第476話
「どいてくれどいてくれ!動かすから、近くにいたら危ないぞ!」
人の波をかき分け自動車に向かうドモン達。
もう夜だというのに、見学する人の数は増える一方。
ただ実際に近くでその車体を見れば、人が集まるのも仕方ないと思えるようなものであった。
馬で引くには絶対に無理だと思えるような大きさの車体であり、見た目は本当に大型トレーラーそのもの。
窓から覗く内装は、貴族か王族の部屋をそのまま中に持ってきたかのような豪華絢爛さな上に、調理場やベッドなども見える。
このまま元の世界に持って行っても、恐らく同じように人が集まるだろう。
「お前らは危ないから先に乗ってろ。窓のカーテンは閉めておけ」
「わかったわ」「はい!」「ええ」
女性陣が先に車に乗り込むと、すぐに車内から「なによこれ!!すごーい!!」「キャキャキャ!」「まあ!素晴らしいですわ!!」と感嘆の声が車内から漏れてきた。
「足回りもしっかりしてるな。それにこの車輪は何だ?鉄だけじゃないよな?」
「これは窓にも使用している樹脂を更に硬化したものを車輪に巻いているのです。車輪への負担もかなり軽減されますし、荒れた道での振動も、以前より抑えられたと思います」
少しだけ得意げなギド。ここは実はかなりの拘り部分だった。
「これがガソリン無しで・・・いや、魔石の力だけで動くっていうのか。中の魔石はどのくらい持つんだ?」
「先生がおっしゃられていた変速ギアというものを用いて、一工夫加えることによって、前回のものよりも遥かに小さな魔石で長く走ることが出来るようになったんですよ。10年20年は楽に持つかと」
「す、凄いなそりゃ」
「あ、そうそう。簡易的な除雪の機能も付けておきましたよ。頼まれていたきちんとした除雪車も作ってはいますが。もう少し雪が積もったところで実験して、きちんと動くのを確認できたら完成です」
話を聞けば、何種かの魔石は必要となるが、その全部を合わせても金貨10枚ほどで、一年10万円で移動できるのならば馬の餌代と変わりがない程度。
「どれどれ、ちょっと運転席に座ってみるかな」
「ほら、これが鍵だ」と兄貴。漫画に出てくる宝箱の鍵のような形。
ドモンが運転席に座り、兄は助手席に乗ってあれこれと機能の説明。
マニュアル車だけども、ドモンにとっては慣れたもの。
おおすごい!とドモンが喜んでいる様子を、野次馬と一緒になってギドがニコニコと眺めていた。
これだけでギドも少しだけ良い気分転換となった。
そこへ白や黒の揃いの服を着た集団が、人の輪を割りつつ「どけどけ!」と言いながら突然やってきた。
「これが噂の自動車か・・・」
「どんな技術が使われているのだろう?」
「動力は魔石を使用しているとのことでしたな?」
「我々が研究するに値する代物でありますな。研究の為ならば、持ち主も喜んで提供してくれることだろう」
来るなりドモン達には目もくれず、あれこれと車体を覗き込んではノートに何かを書き記す謎の集団。
その上、自分勝手で図々しい発言まで聞こえ、運転席にいたドモンはムッとした表情に。
「あなたがこの自動車という乗り物の持ち主ですかな?」と背の高いヒゲジジイ。
「そうだけどなにか?」
「確かドモンという名の異世界人だったな」次はハゲジジイ。
「それがどうした?」
ドモンが苦手なタイプの人種に話しかけられ、ドモンはますます不機嫌に。
窓を開けていたが、目の前で閉めてやろうかと考えていた。
「まあまあ話を聞いてくだされ。私達はこの異世界の技術で作られた自動車とやらを研究・・・いや見学しに来ただけなのですよ」とヒゲ。
「設計図などもあるのだろう?見せてもらえないだろうか?」良い返事が貰えるだろうと確信し、ウンウンと頷くハゲ。
「設計図なんてものはないよ。それに作ったのも俺じゃない。これを作ったのは、お前らの横にいるその天才だよ」
タバコに火をつけながら、右手の親指でギドを指差したドモン。
しっかりと車内に灰皿もついていることに感動。
「おお、そうでしたか。見たところ普通の青年のようだが・・・」
「本当に君が作ったのかね?なにか秘蔵の書でも持ち合わせていたのか?それとも異世界人に貰ったのか?」
「い、いや僕は・・・」
偉そうなヒゲとハゲに詰め寄られ、困惑するギド。
「教授が質問してくださってるのだから早く答えなさい」と、その生徒らしき若造が鼻で合図。
「おい!人に物を尋ねる前に、まずはすることあんだろが!」ついにドモンも堪忍袋の緒が切れた。
「いやぁこれはすまない。この姿を見れば皆わかるだろうと思っていたのでな」と服を見せながら、自身のヒゲをつまんだヒゲオヤジ。
「あ、あの・・・王都の・・・例の学校の方達かと・・・」ギドが気まずそうに説明。
それでドモンもようやくすべてを察し、興味なさげに「あーハイハイ」とだけ返事を返した。
「君はわかるのかね?見たところ田舎の出身のようだが」ハゲの言葉に何処からともなく、クスクスとした笑い声があがる。
「え、えぇ、僕・・・私は以前貴校への入学を目指し、受験をしたこともありましたので・・・」
「落ちてしまったのか。まあ無理もあるまい。我が校は世界的にも三本指に入るほどの高い学力を誇る学校であるからな」
ギドの返答に得意げに答えたハゲジジイ。
「落ちたというか・・・試験は突破しましたが、その後の仮入学にて不適合と判断されてしまい・・・」
「それは残念でしたな。試験結果が芳しくなかった者から足切りする場合もあるのですよ。だから気に病むこと無く、また挑戦してくだされ。今度は目をかけておきますよ」ヒゲジジイも続く。
ギドの入学試験は、言うまでもなくトップであった。
それどころか、いくつかの問題の矛盾点の指摘もしていた。
ギドはすごく言いたいことがあったが、我慢した。
ここで逆らったところで良いことはないし、まだ自信を失ったままだったからだ。
ギドの兄も下唇を噛み耐えていた。
派手に寝落ちしてしまった・・・
昨日もよく飲んだ。




