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第443話

「この灰を煮た液体は『かん水』と呼ばれる液体で、とある麺を作る時に使うものなんだ」

「き、汚っ・・・」ドモンの説明にナナの素直過ぎる感想。

「上澄みだからキレイなんだよ・・・多分。とにかく、これを使うと麺が弾力性を持ってモチモチの食感になるんだ」

「実際に見てみないとまったく信じられないんだけど」


辛辣なナナの意見だけれども、ドモン以外の全員が同じ気持ち。

というより、ドモン本人ですら同じ気持ち。

現在ではこのようなかん水はほぼ使用していない。手間と時間がかかりすぎるためだ。


「さて麺を作る前に、鶏ガラで出汁を作っていくぞ。ちょっと誰か、この貰ってきた鶏の骨を洗って、お湯をかけたあと煮てくれ」

「お、俺がやるよ!麺作りも俺がやりたいから時間はかかっちまうだろうけど・・・」

「じゃあ準備と煮始めるところまでやんなよ。煮始めたらアク取りするだけの単純作業だからさ」

「わかった!」


ヨハンに教えた時と同じ様に、その手順を教えていくドモン。

横からナナが「鶏鍋なの?飲んでいいの?何作ってるの?」とうるさい。


「スープのパスタなのか?」

「まあ似たようなものだよ」


その瞬間、サンだけがピンと閃いた。

以前、異世界で買い物しているドモン達を待っている時の騎士のあの台詞を。

失敗したのは騎士だが、ドモンに任すと頼まれていたのに失敗をさせてしまったサンは、あの時のことをずっとずっと気に病んでいたのだ。


「御主人様、もしかして・・・」

「それはまだ内緒だよサン」


ポンポンとドモンに頭を撫でられたサンは、猫耳リボンをポケットからサッと取り出し慌てて装着。ニコっと笑いながらドモンの顔を覗き込んだ。

その笑顔の破壊力にシンシアは思わず鼻血が出そうになり、慌てて鼻を押さえて上を向いた。シンシアの性癖は崩壊していく一方。


「さてここからは手探りだ。いつか俺も作ろうと思ってはいたから、作り方は調べてあるんだ」とスマホを取り出すドモン。

「もう何を作ってるのかいい加減教えてよ!」とスマホを覗き込むナナだったが、やっぱりわからない。


「上手くいくかどうかわからないからまだ秘密。でも上手くいけば、ナナが一番喜ぶものだよ。ね?サン」「はい!」

「本当かしら?あんな灰を入れたお湯で何が出来るってのよ」


鶏ガラのスープは美味しそうだけど、麺の方はとてもじゃないけど食べられる気がしないナナ。

ドモンは気にせずレシピを確認しながら、塩や卵黄や水、そして例のかん水を混ぜ合わせる。


「真ん中にくぼみを付けた小麦粉の真ん中にこの液体を流し込み、まわりの粉を少しずつ水に被せるように混ぜ合わせていくんだとさ。ほら、店主出番だぞ」

「お、おう!パスタと同じ要領でいいんだな?それなら得意かもしれない」と店主が腕まくり。

「少し生地を寝かせたら、混ぜて伸ばして折りたたんでを50回繰り返すだって。それで冷蔵庫に入れて二時間寝かせろだと。スープがちょうど出来上がる頃だな」

「50回だって?!絶対に麺が固くなっちまうぞ?!」


麺作りに関しては、一応ここの誰よりも詳しいつもりの店主。

そんな事をすれば、食感の悪い麺にしかならないはず。


「それをそうさせないのがこいつの役割なんだ」とかん水にドモンが目をやったが、店主はどうにも信じられない。

「まあやってみるけども・・・それにしても黄色いな。卵入れただけじゃこんなにならないぞ」

「それもかん水の効果だよ。そのせいで煮るとちょっと臭いけど、美味しい麺になるはずだ」

「とにかくこれを棒で伸ばして、打ち粉をして切っていきゃ良いんだな?その辺りはお手のもんだ」

「お、流石だね。太さは1ミリ程度でこれをこうして・・・」「ふむ」


ドモンと店主だけがわかる謎の会話。

すっかり飽きてしまったナナとシンシアとエミィは、煮ている最中の鶏ガラスープを味見と称して少し盗み、塩を入れて飲んでいた。サンは八の字眉で下唇を噛み我慢。


「サンもみんなと一緒に飲んでおいで。まだたっぷりあるし、また作るかもしれないからさ」

「は、はい!」


その直後、みんなの「あ!」という叫び声が聞こえ、酔ってベロベロになったサンがドモンに抱きついてきた。

ドモンの身体のあちこちを弄りながら、クンクンとニオイを嗅ぐサン。


「なんで一瞬でこんな事になってんだよ!」

「シ、シンシアが悪いのよ!料理用のこのお酒と混ぜ合わせるんじゃないかしらって言い出して混ぜていたから!」

「美味しくなかったので後で捨てようと思い避けておいたものを、サンが間違って飲んでしまったのですわ・・・」

「私がすぐに捨てておけばよかったのよぅ・・・」


言い訳したところでもうどうしようもなく、ドモンはサンを連れ食堂から退散。

残されたナナ達も気まずそうに休憩室へ。


店主だけが食堂の厨房に残り「少し割合を変えて、色々な麺を作ってみるよ」と、真面目に麺作りに勤しんだ。

汗だくの額にタオルを巻いて、本物のラーメン屋の店主のように、一心不乱に小麦粉を捏ね続ける。妻と息子の顔を頭に思い浮かべながら。


『あなたが作るパスタが世界一美味しいわ!お願いよ!うちの店に来て!』

『見てよあなた!お客様達のあの笑顔を!あなたには人々を幸せにする力があるのよ』

『この子もきっとあなたのような立派な人になるわ。だって小さな頃からあなたの料理を食べているんだもの!ウフフフ』

『どうしていつも帰ってこないの?何が不満なの?!仕方ないじゃない!』

『ねえ待ってちょうだい!!うぅぅ・・・』


他に誰もいない食堂の厨房で、店主の額には汗、目には涙。

そんな様子をドアの向こうから覗き込んだドモンとサン。


「きっと美味しいラーメンが出来上がりましゅね」

「サンも驚くと思うよ。お湯を入れるだけじゃない本物のラーメンを食べたら」

「楽しみでし」

「そうだな。でもサン、なぜ下着を脱ごうとしてるんだ?ここは廊下だぞ」

「お、おし・・おしっこと・・・う、うぷっ」

「待て待て!我慢だサン!!」


サンを抱っこで抱えながら、三階の浴室へ飛び込んだドモンだったが、残念ながら何もかも間に合わなかった。




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