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第42話

ドモンが口八丁手八丁で健康保険の普及活動をしてから数日が過ぎた。

二日目からはドモンのやり口を覚えたナナが『健康保険の窓口』のおっぱいお姉さんとして、街の皆に説明をすることとなった。


ナナのネグリジェ外出事件の噂も手伝いその集客力は絶大で、口コミであっという間に救急搬送用の新型馬車と健康保険の話はこの街の人々だけではなく、近隣の街まで伝わる勢いであった。

ドモンはその間怪我の治療に専念し、おとなしくベッドで寝る日々を過ごしていた。


そんなある日の朝、ドモン達が朝食をとっていると外から「ドモン殿!ドモン殿はおられるか!」と声が響いた。

何事かとヨハンが慌てて階段を駆け下り、その声の持ち主であった騎士を店内に招き入れた。

少し遅れてドモン達も階段を降りてゆく。


「どうしたんだ?」

「ああドモン殿!大変なのです!あ、いや、お体の調子の方はいかがですか?」

「まあ日に日に良くはなっているよ。ところで大変ってなんの事なんだ?」


何やら慌てている騎士にドモンが質問を返す。


「ではその、お体の調子が良ければということであれば、一度お屋敷の方へ来ていただきたいということをお伝えしにきたのです」

「カール、いや貴族様達がお招きだってことか?」

「はい。あくまで体の調子が良ければということでかまわないそうですが、なるべく早くということでしたので」


なにか緊急事態に陥ったということを理解するドモン。

カールが屋敷から出られず、使いの者を寄越しているくらいなのだ。本来はこれが正しい貴族のあり方なのだけれども。

だが一応ドモンの身体を気遣うようにと念を押されていたのであろう。冒頭での変な挨拶からそう推測した。


「何が起こったのかまず説明してもらえるか?」

「それが領民達が連日屋敷の方に押しかけてきておりまして・・・」


まずいなぁとドモン、そしてナナも感づく。


「あれのことよね・・・」とナナがドモンの方を見る。

「恐らく健康保険の件だな」と頷く。


一応「領民達はどんな事を?」とドモンが尋ねると「詳しい話は私にはわかりかねます。申し訳ない」と騎士が謝る。


「やっぱり納得できない人もたくさんいたんじゃないかねぇ・・・私達はドモンさんから詳しく聞いているからわかるけどさ・・・」と、エリーが騎士にお茶を出しながら話に加わった。

「あとここで説明聞いた奴らも理解は出来てるだろうけど、噂の噂で話を聞いた奴らは単に増税だと勘違いしてることもあるだろうよ」とヨハン。


確かにそうだとドモンも思った。

一日に数百人、ここ数日で千人から二千人くらいの人々に説明はしたけれども、残りの人達は人伝で話を聞いただけだ。うまく話が伝わってるとは限らない。


「うーん・・・怒ってる人とかやっぱりいた?」

「私が見た限りでは・・・かなり怒っている人が多いかと」


ドモンの質問に騎士が正直に答えた。

いよいよ本気でまずいことになったとドモンがタバコに火をつけ、ナナがいつものように慌てて灰皿を持ってきた。


「いやまあそりゃ苦情は全部領主の方へと向かうわなぁ」

はぁ・・・と煙でため息を吐くドモン。


「ね、ねぇどうするの?これってもしかしてすっごくまずいんじゃ?」

「どうするもこうするも・・・俺はもう元の世界に戻らなければならないんだ。じゃああとの事は頼んだぞ。みんな幸せにな・・・」

「・・・こら」とドモンの右頬をナナが抓る。


ナナとドモンのやり取りに「え?!」と困惑する騎士だったが、エリーが「ドモンさん、ほら騎士さんも困ってるじゃないの。冗談なのよ、ごめんなさいねぇ」と代わりに謝る。

ドモンは「傷に響く傷に響く!ごめんて!」とナナを宥めつつ、顔のあちこちを擦りながら騎士の方へ向き直した。


「じゃああとで行くって伝えておいてよ」

「申し訳ない。ではなるべく早く・・・」

「馬車は壁だの屋根だの付けてる最中だから乗れないし、ゆっくりと歩いて行くしかない。脚の怪我のこともあるし到着は一週間後の予定だ」

「そ、そんな!」


ドモンの言葉に落胆する騎士。

ナナがいつものやれやれのポーズで「ドモンの冗談だから真に受けないで。私がちゃんと馬で連れていきますから」と騎士に伝えると安堵の表情となり「ではそうお伝えしておきます」と大急ぎで去っていった。



「またナナと馬に二人乗りかぁ」とドモンがため息を吐くと「わかるわかる」とヨハンが相槌を打った。

「ナナも後ろに乗れないのね」エリーがホホホと笑う。


「やっぱりお母さんも?」

「胸が邪魔でひっくり返っちゃうのよねぇ。ヨハンに掴まろうとしても手が届かないのよ」

「わ、私は少しエビ反りになる程度よ!お母さんと一緒にしないでよ」


ナナとエリーがとんでもない会話をしていた。神々の会話である。


「ナナはまだ普通に馬に乗れるだけまだマシなんだぞドモンよ」とヨハンが苦笑いをし、「私が一人で馬に乗ると、なぜか勝手に服が脱げちゃうのよぉ」とエリーが恥ずかしそうに体をフリフリした。


「なんとなく理由は想像できる」

「上には上がいるわね」


ドモンとナナが呆れていると「ナナもすぐにそうなるわよぉ」と今度はぴょんぴょんと跳ねるエリー。

「なりません!はいドモンはお母さんをジロジロ見ない!」とナナがドモンの背中を押して二階へを連れて行き、出かけるための身支度を始める。



「それにしても気が重いわね・・・どうするの?」

「とりあえず説明してなんとか宥めるしかないだろ」とナナに着替えをさせてもらいながら、ドモンも困惑した顔を見せた。



出発準備を終え馬に乗り、ヨハンとエリーに見送られながら出発した二人。

いつものようにナナが前に乗ってドモンが後ろからナナに掴まる。


「もういい加減二人乗りの鞍を用意したら?」

「嫌よ!これはこれで別に嫌いじゃないのよフヒ」

「あーあ、もうこれ絶対薄い本になるやつだわオッホ」

「なによそれ。もう薄い本でも厚い本でもなんでも良いから・・・ドモンはそんなに私に水浴びをさせたいの?」

「し、仕方ないだろ!とにかく遠回りして人の少ないところを通っていってよ」


いつものようにぎゃあぎゃあと言い合いながら、貴族の屋敷へと向かう二人。

貴族達の屋敷は街外れの丘の上にある。

少し離れた場所であったが、目の悪いドモンにもすぐに見えてきた。


「でっけぇ!!」

「そりゃ貴族様達が住む屋敷だもの」

「俺の世界の学校くらいありそうだな」

「ドモンの世界の学校ってそんなに大きいの?」


異世界というか、この街の学校は小さな塾のような学び舎のようなものしかない。

大きな学校は王都など大きな街まで行かなければならないのだ。

ナナは王都に行ったことがなかったので、大きな学校を見たことがなかった。


そんな会話をしながらひとつ丘を越えると、屋敷のずっと手前の門の前に人が集まっているのが二人の目に飛び込んできた。


「ねぇドモン見える?」

「あぁ・・・結構いるな」

「行きたくないわぁ・・・」

「本当だな」


近づいていくにつれて怒号のような領民達の声が聞こえてくる。

それにより、一層憂鬱な気分になる二人であった。




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