第478話
「うおおおお!!凄い!!欲しい!!羨ましい!!なにこれぇぇ!!」
車内に響くトッポの声。
ドモンの「危ないから座ってろ」という忠告も聞かずに、キッチンだのトイレだのと覗きまわっている。
車内には温水シャワーも完備。
温泉宿を作る際にドモンが頼んでいたもので、それがついに実現したのだ。
瞬間湯沸かし器の方もギドの助言によって更に改善され、元の世界の物と遜色のない物が出来上がっていた。
運転席にはドモン、助手席にギドの兄貴。
騎士達が広場の人々をどかし、そろりそろりと発進。
「おおお・・・ステアリングも軽くなって曲がりやすくなったけど・・・うわわ、こわっ!」
「大丈夫かい?ドモンさん」と兄。
「こんなでかい車は運転したことないもの。街の外ならまだ運転できそうだけど、街の中では無理だな俺には。小さく出来るなら小さくして欲しいんだけど」
「それなら少し待っててくれ」
ギドの兄が助手席から降り、みんながいる後部座席へ移動し、布団を片付けベッドを折りたたみ、今度は外に出てガシャンガシャンと何かをやって、「ヨイショ!」と掛け声を出した。
するとカラカラカラと音を立てながら、後方の壁が引っ込んでいき、車体はぐっと縮まった。
それでもマイクロバスほどの大きさはあるけれども、これならまだドモンでも運転ができる。
自動車はまたそろそろと出発。
「なによ情けないわねドモン!せっかく寝転がりながら乗ってみたかったのに!」とナナ。
「そうですよ!こんな機会滅多になかったのに!」トッポまで文句を言い出す始末。
「うるせぇ!仕方ないだろ!曲がる時に人でも轢いたらどうすんだよ!」
「気をつければいいじゃない。ドモンが下手くそなのよ」
「なんだとこのおっぱい!揉み潰して引きちぎって頭に乗っけるぞこの野郎!」
「運転しながらやれるもんならやってみなさい!ベーだ!ニヒヒ」
ドモンが運転でいっぱいいっぱいになっているのをいいことに、後部座席から「ほーらほーら」と挑発するナナ。
ドモンからは見えてはいないが、恐らく自分の胸を持って何かをやっているのだろうということは容易にわかった。
「くっそ覚えてろよ!おいギド!後ろに座ってる奴のおっぱいを、遠くから揉める道具を早く作ってくれ」車はようやく街の中を抜けた。
「アハハそんなもの出来ませんよ。ん?タイヤに使ったこの樹脂を筒状にして、中にいくつかのワイヤーを通せば可能かもしれませんね」頭の中に設計図が浮かんだギド。
「ちょっとちょっと!!何バカな物作ろうとしてんのよ!!」ナナは慌てて両手で胸を隠した。
街の郊外まで出て、ようやく緊張が抜けたドモン。
「向こうの世界にあったんだよ、そんなのが。手元のスイッチをいじるだけで、遠隔操作で女にスケベなことしちゃう道具でさ、買い物や散歩している最中に、急に気持ちよくされて辱められてしまうんだ」
「なによその道具!!誰がそんなの使うのよ!変なの!!ね?サン」
「あ、は、はい・・・」「・・・・」
ナナにいきなり同意を求められて慌てるサンと、明らかに口数が減ったシンシア。
実は以前ドモンからその話を聞いていて、その道具・・・というよりおもちゃも買ってきたとドモンが言うので、ふたりでこっそり試したいとドモンに懇願したことがあったのだ。
残念ながらそのおもちゃは、カールの屋敷の荷物の中に置いてきてしまったのと、電池が勿体ないということで、ふたりの要望は却下されていたのだ。
ただただ18歳未満禁止な話を続けていたドモンだったが、ギドは随分と難しい顔をしていた。
「異世界の技術はやはり進んでいるのですね、先生」
「そりゃまあ、この世界に比べるとどうしてもな。特に前に言っていた電気の力・・・つまり雷の力が色々な物の動力として使われているのと、電波という波形にして遠くまで飛ばせたり、逆に受け取れたりするというのが便利なんだよ」
「頂いた本も読みましたが、完全に仕組みを理解するまでには至りませんでした・・・電気についてや、電波信号の受信などについての仕組みは理解できましたが、それを行うための電気回路などがわかりませんでした。それが理解できたなら、エレベーターの制御も・・・」
ドモンにそう答えながら、ギドはまた更に難しい顔。
何かが掴めそうで掴めないそのもどかしさと、それが出来ない自分への苛立ちとが混ざり合う。
「わからないのも仕方ないよ。その電気がないんだし」ドモンもようやく運転に慣れてきた。
「元から電気を利用していた環境だったら、僕も先生の居た異世界のような技術を身につけていたんでしょうか?」
ギドはドモンと電波の話をした時に、ドモンの持つスマホを見せられて、度肝を抜かれていた。
それが自信を失った原因のひとつでもある。
「ん~そうだなぁ。ギドが身につけられていたかどうかはわからないけれど、もっとこの世界の技術や科学は発展してたような気がするな」
「なぜそう考える」と義父も横から口を開いた。
「電気がどうとかよりも、魔法が便利すぎるんだよこの世界は。それが成長の邪魔をしてる気がするよ」
「・・・・」
「火起こし競争をやった時も魔法を禁止したらオロオロしたり、水も地下水などがなければ、魔法でなんとかすればいいという考えだしな。苦労して知恵を絞る必要がなかったんだ」
「なるほど」返事をしたのは義父だったが、皆同じ気持ち。
「反対に俺らの世界は、工夫して無理やり生み出すしかなかったんだよ。その違いかな?」
ドモンの言葉に皆納得したが、この中の誰よりもその言葉に共感していたのはギドだった。
ギドはそれにより異端とされ、王都の学校に入学できなかったのだから。




