第483話
「呆れた!本当にあんたって人は!!」
「ごめんなさい・・・」
「ショボ~ン・・・じゃないわよ!忘れてたわ!あんたに病院代にと金貨持たせて、その後どうなったのかを!」
「でも今回はちょっとだけど増えたし・・・銀貨62枚くらい。わぁぁイテテ!ゴメンナサイゴメンナサイ!!」
正座したナナの膝の上で腹ばいになってお尻を叩かれながら、ドモンは大反省中。
流石のサンも、ドモンを庇う手立てが見つからない。
「それにしてもドモン様は何に散財なさいましたの?」
シンシアは意外と冷静。仕事をして稼ぐという概念がある事自体、偉いとまで思っていた。
シンシア自身もエステの手伝いはしているが、給料は貰っていない。そもそもお金を貰うどころか、支払うという考えもあまりない。
はじめの頃は、馬車に乗ったり食事をしたりするのにもお金がかかると知り、驚いていたくらいなのだ。
「い、今の家を建ててくれてる人達に奢ったり・・・自分でもお酒飲んだりで・・・」一応嘘ではない。それに対してそれほどお金は使っていないが。
「その人達に聞けばすぐに分かるのよ?それに私知ってるんだから!グギギギギ・・・・」額の青筋が更に増えたナナ。
「何を?!何をですか??」焦るドモン。
「私のお客のひとりが、何人かの女性を連れて王都を歩いてるあんたを見たって!」
「ゲェェ!!」「どういうことですの?!ドモン様!!」「御主人様!うーっ!!」
目撃者がいたことで、ついドモンは叫んでしまったが、そのせいでナナもそれが確かな情報だったと確信を得た。ドモンの大悪手。
ただ飲み歩いていただけだと信じていたサンとシンシアも驚きの声を上げた。新婚なのだから当然である。
「新しく出来た店の女の子達に、衣装を買ってあげようと思ってただけなんです。本当に」観念したドモンの言い訳タイム。
「新しく出来た店ってどこの何の店よ?言いなさい。最近ここらで新しく開店した店といえば、スケベな店しかないけど?」
「・・・ス、スケベな店の女の子達です」
「で、服だの何だのと買ってあげて、王都でスケベしてきたと」
「王都ではしないよ!あ!」
「王都『では』?」
見事にナナの誘導尋問に引っかかったドモン。
もちろん大いに反省はさせられたが、勇者と大魔法使いと一緒に、例の王都の高級店で豪遊したことまではバレずに済んでホッとしていた。
「まあお金に関しては、私やサンもある程度は貯めてはいるけど、あんたも少しは考えなさい。わかった?」
「はい・・・」
「浮気はもちろん、旅に出るまで飲み歩くのも禁止!もちろんお家でもお酒は禁止ね」
「ええ?!それは勘弁してよ!浮気はしないからお酒くらいは許して」
「だめ」
ナナによるまさかのお酒禁止令。
ナナはドモンに誘われれば飲むけれど、普段自らお酒を飲むことはあまりないので、なければないで済むタイプ。サンやシンシアも考えは一緒で、ドモンの味方はゼロ。
ドモンにとって、酒とタバコは息をするのと同じくらい必要なものなので、突然の禁止令に頭は大混乱。
「お酒を禁止されて、ようやく事の重大さがわかったようねドモン。じゃあお酒を許可するかわりにタバコを止める?」
「無理無理!どっちも無理だよ!ねえナナ、本当に謝るからさ・・・」
「もう騙されないわ。今まで何度繰り返してきたと思う?」
「今度こそ本当だから」
「だめ」
全く許す気がないナナ。
もちろんサンやシンシアのことを思ってのことだが、いつもとは違う悲壮感漂うドモンが、サンには可哀想に思えてきていた。
シンシアは嫉妬こそするけれど、自分自身もある意味ドモンの浮気によってこの立場にいられるようになったことと、王族特有の一夫多妻もあり得るといった考えがあるので、そこまでドモンを責める気にはなれなかった。
ただお酒の量を減らすのは、ドモンの健康を考えると大賛成であった。
「わ、わかった。でも有無も言わせずナナが決めるのは酷いだろ?ナナだって失敗した時に『今日からナナだけ俺の料理一ヶ月食べるの禁止』って勝手に決められたら困るだろ?」
「だからなんなのよ」ナナにとってそんなものは関係なし。
「少しだけでもいいから、俺が助かる機会を作ってくれよ!ポーカーで勝てたら許すとか・・・」
「そんなのあんたとするわけないじゃない!どうせイカサマすんだから!」
無条件で許しを請うても通るはずもないと、ドモンがこうした提案をしてみたものの、ナナはハナから勝負に乗る気はない。
「じゃ、じゃあナナが選んだカードを俺が当てられたら許してくれないか?1から5までで1枚選んで、5分の1で偶然当てられたら、今回はお咎めなしということで」
「ダメですぅ!御主人様は瞳に映ったカードを読み取れるじゃないですか!」とサン。
「く・・・」
「そうだったわ!危ない危ない!!」ブンブンと首を横に振ったナナ。
サンから思わぬ茶々が入り、あえなくドモンの作戦は失敗。
色街のボスを相手にやったドモンのトリックだが、サンはこれが大好き。
早速サンは部屋からトランプを持ってきて、説明がてらシンシアに向かってニコニコと実践をしていた。
「それじゃ、俺が先に数字を選んで紙に書いておくから、あとからナナが数字を選んでくれていいよ。それならインチキのしようがないだろ?」
「仕方ないわね。じゃあそれならいいわよ」
「ありがとうナナ!んじゃ向こうの部屋で書いてくるよ。ここで書いたらナナに覗き込まれてバレちゃうし・・・」
「そんな事しないわよ!まあいいわ、疑われるのも嫌だから、じゃあ向こうで書いてきて」
結局ドモンの心理戦に乗ったナナ。
しかし今回ばかりは、ナナも負ける気は毛頭ない。




