第454話
「ああ悪いね、真ん中に座っちゃって。今ずれるから」
「いやいや大丈夫だよ。それにしてもすごい店だねぇ」と返した男性も、隣りに座って早速タバコに火をつけた。
「ああ、そうだな」
席に座ってタバコを吸っていたのはドモン。
唐揚げと果実酒を買って、のんびりと一服していた。
「聞いたかい?この店は閉店時間がないんだって」
「うん、便利だよな」
「いやぁ驚いたよ。それにこの品揃え!店の作りまで何もかも斬新で。今までどうしてこうした店が出来なかったんだろうな?」
「そうだなぁ」
そうドモンと話しながら男性がひとかじりしたパンは、ドモン監修のピザトースト。
その美味しさに目を白黒させていた。
「この街はドンドン変わっていくよ。どうやらこの店と似たような店の開店も計画されてるって、昨日知り合いに聞いたんだ」と男性。口はまだモグモグ。
「そうなのか」
「それに色街にあるメイド喫茶ってのに対抗して、似たようなのがいくつか出来るんだってさ。俺は胸の大きな奥さん達が、スケベな服で給仕してくれる店に行ってみようかなって思ってるんだ」
「おお、それはいいな」
買ったタバコに火をつけて、ニヤニヤと少しだらしない顔をして笑う男性。
知らぬ間に街がそんな事になっていたことを、ドモンは今知った。
「異世界人ってのがこの街の発展のきっかけらしいんだけど、もう感謝しかないよな」
「うん」
「まあもうそんなのが居なくったって、この街は発展していくだろうけどさハハハ」
「そりゃそうだハハハ」
どの時代、どの世界でも、人は馬鹿ではない。
この世界の人々は、単にまだ知らなかっただけであり、その道があると知れば、自ずとその道を辿りだす。
ドモンはそれぞれにこういった道があると示した。道に気がつくきっかけを与えた。
進み方を覚えた人々は、今度は新たな道を作り出す。
この世界の発展の停滞は解消され、ドモンはその役目を終える。
それに対し満足そうにドモンを見つめる、窓に映った赤い目のドモン。
その後同じ様に開店準備をしていたいくつかのコンビニに立ち寄り、全ての店のチェックをした後、日も落ちた闇の中の裏路地で、ドモンは倒れた。
静かに雪が舞い落ちる夜。
喘息の発作を起こし薬を飲んだ結果、心臓の発作を起こして。
喘息の発作の薬は、心臓に対してすこぶる相性が悪い。
心臓の発作の薬を飲めば、逆に喘息の発作を起こし窒息する。
倒れたドモンの背中に雪が降り積もる。
明日は誕生日。今日はドモン40代最後の日。
ドモンは近くの診療所に一旦担ぎ込まれたものの手に負えず、王都内の学校と併設されている大病院へと運ばれたのが午後9時。
ナナ達にその一報が飛び込んできたのが午後10時で、遅い夕食を取っている最中だった。
「ああドモンが倒れたの」とナナ。
「それは大変ですわね。サン、おソースを取ってくれるかしら?」とシンシアも素っ気ない態度。
サンはそれに対しなにか激しく違和感を覚えたが、今はとにかくソースが先だと厨房に取りに向かう。
とても大事なことを聞いたような、そうでもないような。
「とりあえず今日は夜も遅いし、明日様子を見に行けばいいわよ」とナナに言われ、サンは納得した。
病院のベッドの上で、ドモンはまた悪夢に苦しんでいた。
一人ぼっちの個室で、見舞いに来る者は誰もいない。
「ちょっと触らないでよ、気持ち悪い。他の誰に触れれても別に平気だけど、ドモンに触られるのだけは嫌なの。ごめんね」
「ナナ・・・」
「ドモンのことは好きだけど、そういうのじゃないの。お父さんみたいなもんで・・・私のお父さんは血が繋がってるから平気だけどね」
ナナに拒否され落ち込むドモン。
父親を愛するような気持ちはあるが、ドモンは父親ではない。
そして父親のように愛しているのだから、抱かれるなんてもってのほか。性的な目で見られるのも気持ちが悪い。
「チラチラと着替えを覗いてるの知ってんだから。本当に気持ち悪いわね」
ナナはそう言い残し、何処かの色男と手を繋いで出かけていく。
窓の外を見ると、その色男と猛烈に抱き合いながらキスをしていたが、別の色男や若者、歳をとった爺さんもやってきてナナと抱き合いキスをした。
「ドモンさんともしてあげればいいのに」と言った若者に「それだけは無理。そんなことするくらいなら馬のフンに口づけする方がマシよ!」というナナの声が聞こえ、ドモンはそっと窓を閉じる。
「お食事が出来ました御主人様」と、サンがドモンをドア越しに呼んだ。感情がない冷たい声。
「ああ、すぐに行くよ」とドモンが返事をするも、それに対する返事はない。
食堂に行くと、テーブルに豪華な食事が用意されていた。
ドモンが食事をしていると、サンが立ったまま伏し目がちにそれを見守りながら、ポツリと小さく何かを呟いた。
「・・・し」
「え?」思わず振り向いたドモンだったが、サンとは視線が合わない。
「人殺し・・・お父さんとお母さんを返して・・・うぅぅ」
「えぇ?!」
「オェェェェ!!同じ空気を吸っているのが気持ち悪いっ!!」
「・・・・」
そう言ってテーブルに嘔吐したサンは、すぐに食堂を飛び出していった。
代わりに飛び込んできたのはシンシア。手に包丁を持ちながら。
「サンに何をした!このケダモノ!」
「俺は何も・・・」
「サンのみならず、ワタクシを辱め、陥れ、それで救いの手を差し伸べるフリをして騙し、洗脳したその罪を償いなさい!」
「ぎゃああああああああ!!」
ドモンの腹に包丁をひと刺しした後、転げ回るドモンに馬乗りになり、その体中を滅多刺しにしたシンシア。
サンがすぐにやってきて、血で汚れたシンシアの顔や手をおしぼりで拭き、「ペッ」とドモンの顔にツバを吐きかけ去っていった。
まずここまでが悪夢の序章であり、その後はとても説明できないような残酷な夢が続く。いつものように。
翌日の明け方、悪夢の終わりに、ドモンはまた何者かと対峙することとなった。
喘息と心臓の薬の話も実話だけど、雪の中路上で倒れて、体に雪が降り積もった話も実話だったり・・・。
病院で「酸素の血中濃度はとっくに致死量を越えていて、現在かなり厳しい状態。今夜が山」みたいなことでケーコが呼ばれ、「手を握って声をかけて上げてください!」と医者に言われて、俺の顔を見るなり大爆笑しやがったのは忘れない(笑)




