第475話
「そ、そんな高い建物を建ててどうしようってのよ・・・」
「戻ってきてもらうんだ。ここに住んでいた人達に。もちろん俺らも住むけどな」
「あ!」「素晴らしいです!」「まあ!」
ドモンがナナ達とそんな話をしている間、ギドはドモンの持つ建築に関する本に夢中。
そして何やらたくさんのメモを書き記していた。
「ギドに作ってもらいたいのは、エレベーターと呼ばれる昇降機、そして屋上まで水を汲み上げるポンプだ。屋上に貯水して、浄化しながら各家庭に水を引くんだよ」
「ふむふむ、こちらの本にも書かれていますね」「出た!エレベーター!!」
「ほらナナは邪魔しない!それに店の客が待ってるんじゃないのか?」
「そうだったわ。行こ!サン」「はい!」「ワタクシはまたマッサージのお手伝いをしてきますわ」
シンシアに嬉しそうにエレベーターの説明をしながら去っていったナナ。
この話も何度も聞いていたサンだったが、今回もまたニコニコと聞いていた。
「貯水に関しては問題ないでしょう。モーターを使用して水を汲み上げる装置なら、すでに完成させてますから」
「え?そうなの?!やっぱり凄いなお前は」
「先生がモーターの仕組みを教えてくださったからこそですよ。僕はそれを応用したに過ぎません」
「俺もそんな台詞言ってみたかったよ、まったく・・・」
ドモンだって色々考えてはいた。
モーターが出来ればあれが出来るこれも出来ると、みんなに説明していたくらいなのだから。
だがギドはそれの遥か上をゆく。
ドモンはその『物』を知っていて、ギドは全く知りもしないのにだ。
ドライヤーについてもそうで、ドモンはドライヤーをはじめから知っていたから作るアイデアも浮かぶが、ギドは全くの無から作り上げたのだ。
それが出来るのはほんの一握りの天才、且つ変態だけである。
「エレベーターは同じだけの重りをぶら下げて、箱を引き上げたり下ろしたりする仕組みなんだ」うろ覚えの記憶を掘り起こすドモン。
「なるほど、それだとモーターへの負担もかなり軽減できますね」
「問題は呼び出しボタンの信号を送る方法なんだけど、電気がないこの世界でどうしたら再現できるのか、俺にはさっぱりわからない」
「乗っている者が操作するだけではなく、その信号によって呼ばれた階に移動しなければならないのですね。うぅ~ん・・・これに関しては少し時間をいただきたいですね・・・」
これに関してはさすがの天才ギドも一筋縄では行かない。
電気がないこの世界で、遠くへ信号を飛ばすこと自体がまず難しい。
それがもし出来たとしても、信号を発信した階への移動中に、他の人が信号を送った場合はどうなるのか?
ギドの頭の中では、エレベーターが上へ行ったり下へ行ったりとウロウロして、全く行きたい階に行けない様子が浮かんでいた。
制御に関しては、ドモンも完全にお手上げ。
ドモンも子供の頃、コンピューターもない時代に一体どうやって自動化しているのかが不思議だった。
他の者達はお手上げどころの話ではなく、何の話をしているのかも完全に理解不能。
なので組立方式の部屋の作りについて討論していた。
「ダメだ・・・解決の糸口すら見つからない・・・僕はなんてバカなんだ!」頭を抱えたギド。
「ギド・・・なにか口にしないと体に悪い。ドモンさんが食事を作ってくれたから、少しでも食べた方がいい」
「兄さん、今はそれどころじゃないんだ!それに時間だって余裕はない!」
夜になってもギドは未だに思案中。
『道具は人の手により使われる物』という概念がどうしても頭から抜けず、苦戦していた。
ボタンひとつ、命令ひとつで機械を自動で制御するというものが今までなかったのだ。
例えるなら、モーターを利用して洗濯機を作ることは可能だけれど、洗濯後に脱水を行う全自動洗濯機は、まだその概念自体がこの世界にはない。
それでもなんとか作るなら、ゼンマイか何かのタイマーを利用する方法が考えられる。
残り15分のところに何かしらのスイッチを付けておき、そのスイッチが入るとモーターを止めて脱水を開始して、トイレのタンクの中にある風船のような物で水位を測って、水が無くなったら洗濯槽の方のモーターを回るようにし、タイマーが切れるまで回して衣類に脱水をかける・・・といった方法をドモンは思いつくことが出来るが、ギドにはまだ出来ない。
「ボタンひとつで順番に機械を動かすことを、シーケンス制御って呼ぶんだよ。エレベーターもそういった技術を使っているんだ。俺らの世界の子供らにわかりやすく説明するなら、ピタゴラなんちゃらみたいなもんだ」
ギドはドモンにそう説明され、心の中がざわついた。
理論上は分かるのに、心が受け止めきれていない。
四足歩行よりも二足歩行の方が便利だと気がついた瞬間のよう。簡単に「よし!そうしよう!」とはなれないのだ。
「やっぱり僕はダメな人間なんだぁ!」机に突っ伏したギド。
「なんだなんだ?随分と落ち込んでるな。まだ慌てる必要もないし、ダメなら手動の昇降機だっていいんだからな?」苦戦してるという話を聞いて、ドモンも様子を見に来た。
「あぁ先生・・・せっかく先生が機会をくれたというのに、期待に応えられない僕を殴ってください」
「そんな根を詰めるなって。ちょっと気分転換に自動車に乗ってどこかに行こうぜ?ついでに新しい機能も教えてくれよ。ナナ達も乗ってみたいってさ」
「・・・はい」
天才だって何でもすぐに出来るわけではない。
自信を無くしている時は、天才だろうがなんだろうが上手くいかないことの方が多い。
ギャンブルなんかも、不安を感じた瞬間に悪い流れに傾いていくものだと、ドモンは身をもって知っていた。
そんな自信を失ったギドを、予想外の人物らが待ち受けていた。
エレベーターに関して、少し小難しい話になったことを許して欲しい。
まともなコンピューターもない子供の頃、エレベーターを見てていつも不思議に思っていたんだけど、何気にこれが人類の知恵と努力の結晶によるものだと知った時は俺も随分驚いたので、ここでもどうしても書きたいと考えていました。
屋上にあるエレベーター制御室の中で、とんでもなく複雑な方法で制御されていたそうです。




