第463話
「やっぱり呼ばれてたかハハハ」
「なあドモンさん!勘弁してくれよ!俺には無理だって!!」
パスタ屋改めラーメン屋の親方となった例の人物が、真っ青な顔をしながらドモンを出迎えた。
「この国の王様どころか、他国の王様や偉い方々が俺の料理を食べるだなんて聞いてないよ!」
「品評会の練習として、良い度胸試しになるだろ?」
「度胸試しどころじゃないだろうに・・・」
ドモンがいる限り絶対にそんな事は起こらないが、本来であれば、ひとつの失敗が文字通り命取りとなりかねない。
不味いと言われるくらいならばいいが、もし何か手落ちがあって食中毒なんてことになれば、首を差し出さなければならないからだ。
「大丈夫だってば。まあそれよりも、今日は新しい味のラーメンのスープを作ってやるよ。めでたい席だし特別だ」
「え?本当かい?!」
「その内この調味料も手に入るはずだし、あんたに一番に回す手筈はついてるから」
「・・・本当に恩に着るよ・・・」
ドモン達が厨房でラーメンを作っている間、みんなは銭湯の方へ。
客達にドモンが頭を下げて、午後7時から貸し切りとした。
「高級宿のあのお風呂も良いですが、ここはここで趣があって落ち着けますわね」
「気が楽というのもありますわ」
「ねぇ!その高級宿のお風呂ってどんな感じなの??こことはぜんぜん違うのかな??」
「中はもっと薄暗い感じで・・・」
サウナの中で奥様達と会話をするナナ。
サンは相変わらずすぐにダウンして、椅子の上でシンシアに抱っこされていた。
「もうサンったら抜け駆けをしてウフフ」
「ふぁ~・・シンシアしゃま・・・ごめんなさいでし・・・」
横抱っこされながら、目を瞑りフゥフゥと息をするサン。
「どんなプロポーズだったのか正直に言いなさい。言わなきゃこうよ!」
「ブァヒャヒャ!!今くすぐったらダメェ!!出ちゃぁ!!」
「漏らしたって許さないんだから。ほらほらほら!全てを話してご覧なさい!」
ドモンとふたりの秘密にしておきたかったサンだったけれど、仕方なく迎えに行った時からのことをすべて話し始める。
いつの間にかナナや奥様達もサウナから出て、その話に耳を傾けた。
「まあ!辱めると見せかけて片膝をついて!」
「素敵!まるで本の中の騎士様みたいですわ」
「違いますわよ!ドモン様は騎士よりももっと強引に奪うようなハフゥ~・・・」
「それよりももっと意地悪ですわよ!でも本当は心から愛してくれているのですわ!」
「俺が幸せであるために必要だ・・・なんて求められては、もう断れませんわねウフフ」
「確かに」「そうですわ!」「羨ましいですこと」
ほぼ全員政略結婚であった奥様方。
今でこそ夫のことは愛しているが、自分には成し得なかった理想を本に求めてしまうのは、ある意味必然なのかもしれない。
ただ理想と妄想が行き過ぎて、最早サンの話はそっちのけ。
白馬の王子がだの、盗賊達から救い出してくれた幼馴染の騎士がどうだのと勝手に盛り上がり始めていた。
「ナナの時はどのような感じでしたの?」シンシアも当然興味津々。
「私?私は広場でドモンがいなくなってしまって、急に不安になっておかしくなっちゃって、それを落ち着かせるためにドモンがプロポーズしてくれたのよ」「素敵です!」
サンはナナから何度も聞いたが、その度にその想像をしてうっとり。
「サンが言われたみたいに『ナナがそばにいてくれたら、俺は幸せなんだ。だからどこにも行かないぞ。手放すもんか』って。よく考えたら自分勝手というかワガママというか・・・まあドモンらしいと言えばドモンらしくて好きだけどねエヘヘ」
「それでも素敵ですわ」
やっぱりシンシアは羨ましい。
ナナやサンと違い、自分から押しかけてきた自覚はあるからだ。
あの時ドレスを旗にして迎えに来てくれたのが、プロポーズだったのかもしれないけれども。
「だから一度死んじゃった時もはじめは落ち込んだけど、ドモンは必ず帰ってくると信じられたの。でも今度は反対に・・・」
「今度はワタクシ達の番ですわね。ドモン様に信じてもらえるよう、その気持ちに応えねばなりません」「はい!」
サンの結婚を機に、改めて結束と気持ちを固めた裸の三人。
今回ドモンと自分達の身に起きたことは、それほど衝撃的なものであった。
見えざる何かに仲を引き裂かれそうになり、それでサンも焦り、暴走しかけたのだ。
「食事の準備が整ったから、大広間の方に来て欲しいってドモンさんが言っているわよぅ~」脱衣所からエミィの呼ぶ声。
男風呂の方では、兄の青オーガが同じ様に皆を呼んでいた。
「みんな揃ったか?結婚祝いの席でラーメンを食うってのもなんだか微妙な気もするけれど、俺が期待させちゃったからな。今日は特別に俺が向こうの世界から買ってきた味噌を使った味噌ラーメンを食わせてやる。はい順番に座った座った」タオルの鉢巻をしたドモンが、皆を順番に座らせていく。
「皆様お待たせしました!ですが待たされた分だけ、ものすごく美味しいものを食べられることになりますよ!」一度味見をしたラーメン屋は、自信に溢れていた。
「一体どのような麺料理なのか・・・」
「これだけ期待されては、料理を出す方も躊躇するであろう」
「絶対に期待に応えてくれますよ、ドモンさんは!」
「なんだか良い匂いがしますわ」「ホント!」
大広間に入るなり、大騒ぎをしだしたお偉い様達。
誰も結婚の祝いの言葉などを贈らないことを、サンが一番に笑っていた。
それに対しシンシアは怒っていたけれど、最早収集がつかない。
「んはー・・・ドモンこれ・・・」「奥様ヨダレヨダレ」チョンチョンとナナの口元を拭くサン。
「もうナナったらだらしのない顔をして。ドモン様、ワタクシとサンにもお手伝いできるようなことは?」腰に手を当て、呆れたような表情のシンシア。
「ああ、あとでエールを配るのを手伝って。それとシンシア、もうお前のことも逃さないぞ?一生な」
「えぇ・・・へ?え?!」
シンシアを壁際に追いやり、ドンと壁を叩いた後に顎をクイッと持ち上げたドモン。
どこかで見た漫画やドラマを真似したつもりはないけれど、サンと同じ様にドモン自身も少し焦っていたのか、結果的にこうして強引に迫ることとなった。
ただシンシア的には、それがど真ん中のストライク。
「近い近い、ドモン様お顔が近・・・ング・・・」
「あ!!ちょっとあんた達いきなり何やってんのよ!!」と言ったものの、ナナも本気で止める気はない。
「逆らえばどうなるのかわかってんだろうな?シンシア。さあこの奴隷契約書に今すぐ名前を書くんだ」
騒ぐナナを制してドモンがシンシアに渡したのは、この日二枚目の婚姻届であった。
夏バテか、やや体調不良により一日~数日お休みをいただきます。




