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第428話

「きゃああ!!!なによ!!!男の人がいるじゃない!!!」


てっきりドモンが女性達にスケベな事をしていると勘ぐっていたナナ。

見れば、数名の見習いの男性がドモンの指示の下、女性達にオイルマッサージの練習を行っていた。


「どど、どういう事?!」

「寝ている間にお前の施術が終わったから、どうせならと、今度は一度女性達にも体験してもらおうと思ってさ。ならついでに男達も練習にと呼んだんだよ」

「本当でしょうね?」

「もちろんだ。俺は指示だけ出して、やってたのはこの見習い達だよ」

「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「はい」


当然ドモンの嘘である。半分は本当だけれども。

散々あちこち触りはしたが、ズッポシはしていないのでセーフ。

ただこれにより皆一気に技術が向上し、自信も持てた。


「とにかく一度身体を流してこいよ。オイル流さないとベタベタだぞ。お前ときたらそのまま寝ちゃって」

「そ、そうね。ドモンも行こうよ」

「俺は後でいい。オイルだらけのお前に、オイルまみれにされそうだしな」

「う~ん、ま、そうか。じゃ行ってくるね」


浴室へ向かったナナを見届け、全員が深い溜息。

もし一緒になんて行っていたら、股間についているオイルできっと一悶着あったに違いない。

濡れタオルを借りて、大慌てでドモンは体を拭いた。



「ドモーン!!大変よ~!!」ダダダとナナの派手な足音。

「どうした?!」

「見てこれ!私、サンみたいになっちゃった!ううん、サンよりもモチモチかも?!」

「あらホントだ」「おお!!」「奥様!触ってみてもいいですか?!」


ツヤツヤモッチモチのサラサラのピッカピカである。

ナナは元々綺麗ではあったが、それどころの話ではない。

オイルの付いた手で顔も洗ったらしく、ツルツルのゆで卵のような顔に。


「なかなかいいオリーブオイルなんだろうなこれは」

「ちょっともうヤダどうしよう!毎日通いたい」

「高いから流石に無理だって。このオイル自体が高いってのもあるし、一番安いのでも銀貨10枚、最高だと銀貨50枚以上かかるんだぞ一回」

「そんなにするの?!でもぅ~月に一度・・・三度くらいは通わなくちゃだわ・・・」

「破産しちまうよ。お金だって貯めなきゃならないってのに」


普通の仕事で普通に働いたならば、一日約銀貨10枚ほど稼げればいい方なのだから、毎日は絶対に無理。

月に一度くらいのペースで、『頑張った自分へのご褒美』とかいう女性特有の謎のシステムにぜひ利用して欲しいとドモンは願う。



「サンとシンシアのとこ行ってくる~!」


早く自慢したいのか、着替えを済ませるなりすぐに店を飛び出していったナナ。

そこへ、入れかわるように少し恰幅のいい小柄な中年女性が入ってきた。


見た目は元の世界のお笑い芸人のよう。ラーメンを作ったり、クッキーを焼いていたり、肌が緑色だと言われていたりして、その度に『〇〇じゃねーよ!』とツッコんで笑いを取っているような人にそっくり。


「あ!ヘレン様!・・・ではなくてオーナー!」とひとりの女声が叫ぶと、皆同様に頭を下げて挨拶を始めた。

「かしこまらなくても宜しいですわ。ね?ドモン様」

「随分身体がスッキリしてきたな。着物が似合いそうな体型になってきた」

「狂言師の母親じゃねーわ!ねえドモン様、どうしてもこれは言わなければならないのでしょうか?ホホホ」



話はチャリティーコンサートが行われた後、つまりは宣戦布告によってシンシアが帰国する前まで遡る。

この街を治める貴族の奥さんであるヘレンと、色街の改築に関する話し合いのためにやってきた貴族の屋敷で出会った。


ドモンはなんの気なしに「奥さんは?」と話の流れで聞いたところ、旦那である貴族も相当渋ってはいたが、せめて挨拶だけでもとドモンが頼み込み、観念したかのように顔合わせにやってきたのがこのヘレン。


うつむき加減の暗い顔はそばかすだらけ。弛んだ身体に、傷んでボサボサの髪。


ドアを開け「どうも・・・」と一言だけ頭を下げて挨拶をし、すぐに去っていくその様は、まるで井戸から顔を覗かせたガマガエルが人の姿に驚いて、慌てて井戸の中に戻っていったよう。

今度はどんなスケベな奥さんが出てくるのかと期待していたドモンには、言っちゃ悪いが正直期待外れであった。


「・・・綺麗な奥様をお持ちのドモン殿にお見せするのには、少しお恥ずかしいですが・・・」

「いやいや、そんなことないし、そんなこと言っちゃ駄目だろうに」


流石のドモンも気を使う。

だが気を使っているということ自体がもしわかれば、それが余計にこの夫婦を傷つけるのではないかとドモンは思案し、何事もなかったかのように振る舞ってタバコに火をつけた。


「元はもっと明るく・・・体も締まってはいたのだけれども」

「何かあったのか?」

「来年で二十歳になる息子がおるのだけれども、そのだな・・・、ドモン殿に隠し立てしても仕方のないことなので話すが、息子は養子なのだ。何が悪かったのか私達には子供が出来ずに・・・」

「ああ、そうだったのか。なんか悪いこと聞いちゃったな色々と」


ポリポリと頭を掻いたドモン。

人それぞれ、家庭の事情ってものがある。


「いやいや!ドモン殿は悪くはないし、気を使わないでくだされ。で、まあこれもよくあることだろうが、妻とその息子の反りが合わず、息子の方が滅多に家に戻らなくなってしまったのだ。すっかり遊び人になってしまいましてな・・・」

「ほう」


とりあえずドモンは、自分のステータスのことは黙っておくことにした。

ヘレンの夫は侍女からグラスと酒を受け取り、人払いを頼んだ。


「話の前に、まずは一杯付き合って頂けますかな?」

「いいねぇ。昼間から飲む酒は最高だ。ただし、随分と高くつきそうな酒だけれども・・・」


寂しそうに一度だけ微笑んで、ヘレンの夫である貴族が事の顛末を話し始める。




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