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第437話

「キャッ!!」ガシャーン。

「もう~ほらチィ、何やってるのよぅ!皆さん、割れたグラスに触らないようにしてね。ミィは布巾と雑巾を持ってきて」「はい!」

「ごめんねお母さん・・・じゃなかったエリーさん」

「面倒だからお母さんでいいわよ!ナナとそっくりな顔でエリーさんと呼ばれてもくすぐったいし」


各国の首脳達がカウンターやらテーブルやらにビッチリと座り、大忙しの店内。

もちろん貸し切りであり、外は百名近くの騎士達が取り囲んで店を守っている。


オーガのふたりがナナとサンにそっくりだったため、エリーは本当にいつもの調子に戻り、すっかり懐かしく思えていた。

それは当然ヨハンや侍女三人も一緒。ただひとつだけ大きな違いがあった・・・


「この野菜をこのくらいの大きさに切れば良いのですね?」

「ええ・・・手は切らないでくださいよ?というより、席に座っていてもいいんですよ?」困った顔のヨハン。

「ウフフ心配ご無用です!僕のことはドモンさんだと思ってドンドン命令してください」

「そんなわけにゃいかないですってば。しかもドモンだなんて」

「じゃ、じゃあ、息子だと思ってください・・・お父さん・・・」

「???」


ヨハンに向かって、ボソッと何かを言ったトッポは顔が真っ赤。

トッポにとってドモンは兄。兄の義父がヨハンなら、自分にとっても父であるはず!・・・と、強引に結びつけて。


正直に言うと、チィがエリーのことを「お母さん」と呼んでいたのがトッポは羨ましかったのだ。


「あイタ!!」

「あちゃ~、だから言ったのに。おいエリー、包丁で指を切っちまったみたいだ。見てやってくれ」

「えぇ?!なにをやっているのよぅトッポ!どれ指を見せなさい!」

「え?あ、は・・・・うん」


血が出た指をウ~ンと見ているエリーの顔を見て、トッポの心臓はバックバク。

スケベな気持ちではない。その他のなにか。

エミィにもその『なにか』を感じたことはあるが、今回はその比ではない。


「このくらいなら舐めていれば治るわね。どれどれ、あむ・・・」

「あ!!指なんて舐めては汚いですよ!」

「どうしてぇ?だってドモンさんの弟のようなものなんでしょう?じゃあ私の息子みたいなもんじゃない」

「そ、そんな・・・うぅぅぅ・・・」

「このくらいの怪我で泣かないの!もうドモンさんとは正反対ね、トッポは」


泣いているトッポをギュッと抱きしめ、頭を撫でたエリー。

厨房の中、トッポの涙はますます止まらない。


「父さん・・・母さん・・・!!うぅぅぅ」


正直まるで似ても似つかない。

なのにヨハンからは父のあの頼もしさを感じ、エリーからは強烈な母性を感じた。

とてもとても懐かしい、もう忘れかけていた感覚。


エリーは、ここでようやくこの青年が国王陛下だと理解した。

両親を早くに亡くしたことは、国民は皆知っていたためだ。


だけどエリーの態度は変わらない。当然ヨハンもいつものように。


「まーた家族が増えちまったよ」と頭をペチンと叩いたヨハン。

「賑やかでいいじゃない。ねぇ?」「そうね、お母さん」ヨハンに答えながら、エリーはチィに同意を求めた。


べそべそと泣きながら厨房から出てきたトッポに驚く一同。

その事についてはトッポ本人から説明した。


「お若いのですし、少しくらい甘えたって罰は当たりませんわ!」「そうですわ!グス」奥様方はつい感情移入。

「流石は義理とは言えど、ドモン殿のご両親であるだけありますな。度量が大きい」「うむ」男性陣はただただ感心。


「親ったって、ドモンよりも年下ですよ?勘弁してください皆さん」と、冷えたエールを配ってゆくヨハン。

「ドモンさんってばサンとも結婚するとかって、すぐに家族を増やしてしまうんだから、今更ひとりふたり増えたところでもう変わんないわウフフ」鶏塩鍋の仕込みの間、茹でた枝豆を配っていくエリー。


「となると、私達とも親戚になるということですなハッハッハ」とシンシアの父。

「え?どういうことなのぉ??」

「ワタクシ達の娘のシンシアともドモン様と結ばれることになったのですわ。よろしくお願い致しますね!」椅子から立ち上がって、両手でエリーの手を握るシンシアの母。

「え?!娘って・・・シンシアって・・・えぇぇぇ?!」


この人らが隣国の王と王妃であると説明され、その娘のシンシアが王女であることを知って、ヨハンとエリーは絶句。


「もちろんナナちゃんが第一夫人ですし、シンシアは第三夫人ということになりますわ!」

「い、いやぁそのなんというか・・・ドモンときたらまったく・・・」


納得がいく説明をしたつもりのシンシアの母と、まったく納得がいかないヨハン。

ナナやドモン本人ですらまだ納得していないのだから、当然といえば当然の結果。


「ええと今日は、王様とお姫様が私達の息子と娘になって、臨時でオーガの娘もふたり出来たってことでいいのかしらぁ?」

「ワハハ!」「これは愉快だ!」「オホホホホ」


首を傾げながら冗談を言ったエリーに、大笑いしたお偉い様達。

お陰で店の中はすっかりリラックスムード。ヨハンとエリーの緊張も完全に解けた。


「ところでドモン殿の部屋はどちらになるのですかな?」とどこかの王様。単純に何か珍しい物でも見られないものか?と考えた。

「ドモンさんはナナの部屋に一緒に住んでいたの。はい枝豆のおかわりね?はいは~い」


忙しそうにしながらも、そう答えたエリー。

流石に娘の部屋に、勝手に人を入れることは出来ない。たとえ王様であっても、女の領域は不可侵というのが世の常。


ただ、このエリーの判断はファインプレー。

ドモンが買ってきた本がもし見つかっていたならば、恐らくこの国同士の関係性や、ドモンの生活も破綻していただろう。



枝豆は男性陣には概ね好評。

女性達は手で食べるというのが、かなり抵抗がある様子。

パンなどの乾いた物は掴んで食べるが、湿っている食材を手づかみするのは、上品なこの奥様方にはやはり無理。


「はいよ!これもドモンから教わった鶏の唐揚げだ。味付けに使ってるのは、ドモンが異世界から持ってきた醤油と呼ばれる調味料だけれども・・・この調味料も今屋敷で作っているんだろう?カールさん」

「ああ、来年の秋口には試作品が仕上がる予定となっている。皆様も宜しければ、後ほど是非ご見学にいらしてください。作り方は公表するというのが、ドモンとの約束でありますので」


唐揚げを盛った大皿を、一定間隔で配膳していくヨハン。

いきなり話を振られた格好のカールが、大汗をかきながら全員に説明。


だがまだ醤油が何かをわからないものもいる。食べた焼肉のタレの中に入っていたというのは聞いてはいたけれども。

なので反応はやや薄かった。


「どういった調理方法なのか、どういった味なのかも、まるで想像がつかんな」

「こ、焦げた鳥のお肉に見えますわね・・・」

「まあとにかく食べてみてくれ。これはドモンが初めてここにやってきた時、俺達に初めて作ってくれた料理なんだ」

「ウフフそうだったわねぇ。すごく緊張した顔でウフフフフ!」とヨハンとエリー。


これに関してはカールも義父も、そしてトッポや侍女達も、不敵な笑みを浮かべて様子を見守っている。

もちろんその期待を裏切ることはない。


ドモンが作ったあの唐揚げは、元の世界でもトップクラスと言えるほど美味しいものだったのだから。





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