第471話
「御主人様あの・・・恐らくすでに土地を用意してくださったのだと思います。今の宿舎のそばに」
「そんな場所なかっただろ?建物でびっちりだというのに」
「だからその~・・・雪玉を投げていたあの子供達はきっと・・・」
「・・・・」
サンの説明ですぐに理解が出来たドモンだったが、現実を受け入れたくない気持ちが勝り、直ぐに返事ができずにいた。
サンはそういうこともあると理解はしていたが、あの子供らの顔を思い出し、表情を曇らせた。
ここの領地は、基本的にこの貴族のものである。街の有力者など一部の例外はあるけれども。
つまりはその権力を振りかざし、強引に立ち退きを迫ったのだ。
「今週中には一度更地にしてドモン殿に引き渡す故に・・・」
「待て待て待て!ちょっと待ってくれ!!」
「それでは遅かったかな?まあ今頃はもう土地を明け渡している頃であろうから、すぐに引き渡すことも可能だが」
「なんてことを・・・」
ドモンはサンから自分の上着を剥ぎ取るようにして奪い、屋敷を飛び出した。
すぐにでもその現場へ駆けつけたいところだが、あの商店街までは2キロ以上離れていて、ドモンの脚ではかなりの時間がかかってしまう。
「う、馬か馬車を手配しろサン!」「は、はい!」
「いかがなされたのだ?ドモン殿」
「土地はいらねぇ!今すぐ止めさせろ!そしてもう二度とそんなことはするな!」
「え???」
きっと今まではそれが当たり前のことだったのだろう。
それがまかり通っていたのだ。あってはならないことだけれども。
ドモンは詐欺に合い、思い入れのある家を奪われた。
ダーツを外してしまって穴を開けてしまった壁、毎年身長を測った柱の傷、夏に梅酒を飲んだ縁側、秋に薪割りをした庭。
40年ほど前のことなのに、未だに夢に出てくるあの風景。
解体屋により崩壊していく自分の家を、ドモンは目の前で見た。
「この悪魔共が・・・」と目から血が出るほど恨み、その後、そこに建った建物の名前に愕然とした。
『コーポエンゼル』
赤い目をしたドモンは爆笑しつつ、この世の不条理と向き合うことになった。
こんな思いをもう誰にもさせちゃいけない。そう思いながら。
それを今、自分が大勢の子供達に対してやろうとしていた。
「ハァハァ・・・すぐに馬車の手配ができるそうです。表門の方へと急ぎましょう」サンがドモンの元へ駆けつける。
「急げ!頼む早く!」
左脚をズリズリと引きずりながら、ドモンは表門へ。
冬は膝がいうことを利かず、急ごうとすればするほど遅くなるのがもどかしい。
門まであと10メートルというところで馬車が表門へと到着。
ドモンとサンは、そのまま転がり込むように馬車へと乗り込んだ。
「用意しようとした土地まで!立ち退きを迫った家族らの元まで大急ぎで頼む!」
「は、はい!」
そう頼んでから車内で頭を抱えたドモン。そしてサンは大後悔。
もっと早くに、ドモンにそうなる可能性があることを告げておくべきだったとサンは涙ぐんだ。
ドモンならばそんな事はするはずもないのを知っており、忠告すること自体失礼だと思っていたのだ。
新型馬車だとは言え、雪道ではどうしてもスピードを抑え気味にせざる得ないのがもどかしい。
商店街に入ると当然道も混んでおり、更に速度が落ちてしまった。
「あの先でございますよ。ちょうど荷物を馬車に積んでいるところのようです」
「くそ!もういい、ここで下ろしてくれ!」
御者に馬車を停めてもらい、大慌てで人混みの間を駆け抜けていくふたり。
残り数十メートルというところで、ワンワンと泣く子供達の姿とその親らしき夫婦の姿が見えた。
よく見れば、同じようなことをしている家族がいくつもドモンの目に入り、ドモンの気持ちはますます焦る。
「待て!待ってくれ!!サン!その馬車を止めろ!」「は、はい!」
一台の馬車が目の前で出発し、ドモンが慌ててサンにそう願ったが、野次馬の人の波に飲まれ、馬車を止めることが出来なかった。
そうしている内に更にもう一台馬車が出発。馬車の中から子供の泣き声と、それを怒る父親の声が聞こえていた。
「待ってくれ!出ていかなくていいんだ!頼む話を聞いてくれ!すまない!どいて!どいてくれ!」
人混みの中からドモンは叫んだが、その声は届かない。
馬車がまた一台出発。
ドモンとサンがなんとか現場に到着した時には、三家族ほど残っていたけれど、よくよく奥の道を見てみれば、そこにも何台もの馬車が停まっていて、次々に出発している最中であった。
「頼む誰かあいつらを止めてくれ!あんた達ももう出ていかなくていいんだ!」パニックになりながら必死にそう伝えたドモン。
「悪いが領主様の命令なんでね。チッ・・・」
父親が無愛想に答え、馬車に乗り込んだ。
恨めしそうな顔で睨む奥さんと、目を真っ赤にしながらドモンを睨む娘もそれに続く。
そして乱暴に馬車のドアは閉じられた。
ハイヨーと馬車を走らせようとした御者を無理やり止めて、まだ待つように指示。
サンもまだ残った他の馬車に、同じ様に言って回った。
「頼むから話を聞いてくれ!それと先に出た馬車は何処へ向かったんだ?!」
「さあ・・・それぞれ違う街へと向かったから、ワシにはちょっとわかりかねるが・・・ワシもそいつらも雇われなんでね」と御者。
「何処へ向かったか把握してないのか?!」今度はそばにいた騎士に尋ねたドモン。
「そこまでは聞いておりませんが・・・」とうつむく騎士。
「なんて・・・なんだってそんな・・・くそおおおおお!!!」
ドモンは雪が積もる道に膝から崩れ落ち、これ以上ないほど真っ赤になった目から、汚らしい涙を流した。
建物名を検索すると出てきちゃう(何
築年数がリアル過ぎる。
ファンタジーでフィクションだけど、たまたま名前が一緒だったのかな??よくある名前だし。




