦那の知人に「主人をよろしく」と言うのは変なので、その奥さんの方に挨拶をしたということ。
あまりに面倒な女の本音と建前、表と裏。女心は難解なり。
「ま、とにかく今の頑張っている姿を見せることね。それでも復縁は五分五分か、それ以下だとは思うけど。こればかりは簡単に決められることじゃないの。特に子供がいる場合はね」
ナナの言葉にラーメン屋は黙って頷き、舞台裏の厨房へと戻っていった。
一同それを見送り、座り直して飲み直し。
サンとシンシアが出店を巡って、たくさんのツマミとエールを買ってきた。
「お前、若いのによくあんな事がわかるな。感心したよ。恋愛経験もあまりないんだろ?俺と会った時はまだ処女だったし」
「そういうところよ!そういうと・こ・ろ!!人の心理は読めるくせに、女心が読めないなんて最低よ!」
ダーン!とテーブルにエールの入っていたグラスを叩きつけたナナ。
褒めたつもりが怒られて、ドモンはしょんぼり。
しょんぼりついでに「小便してくる」とドモンが席を外している間、女性陣はさっきの話で大盛り上がり。
「そうですわね!」「だよねぇ」「そんなことはないですよ!」など、キャッキャとおしゃべり。
普段でも三人でいる時はこんな感じだが、この日はいつにも増して騒がしい。
女神と天使とお姫様が最前列で騒いでいれば、目立つことこの上なし。
「何を騒いでいるんですか?ドモンさんは何処へ?」
「あら?陛下じゃありませんこと」
品評会が始まる一時間半前に、トッポと護衛役のミィがやってきた。
「シーッ!お静かに。品評会が始まるまで僕も楽しもうと思っていたのです。そしたら騒いでいたあなた方を見つけて」
「じゃあほら、ここ座んなさいよ。ミィとふたりで来たの?」
「チィもいますよ。お店を見てくると言うので、ついでにおつかいも頼みました。ほらあそこに」
遠くでエール片手に、特大チキンカツの店の行列に並んでいるチィが見えた。
ミィはサンと両手をつなぎ、キャッキャウフフ。
なお、チィの体力とトッポの財力により、どう考えても食べきれないような量の食事をテーブルに並べてしまい、結局トッポの正体は周りにあっさりとバレてしまった。
それでも皆の気遣いでそっとしていてくれたので、トッポ達もお祭り気分を堪能。
ドモンが戻った頃には、全員が完全にお腹を膨らませていた。
「ど、何処行ってたのよドモン・・・ウェプ・・・遅かったじゃない。うぇぇっぷ!!」見たことがないくらいお腹がぽっこりとしてしまったナナ。
「ヒック!ドモンさんもう飲めない食べられない・・・い、いや大丈夫ですよ。自分の役目は果たしてみせま・・・すともウップ」
最近の仕事続きから開放され、完全に羽目を外したトッポ。
ほんの一時間でエールを数杯と、大量の食事をかきこんでしまい、テーブルに突っ伏していた。
チィももちろん、はしゃいでいたシンシアも同じ状態で、シンシアの命令によって食べていたサンやミィまでもう動けない状態。
「目を離した隙にお前らときたら・・・あと三十分くらいで品評会始まるんだぞ。ほらもう行け」
「わ、わかってますよ・・・うぅ、チィ、ミィ・・・ふたりとも行きますよ?大丈夫ですか?」
「無理」「は、はいすぐに」
ドモンに追い払われ、舞台の裏の控室の方へヨロヨロと向かった三人。
「あーゲップ我慢したらオナラが出そうになっちゃう・・・まあ少し出たけども。・・・いや、本当にオナラなのかなこれ」
「ちょっとナナ!おやめなさいもう!汚らしい事を・・・気持ちはわからなくはないですけれども・・・」「はい・・・」
「お前らが最後に食べた料理に俺の下剤を入れておいたからな。トイレに行くなら早めに行った方が良いぞ?女の方は混んでたから。並んでる最中に爆発させんなよ?」
「な、なんですって!?」「ドモン様?!」「はわぁ!!」
ドモンはこの場にいなかったのだから当然ドモンの冗談ではあるが、そんな事を考える余裕がない三人は、大慌てでトイレへと駆け込んでいった。
熱中症から未だ回復せず。ずっと寝てる。




