第431話
「随分親不孝しちまったみたいだな」
「・・・・」
「・・・と、自分でも少し思っているんだろ?今となっては」
「ええ・・・」
ドモンの話に息子は言葉少な。
息子は息子で、何か思うところもあるのだろう。
「まあ見ての通り、親なんてものは完璧な超人でも聖人でもない。だらしなくヨダレも垂らすし、失敗もする。快楽を求めてスケベだってするし、さっきなんて仰向けで脚の付け根を揉んだら力んだのか、壁までおしっこ飛ばしちまったんだぜ?気づいていたか?壁がお前の母さんの小便まみれになっているのをイヒヒヒヒ」
「や、やめてください!!」
「人間は親だろうがなんだろうが勝手な人は勝手だし、わがままな人だっている。子供は自分の親だけはそうじゃないって勘違いしがちだけどな。そして子供が一番勘違いしがちなのは『親は子供の心を完璧に理解できる』と思っていることだ」
「・・・・」
「そんなもの出来ないんだよ親は。わかってあげたいとは思っているだろうけれど、そんな能力なんかはない。これは本当の子だろうが養子だろうが変わらねぇ。大賢者でも無理だ」
「!!!!」
この息子が思春期の時に一番気にしていたこと。
本当の子供じゃないから、自分の事をわかってくれないんだと思っていた。
ドモンにその核心を突かれ、息子は絶句。
その顔の変化も観察していたドモンは、やはり図星だったかと確信し話を続ける。
「それにな、傷ついているのはお前だけじゃない。さっきも聞いていたんだろ?親だって同じ弱い人間で、傷もつく。お前どれだけ罵倒してきたんだよ、これまで。親だからっていくらでも言っていいなんて、通用するなんて思うなよ?クソガキが!」
「・・・・」
「それでもだ!お前がいくら嫌っていようがだ!あいつらはお前のことを気にかけて、愛し続けて。これが本物の無償の愛だぞ?お前にはそれがわかってるか?」
「うぅ・・・」「うぅぅ~」「グス」
「お前に出来るか?もし母親がずっとお前の事を嫌いだと言い続けたとして、それでも愛し続けることが出来るかって聞いてんだよ」
「!!!!!」
息子も涙を流していたが、廊下の奥の曲がり角からも泣き声が聞こえた。
恐らくこの家族をずっと見守ってきた侍女達でもいるのだろう。
「まともに会話をしたのも久々だと言っていたな?母さんと呼んだのも久々だと」
「ええ」
「お前、両親が死ぬまでこの状態のままだったら、あと何回『母さん』って呼ぶことが出来ると思う?それに対してあと何回、お前の母親が笑顔を見せてくれると思う?」
「え??」
親の死などまだ想像もしていなかった。
鬱陶しい存在のまま、ずっとそこにいるものだと思っていた。
「前にそう呼んでくれたのは、5年ほど前だとさっき言ってたけれど、この調子のまま長生きしてあと40年くらい生きるとしたら、お前は今日を併せて、あと7~8回しか母親の笑顔は見られないということだ」
「そ、そんな・・・」
「あっという間だぜ?お前は親から貰った愛情を一度でも返したことがあるか?あいつらが何千回何万回とお前に与えた愛情、返したことがあるのか?今から返せるのか?40年どころか、もしかしたら明日死ぬかもしれないんだぞ?人なんてどうなるかわからないからな」
「あ・・・あ・・・あ・・・」
息子は深く後悔した。
まったく恩を返しきれていないとわかったからだ。
毎日の食事はもちろん、どんなに眠かろうが疲れていようが、母はいつもすぐに駆けつけてくれていた。
養子であっても、まるで本当の息子のように。そしてそれは当然父も。
「俺は、俺はどうしたらいいのでしょう?どうしたら返せるのでしょうか?どうしたら罪滅ぼしが出来るのでしょうか?ドモンさん・・・」
「まあ俺にもそれはよく分からねぇけど、子供がいる友人から聞いた答えなら知ってるよ」
「な、なんですかそれは?!何をすればいいんですか?!」
「たった一言でいいんだってさ。『ありがとう』って。それで親としての人生の全てが報われるんだと。出来れば自分で買った花束を添えてな」
「!!!!」
話を終えるなり、護衛の騎士を引き連れ、馬で屋敷を飛び出していった息子。
それを見送ったあと、ドモンは曲がり角に隠れていた侍女数名を引き連れ空き部屋に入り、侍女達にもオイルなしのエステ体験をさせた。裸にしてたっぷりと。
無論、ナナには秘密である。
「ハァハァハァ・・・ン、ング・・・」「ハァ~ン」「アンッ!つまんじゃ駄目ぇ!」
「さあお前達ふたりは、こいつの両脚を持って左右に拡げるんだ。残念ながらオイルは部屋に置いてきてしまったから、代わりに俺が舌でペロペロと、たーっぷりほぐしてやるからなイッヒッヒ」
「ああ~ドモン様~!エステというのは本当にこのような事を・・・恥ずか・・・恥ずかしいっ!」
「最後は硬い肉の棒で身体の中からズッポシ、じゃなかった、しっかり揉みほぐ・・・」
「ドモン様ドモン様!!皆様お戻りになられた様子です!!」
「く、くそ!!」
ドアの外で見張りをしていた侍女のひとりがドンドンとドアを叩き、ドモン達は大慌てで服を着た。
皆何事もなかったかのように部屋の外へ。
「おおドモンさん!こんなところで一体何を?」息子の手には真っ赤な花束。
「い、いやまあちょっとな。それよりもほら、早く行ってやれ」ドモン達は真っ赤な顔。
「わかりました!」
つい慌ててそんな事を言ってしまったドモン。
結果的にそこまで慌てさせることはなかった。
「父さん!母さん!」ノックもせずに勢いよくドアを開けた息子。
「うおっ!!」「アァ~ン!見ちゃダメェ!!」
両親のあられもない姿を目撃した息子は、花束を持ったままゆっくりとドアを閉じた。
本当にドモンの言っていたとおりだと、苦笑しながら・・・。
 




