第462話
結局ドモン達が宿舎に戻ったのは午後6時頃。
馬車を見かけるなり、ナナとシンシアが心配をそうな顔で宿舎から飛び出してきた。
「ねえドモン大丈夫?!何してたのよ今の今まで!もうやっぱり迎えに行くべきだったわ!!」
「またなにか悪いことが起きたのではないかと、気が気ではありませんでしたわ・・・」
てっきりすぐに戻ってくると思い込んでいたナナは、時が経てば経つほど心配になっていき、後悔の念に駆られていた。
シンシアはシンシアで、本来ならばついて行きたいところを止められて、一日中心配をしていたのだ。
トッポ達がやってきて「退院できるほどならば大丈夫だろう」と慰められ少し落ち着いたものの、今度はその王族らまでもがソワソワし始めていたので、結局つられて全員がソワソワ。
発見したと一報が入った時は、ナナとシンシアは安堵の涙を流していた。
トッポ達も後に続いて宿舎から飛び出してきて、良かった無事だと胸を撫で下ろしている。
ドモンはてっきり「遅いじゃない!」と怒られたり、「早くラーメンを食べさせろ」だのと言われると予想していたため、少し面を食らった。
おかげでものすごく結婚報告がしにくい状況。
「わ、悪かったな。せっかく王都にいることだし、退院祝いを兼ねてサンと食事と結婚してきたんだ」
「えーずるい!私も食事と結婚したかったな~・・・ん??今なんて??」
ここはもう、勢いで言うしかないとさらっとナナに告白してみたドモン。
話が長くなればなるほど言い出しにくくなると予想されたからだ。
しかしナナの頭はまったくついていかず。もちろん他の者達も。
もしそうだとしても、冗談にしか聞こえなかった。
「どういうことですの??」と、シンシアはその言葉の真意を探り、トッポ達も「結婚とは何を指した言葉なのでしょう?」と話し合う。
ナナに至っては、二種類の食事をいっぺんに食べたのだと勘違い。
ドモンのせいですっかり微妙な雰囲気となってしまい、意を決してサンが馬車から降りてきた。
サンを見慣れているはずの皆も、水色の服を着たサンが降りてきた時には、ドモンがなにかの精霊を連れてきたのかと一瞬勘違い。
「あ、あのぅ~皆様・・・」
「わ!サンだったのね!どうしたのその服?!それよりもやけに顔がツヤツヤな気がするんだけど?」
「・・・・」「・・・・」
ナナの勘の鋭さに言葉を失うドモンとサン。
食事をしていた辺りから、ふたりとももう我慢が出来なかった。
「そ、それよりもあのその・・・これ・・・」左手をナナの目の前に差し出したサン。
「指輪・・・?」「どうなっておりますの!ドモン様!!」
まだ状況を把握しきれないナナと、ようやくすべてを把握したシンシア。
他の者達は、サンは内縁の妻のような扱いと考えていたために、指輪をプレゼントして改めて告白をしたのだと勘違いしたまま。正式な結婚はまるで頭に浮かんでいない。
「いやまあ、だから・・・改めてプロポーズをして、教会で結婚式やって、婚姻届を出したんだよ。正式に結婚してきた」「はい・・・」ドモンの横に並んでペコリとお辞儀をしたサン。
「!!!!」「!!!!」「!!!!」「!!!!」「!!!!」
「それってもしかして、ドモンとサンが正式に結婚したってこと?」頭をフル回転して整理したナナが、ほぼドモンと同じことを言った。
「そ、そういうことだな」
「ドモンと・・・」「うん」
「サンが」「はい」
ナナは何故か『その話はこっちに置いといて』のジェスチャー。
混乱しすぎてなにか間違えた。
「だ、誰も参列させずに」息が吸えなくなるほど驚き始めたトッポ。
「いや、見学の人は結構いたよ?」タバコに火をつけ呑気に答えたドモン。義父が顔を右手で押さえ天を仰ぐ。
「そういう問題ではございませんわ!!ドレスは?!サンの晴れ舞台の!!」
「私はこの服で十分です。それに急なことでしたので」シンシアに向かってサンはニッコリ。
「そういった問題ではないでしょうサン!も、もう!!」
密かにサンの晴れ舞台も楽しみにしていたシンシア。
いざその時が来たならば、国を挙げての盛大な結婚式を行い、三日三晩パーティーを開き祝い続けるのはどうだろう?と、妄想していた。
もしくは、何処かの村の小さな教会で結婚式を挙げ、自分が作った花飾りをサンの頭につける・・・などといった事を考えたりもした。
それらが全て台無しとなり、酷く動揺したシンシア。
「何の断りもなくいきなりだなんて・・・」徐々に実感が湧いてきたナナ。
「それに関しては少し訳有りで、俺が悪いんだ。ごめん」ドモンも平謝り。
「サンだって酷いじゃない!一体どうして?!迎えに行くだけだって言ってたのに!!」
「ごめんなさい奥様・・・でも・・・」
同時にポロリと涙を流したナナとサン。
「私の我が儘だったのです!御主人様は悪くありません!私からお願いしたことで、御主人様がそれに応えてくれたんです!私は今まで生きてきて、今日が一番幸せでグス・・・」
「・・・・」
「奥様にもシンシア様にも皆様にもご迷惑をおかけしたかもしれませんがうぅぅ・・・、サンは本当に本当に嬉しくて・・・だから御主人様を責めないでうぅーっサンが悪いの!!うわぁぁぁん!!」
「結果的にサンをこんなに泣かせたのは俺なんだから、やっぱり俺が悪いんだよ」
泣いているサンを抱き寄せたドモン。
サンにとって自分の一番の理想の結婚式だったということと、それを許して欲しいことを上手く伝えようとしたのだけれども、ドモンが責められているのを見て、いたたまれない気持ちになって取り乱してしまった。
その様子に、目と目を合わせて頷いたナナとシンシア。
「サン・・・似合っていますわ。その服もその指輪も・・・そうやってふたり寄り添う姿も。ね?ナナ」とシンシア。
「グス・・・し、癪だけど確かに・・・長年連れ添ったおしどり夫婦みたいよ、エヘヘ」涙を拭い、いつか何処かで聞いた台詞を言ったナナ。
「そ、そんな!奥様が一番です!!私なんか比べようもございません!!私はこれからも皆様にお仕えできるだけで十分でございます!!」
すぐに否定をしたサンだったが、サンも何も変わらない。あの時から。
今度はドモンとナナが目と目を合わせて微笑むと、サンはその先の答えがわかり、一足先に嬉し涙を流していた。
「サンは家族だよ」「これからは本当のね」
その言葉を聞いて更にわんわんと泣いたサンが、皆からの祝福の拍手を受ける。
宿舎に入りサンが泣き止むまでの二時間、ナナとシンシアが慰め続け、ドモンは待っていた人物と祝いの席の料理を作ることとなった。




