第432話
「どうしてお前達は鍵もかけずに・・・」と呆れたドモン。
「だって私はそんなつもりはなかったのに、この人ときたら、急に興奮して我慢ができないなんて言い出してウフフフ」「オ、オホン!!」
風呂から戻ってきたヘレンと夫。風呂で身体を流しあったのも数年ぶり。
ヘレンはムチムチの身体を夫に押し付けるように、腕に絡まっている。
「お、奥様・・・し、失礼ですがそのお顔は一体・・・」と侍女のひとり。
「そうなのみんな見て!ドモン様の施術はまるで魔法よ!あんなにも荒れていた肌がほら!」
「すごいです奥様!」「美しいです!」「本当にこんな事が?!」
「それに心なしか着衣の腰回りが緩くなってる気もするわ!きっと痩身効果もあるのね!それに髪の毛まで!!」
まだまだぽっちゃりのヘレンだったが、少しだけ身体が引き締まった上に、ニキビやそばかすで少しボコボコしていた顔もかなりスッキリし、ツルツルになっていた。
初めに見たガマガエル感はすっかり無くなり、痩せれば美人だったのだろうなというのがわかるように。
「まあ俺の腕というより、オイルと・・・あんたの旦那さんの施術が上手だったんだろう。随分と激しい施術をしてたらしいけどイヒヒヒ」
「もう勘弁してくだされドモン殿・・・」赤い顔のヘレンの夫。
「でも、あながち冗談でも嘘でもないんだよ。好きな人から愛されることは、女性を一番輝かせるものだ。もちろんその好きな人というのは、旦那だけではないぞ?」
「え?」「む?」
「ほら、出番だ」
息子の背中を押したドモン。
「父さん・・・そして母さん、言いたいことがあるんだ」
「え?」「一体どうしたというのだ?」
「今までありがとう。そしてこれからもずっと元気でいて欲しい」
「!!!!」「!!!!」
渡した花束を真ん中に、三人は抱き合いながら号泣した。
それを見ていた侍女や騎士達も大号泣。
ドモンはそれらを見届けると、挨拶もすることなく帰っていった。
「・・・・なんてことがあったのですよ。オホホホ」
「そうだったのですかオーナー」「大変だったのですね・・・」
結構最近のことだけれども、昔話のように話したヘレン。
体や環境が劇的に変化して、遠い昔のことのように思えて仕方なかったのだ。
「あなた方がこれからやることは、きっとその人に私のような幸せを与えますわ!だから皆さん、この仕事に誇りを持って望んでください」
「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」
「もちろんその分お給金も弾みますからね!ウフフ」
「任せてくださいオーナー!よぉしやるぞぉ!」
やる気を見せた従業員達に目を細め、ウンウンと頷いたヘレン。
「で?今日はどうするんだ?俺の施術受けていくか?」
「もちろんですわドモン様!」
「指名料はしっかりいただくぞ。銀貨三枚。それとも身体で払うかい?イヒヒヒ」
「もうドモン様ったら!」
皆が見ているというのに、タオルで隠すこともなく真っ裸になったヘレン。
オイルエステにもすっかり慣れて、もう恥ずかしさはない。
「じゃあ今日は太ももと腰回りを重点的にやるぞ。強めにやるから覚悟しておけ。そらそらそら!!」
「オォン!ハアン!ヒィィ!!出ちゃう出ちゃう!皆様の前で出ちゃうぅぅ~!!あぁ!そこいじっちゃ駄目ぇ!!」
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」
皆が赤面したその瞬間、不意にドアが開いた。
「ドモン様!ナナのこれは一体どういうことですの?!」「御主人様!奥様が奥様がピカピカです!」
「エヘヘ!可哀想だからふたりとも連れてきちゃった・・・って、何これ?部屋の中なのに雨が」
シンシアとサンにお肌の自慢をしたナナが、ふたりをここへ連れてやってきた。最悪のタイミングで。
何が起きたのかは詳しくは書けないが、ドモンは怒られた。三人に酷く酷く怒られた。
「ほらドモン!しっかりやりなさい!またお尻叩かれたいの?」
「うぅ・・・燃えて死んだ時と同じくらい尻が痛いよ・・・三人で餅つきみたいに叩きやがって・・・」
「あーんたが悪いんでしょ!!!」
シンシアにマッサージを開始したドモンを見張るナナ。
サンはドモンの下着をペロリと捲り、ドモンのお尻に薬草を塗っている。
ドモンに何かあった時用に、コンサートの時に貰った良い薬草を常備しているのだ。
薬草を塗りついでに、皆にバレぬよう、こっそりドモンの子ドモンを大人にすることも忘れない。
それこそドモンが死んだ時に聞こえたあの時の心の声に、サンはずっと従っていた。薬草を塗ることとこれは、サンにとってはワンセット。
酔うと所構わずドモンの下着に手を突っ込み「サンがしっかり剥いて大人にしておきますね」と、大きな声で周りに知らせるのだけはヤメて欲しいところ。
「あぁ~ドモン様、とっても気持ちが良いですわ・・・もう少し強くしてくださっても宜しくてよ?」
「はいシンシア様の仰せの通りに・・・」
「そこですわー!そこを強く!ウゥン!なんて素晴らしいものなのかしらこれは。しかもこれで綺麗にもなれるだなんて」
「シンシア様は今でも十分お美しいでげすよ」
せっせせっせとシンシアにオイルマッサージを行うドモン。
そのよくわからない言葉遣いに、マッサージを受けながらサンと一緒に笑っていた。
「さあシンシア終わったよ。身体を綺麗に流してきて。はい、次はサンだ。裸になってお股を開け」
「は、はい!」「ドーモーン?」
「タオルを巻いてうつ伏せに横たわってくださいましサン様」
「サンでいいです・・・」
少しでもふざけようものなら、すぐにナナの指摘が入る。
いきなり頭にとんでもない液体を浴びさせられたのだから、ナナが怒るのも無理はなく、ドモンも全く逆らうことが出来ない。
「じゃあサンも始めるぞ。ほら」
「フゥ!!・・・クプププ・・・キャハハハハ!!」体をよじり、のたうち回るサン。
「あら?やっぱり子供にはくすぐったいのかな?気持ちいいんだけどなー」とナナは不思議顔。
「お、大人でしゅから・・・ああ~らめらめらめ~!!くっぴぃぷぅ~!!オホヒヒヒヒ!!」
「身体が小さいから敏感なのかな?この辺は本気で少し研究しないと駄目かもしれん」
ナナやシンシアのような身体の場合は、そのまま手で身体を揉んでいる感じになるけれど、サンくらい身体が細く小さな場合、オイルをつけた手で体を撫でると、サン曰く『巨人の大きな舌で身体をベロンベロン舐められているような感覚』になってしまうとのこと。
片手で力を抜いて優しくマッサージをすることで丁度良い具合なったが、初めの衝撃が強すぎたのか、どうしてもその『巨人の舌』の感覚を思い出してしまい、サンは頬をパンパンに膨らませながら施術を受けることになってしまった。
「ただいま戻りました。見てください皆さん。ほらワタクシのこの肌を」嬉しそうなシンシア。
「オホ・・おかえりなさいまふぇシンシア様ヒャハハハ!!イヒヒプクゥ!!」きちんと挨拶をしようとしたサンだったが、集中力が途切れ、またくすぐったさがぶり返した。
「ああ!何をしているのサン!この子ったらまた粗相をして!!」
「今更よ。もうさっきからこの調子だもの」ナナはヤレヤレのポーズ。
一度くすぐったさを味わうと、暫くの間はくすぐるフリにも身体は反応してしまうもの。
サンはなるべく忘れようと気をそらしていたが、少しでも気を抜くと思い出してしまい、もう駄目。
結局、身体から毒素と老廃物を出せるだけ出し切り、サンは今まで以上のピカピカの肌になり身体も細くなった。
あと数年で三十路を迎えると言っても、誰一人として信じる者はいないだろう。
ヘレンやサンの経験を元に、このエステサロンには常連だけが受けることが出来る『老廃物出し切り・秘密の若返りコース』なる裏オプションが出来上がり、この街の変態淑女達を喜ばせることになった。
今回ばかりは事実の方が完全に小説を超えちゃっているので、ある意味フィクション。




