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第450話

「どうしてあたし達まで入らなきゃならないのよっ!」「そうよ!」「確かに・・・」

「ぼ、僕にもよくわかりません」困った顔で答えたトッポ。


混浴にて、ほぼ全員がツヤツヤ顔の一同が集結。

役目を終えたはずの女ボス達までこの場に呼ばれ、随分と賑やかになった。


「宜しいじゃありませんか。これも何かの縁ですことよ?」

「じゃあせめてあたし達のタオルは返してください!なぜ取り上げるのよ!」手で体を隠し、お湯の中に潜った女ボス。

「いいじゃないオホホ」「ワタクシももう少し若ければ、タオルなんて必要ありませんでしたわ」「ほーんと羨ましいですこと」

「ミィもタオル返して!うぅ~ん、奥様お離しください!そこつまんじゃだめぇ!」ひとりの奥さんの膝の上に座らせられ、何やらいたずらをされているミィ。力尽くで抜け出そうと思えば出来るが、危険なので控えている。


オーガの温泉のような田舎の混浴ならまだしも、こういった宿の混浴では落ち着いて楽しむのが基本。そうカールも伝えた。ドモンからの受け売りだけれども。

だが一度スッキリしてからというものの、すっかりそのタガが外れてしまってやりたい放題。

一線だけはギリギリ越えていないのが救いである。


「ハァハァ・・・こっちはスッキリしてないってのに・・・キノコだって食べてんのよこっちは!」なんとかタオルを取り返し、体に巻き付けた女ボス。言葉遣いを気にする余裕はもうない。

「あら?そうでしたの?お可哀想に。あなたの従業員の殿方は、何度かスッキリされていた様子ですが」「でもまだまだお元気ですわね」

「!!!」「なんですって?!」「おいまさかお前・・・」

「あなたがご心配なさるようなことはしておりませんわ!」「オホホホ!」「ウフフフ」


世間一般の常識を持ち合わせていない奥様方が一度こうなると、もう手はつけられない。

嫉妬に狂った夫が妻を追いかけ、抱きしめたりやお仕置きしたり。そのどちらにせよ大喜びの奥様達。

見るに見かねたトッポとチィが「手紙でドモンに報告する」と脅して、ようやく収拾がついた。


一時間後に会議を行う予定の大広間に集合する約束をし、全員男湯と女湯へ戻っていった。

女ボスと女性従業員らもようやく女湯へ。



この日はもうすっかり遅くなったので、会議は翌日から執り行われることと決まった。

なので今晩は食事のみ。

食事は各部屋で取ってもいいとカールは伝えたが、折角の機会だからと、晩の食事は毎日全員が大広間で取ることとなった。


ひとりふたりと風呂から上がり、のんびりと着替えを済ませていた頃、厨房はまさに戦場のよう。


この国の王宮のマスターシェフやシンシアの国のマスターシェフ、カールの屋敷の料理人達、各国の料理自慢や専属シェフ達が、縦横無尽に厨房内を駆け回っていた。

各自が協力し、世界最高峰の料理を作るために。


何日も前から、一足早く行われた料理人達によるサミット。

本来であれば出し惜しみするような技術も、今回ばかりはそうも言っていられない。


ならば今ある全ての知識を共有しようという事になったのだ。もちろん珍しい食材や、最近作れるようになったソースも共有。


「エビをフライにしてソースをかけると、このような味になるのか!」

「我が国のこの木の実を砕いて衣にするのはどうだろう?」

「ドモン様が以前お作りになったマーマレードと呼ばれるオレンジのジャムなんだが、これをそちらの国のリンゴで同じ様に作ってみたのだが・・・」

「む?!リンゴのジャムにすりおろした玉ねぎと果実酒を加えてみてくれ!そこにこのソースを加えれば・・・」

「オーガの里の牛肉に合うなこれは!割合をもう少し研究しよう。おい誰か手を貸してくれ!」「はい!」


朝から晩まで、出会った初日からこの様子である。

たとえ夜中であっても、誰かが何かを思い付けば、すぐに集まり話し合う。

皆それが全く苦にもならず、料理人人生の中で一番充実していた。


「今回はあなたがマスターとなるべきだ」「ああ、俺もそれで問題はない」「そうだな」「任せるぜ」

「そ、そんな!私なんて皆様と比べればまだまだ駆け出しの・・・」と、カールの屋敷のコック長。


「気にすることはない。あの人と一番付き合いが長く深いんだ。異世界の食材や調味料の管理もやってきたんだろう?」

「ドモン殿もきっと同じことを言うはずだ。『あんたに任せた』と」

「なんて恐れ多い・・・」


各国の王宮料理人のトップもいる料理人達の総料理長を任され、カールの屋敷のコック長はただただ足が震えた。

大役どころの話ではない。責任も重大。

ただ間違いなくやりがいはある。恐らくこの世界で一番といえるほどの。


「わかりました。私も覚悟を決めます!全身全霊をかけて取り組ませていただきますので、皆様も・・・」

「フフフ、肩に力を入れ過ぎだ。こんな時あの人ならなんと言うと思う?」

「きっと『飯作って食わすだけだろ。そんな力むなよ』といったところでしょうな」「プッ!」「会ったことはないけど、そういう人なのか」

「ハハハハ」「ハッハッハ」「ワハハ確かにそうですな!」


ドモンはそんな事を言ったことはないが、頭の中に浮かんだドモンは確かにそう言っていた。

おかげでようやくコック長もリラックス。



そうして迎えた本番当日。

皆の到着がズレて予定が大幅に狂い、作る料理も変更。

旅の疲れを癒やすためにまずはさっぱりとした物をと考えていたが、夜になり、風呂上がりにお酒と一緒に食べる物として相応しいものに変更しなければならなくなった。


その結果この日の料理は揚げ物に決まり、風呂上がりのタイミングに合わせ、食材を寸前で捌いて新鮮さを保ちつつ、ギリギリで揚げながら提供していくことになった。


「来るぞ!」

「そちらはエビの準備を!牛肉は予定通りリンゴジャムを挟んだミルフィーユカツに。どちらもすぐに鮮度が落ちるので、素早く下ごしらえを!」

「イエッサー!」「イエッサー!」


「エビフライには2番の乾燥パン粉、ミルフィーユカツは寸前で割いた生パン粉を使うこと!」

「イエッサー!」「イエッサー!」「イエッサー!」「イエッサー!」

「とんかつソースはこれで。タルタルソースは玉ねぎの辛味が抜けていない!作り直しを!」

「なんと!?ではすぐに私が!」


コック長、いや、総料理長の声はわかるが、他はもう誰が何を言っているのかはわからない状況。

そうして作られた自慢の料理が、風呂上がりの冷たいエールを楽しむ一同の前へと並べられていった。




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