第457話
翌日の朝。
「ミレイの調子はどうだ?」病室のドア越しに部屋を覗き込むドモン。
「ドモンさん、動いて大丈夫なのか?昨晩は、うなされてはいなかったけれども」とアーサー。
「ミレイは見ての通りよ」ソフィアも続く。
ソフィアが視線を落とした先のミレイは、ベッドの中で、脂汗を垂らしながら歯を食いしばっていた。
両脚の腿には何本もの深い切り傷を縫った傷跡。肩から首にかけては、いくつもの穴のような傷がある。
羽交い締めをされたドモンが指の爪を突き刺したのだけれども、ドモンが少し力を入れるだけでオーガが動けなくなるほどの痛みを、ミレイは最後まで耐えきったのだ。
少しだけ伸びてきた髪の毛も汗でびっしょり。「今度会ったらドモン様可愛いって言ってくれるかな?」と、髪を伸ばし始めたとか。
「ポーションや魔法も効かないんだ」
「そうなのか・・・」
アーサーの言葉に返事をしながら、ベッドの横の椅子に腰掛け、呻くミレイの頭を撫でたドモン。
ミレイはちょっとだけ嬉しそうな顔を見せた。
「ひとつひとつの傷が呪いのように体に刻まれてるんじゃよ。ワシもこんなものは見たことがない」
「・・・・」
黙るドモンの横に座った大魔法使い。
以前告白は断られはしたが、大魔法使いにとってミレイはやはり大切な人であり、心配そうな顔でドモンにそう言った。
だがドモンに対し、それを恨んでいるような様子はない。
パーティー全員、その覚悟を持ってドモンの病室へと飛び込んだのだから。
「ゴメンなミレイ・・・」ドモンはそれ以上かける言葉もない。
「うぅ・・・ドモン様・・・」目を閉じたままミレイは小さく呟いた。
ハァハァと呼吸をしながらドモンの手を握り、ニコっと笑顔を見せる。
あの頼もしくも勇ましい『ミスター女子プロレス』の面影はもうない。
「しばらくふたりにしてあげよう」とアーサーが、ドモン以外の他の者達を連れて部屋を出た。
正直助かる見込みは五分五分かそれ以下。そう理解し、覚悟を決めながら。
「・・・ドモン様がトドメを刺してくれるの?ハァ・・・ハァ・・・早く死にたい・・・」
掛け布団を剥がし、腹の上に座ったドモンにそう言ったミレイ。
ミレイは目を瞑ったまま、お手上げのバンザイをするように両手を上に向け、ニコニコとその時を待っていた。
ようやく楽になれるのだと。
切り刻まれた下半身は火炙りにあったように痛み、上半身に指で開けられた穴は、何本もの矢で貫かれたまま放置されたような痛みがあった。介錯なしの切腹の方が何倍もマシなほどの痛みに、ミレイは一晩中耐え続けていた。
そんなミレイの上にドモンは跨った。ミレイはそれをドモンによる救いだと感じたのだ。
あとは首を切り落とすなり締めるなり、早く逝かせてくれたら。が・・・
ドモンはそのままガバッとミレイの上に覆い被さり、首筋に開いた穴のひとつに吸い付くように口づけをした。
「ホォ?!一体何を?!」
「いいから動くな。声も我慢しろ」
「そ、そんな・・・オホォォォオ・・・」
あれだけ辛かった痛みが、なぜか快楽へとひっくり返る。
傷ひとつひとつが性感帯になったよう。
「胸の先っぽ吸ってるのか傷を吸っているのか、もうわかんないよ!あっはぁムグググ・・・」
「声を出すなって言ってるだろバカ」ドモンは左手でミレイの口を塞いだ。
服を脱がせ、傷に口づけをしていくドモン。
何故かそうすれば傷が癒えるような気がしたのだ。
「よし、あとは太ももとお尻だな」
「だめだめドモン様!死んじゃうからっ!!らめぇ!!」
「バ、バカ!力むなって!ほらまた天井がビチャビチャに・・・」
ミレイの叫び声を聞いたアーサー達が病室に飛び込むと、ベッドには全裸のミレイが幸せそうな顔で大の字になっていて、床にびしょ濡れになったドモンがのびていた。その顔にはミレイの足跡らしきものが付いている。
「どうなってるんだこれは?!あちこちびしょ濡れに・・・」キョロキョロと部屋を見回すアーサー。
「そ、それよりも見てアーサー!ミレイの傷が塞がってる!!」その体にタオルを掛けながら、驚きの声を上げたソフィア。
「何をやったというのじゃ・・・まさかスケベで傷を治したなどと言うまいな?」大魔法使いも大混乱。
ドモンは、なんとなくだが気づいていたのだ。
スケベをした後、その相手の細胞が活性化されていくのを。
ツヤツヤになり、時に若返ることもある。
普通の男にも少なからず備わっている能力なんだけれども、ドモンの場合はそれが桁違いであった。
『細胞が活性化されるなら、多少の傷も治るかもしれない』と、虫に刺されたナナの腕を吸ったことがあったが、本当に綺麗さっぱり虫刺されが無くなり「薬草いらずねドモン」と笑いあったことがあった。
それらの事がドモンの頭をよぎり、今は助けるためにこうするしかないと行動した結果がこれである。
『ま、加護を受けた者じゃなけりゃ効果はねぇけどな。それに傷は治せるが、下手すりゃ気が狂うほどの快楽が与えられるぞ?正気に戻れるか見ものだなイーッヒッヒッヒ!!』という心の声が何処からか聞こえた気がしたが、ドモンにはよく聞き取れなかった。




