第436話
「何を言ってんだよグラさん!無理に決まってるだろう!ドモンがいるならともかく」両手で頭を抱えたヨハン。
「そ、そうよぅ!!」エリーは両手を胸の前で握って、人生最大のぴょんぴょん。
「す、すまない。俺達が提案したわけではなく、陛下自らが提案したんだ。国王陛下はドモンを兄のように慕っていて、ふたりの話もよく聞いていたものだから、この機会に是非挨拶がしたいと言っているんだ。ドモンの家族ならば自分の家族でもあるからと・・・」
「何を言ってるのよ~!!」
「俺だってよくわからないんだ!」
ふたりが混乱するのも無理はない。
グラも初めてその関係性を知って実際にそれを見た時には、とても信じられない気持ちだった。
ともかく、一庶民が国王に謁見することですら大変珍しいことなのだけれども、国王の方から自宅へやってくるというのは異例中の異例。
しかも他国の首脳達も一緒となれば、この世界初の出来事。前代未聞である。
元の世界で例えるならば、自分の家に天皇陛下やどこかの女王、各国の大統領やらその夫人達が、いきなり「お邪魔します」とやってくるようなもの。
当然受け入れられるはずもないし、話を聞いていた例の侍女三人も足がすくんだ。
飲み物を要求され、そのグラスにもし汚れが付いていたとなれば、それだけで一巻の終わりである。
訳を話したグラも含めて、全員がオロオロと狼狽しているところへ、カールも馬で駆けつけてきた。
「ヨハン!エリーよ!!」
「ねえカールさんどうしたらいいのよぅ!」
「な、鍋料理を用意してくれ。例の焼いた石を入れる鶏肉のものだ。あとなにかドモンから教わったいくつかの珍しい料理もだ。出来得る限り私も協力するし、お前達のことは私がこの首をかけても守り抜くと約束する!だから今回ばかりは頼まれてくれ!」
泣きそうな顔をしながら、頭を深々と下げたカールに驚くふたり。
「頭を上げてください」とヨハンが言っているところへ、一台の馬車が到着。義父ともうひとりが降りてきた。
「どうなってるのよぅ?!もう!!」と義父に向かって涙目で怒るエリー。
「すまぬ。私もまさかこんなことになるとは思わず・・・」
このふたりを会議を行う宿の方に呼ぶことは一応義父も考えてはいたが、まさか店の方に全員が寄りたがるとは想像もしていなかった。
完全に想定外である。
「あ!おふたりがヨハンさんとエリーさんですね!やあやっとお会いできました」
「ああ、どうも」「どちら様?」
「僕はトッポと言います。お城ではアンゴルモアという名でやっていますが。いつもいつもドモンさんにはお世話になりっぱなしで・・・あ!ナナさんにもお世話になっていますよ!」
「あらまあそうなの・・ん?なんだか王様みたいな名前ねぇ」「アワワワ・・・・」
トッポの挨拶に、まだピンときていないエリーと、ピンときてしまったヨハン。
周囲を取り囲む騎士達が片膝をついていることに気がつき、更にその周りを取り囲んでいる街の人達も、少しずつ今見ている現状を理解し始めた。
「エリー・・・その王様だ・・・」額に脂汗が滲むヨハン。
「ええと・・・王様ってなんの王様なのかしら??」うーんと首を捻るエリー。
「わ!本当にお母さんそっくり!」「はい!」チィとミィも降りてきた。
「えっ?!ナナ??それにサンも?」エリーは目が白黒。
「エリーさんね。私はナナじゃなくてチィよ。オーガなの。ナナと似てるでしょ!」「私はミィと言います。こちらにいる王様の護衛をしているのです」
「あのふたりにそっくりなのね、あなた達。それでふたりで王様の護衛をしていると・・・ん??それじゃあまるでこの人が王様みたいじゃないの。それよりもトッポって、どこかで聞いた名前なのよねぇ。うぅん何だったかしら??」
オーガのことは手紙に書いてあったのと、話にも聞いていたのでそこまで驚かなかったが、ナナとサンにこんなにもそっくりだとは思わなかった。しかしそのおかげもあり、すぐに打ち解けられた。
「エ、エリーってばよ・・・」
「ねえヨハン、どこかで聞いたわよねぇ?」
「ドモンの手紙だ。そしてこのお方がその王様だよ・・・」
「???」
ヨハンが説明するも、あまりの状況に全く頭が追いついていないエリー。
なんならもう考えるのも面倒になりはじめ、ナナやサンとそっくりなこの二人と、お店の中で呑気にお話でもしようかと考え始めていた。
そんなエリーを見たチィが「本当にお母さんとそっくりだわ」と言いながらヤレヤレのポーズ。
そんなチィもエリーと全く同じように「王様ってなによ?何の王様よ?」と以前言っていたことを思い出し、トッポはクスクス、ミィは困った顔で苦笑。
ちなみに大工や青オーガも言っていたが、いきなり王様だなんて言われれば、あっちの世界でもこっちの世界でも「何の王様?」といった反応になっても仕方ない。
「もう訳がわからないわぁ。とにかく皆さんお店に入って?ほらあなた達も。今すぐ開けますからね?」
「エリー、だからその方は・・・」ヨハンの禿頭はもう汗だく。
「ナナ、照明をつけて。サン、テーブルを拭いてくれるかい?」
「私はチィよお母さん。あ、違った」「私はミィです大奥様」
「もうどっちでも良いわよぅウフフ」
現状がよくわからなくなってしまったエリーは、もういつものように接客することに決めた。
そんなエリーを見たヨハンもついには開き直り、なるようになれ!といった気持ちに。
何かあれば全てドモンのせいにすることにした。
店の前には続々と馬車が到着。
王様らしい格好の王様やお妃様がぞろぞろと降りてきて、辺りはより騒然となった。




