第425話
部屋でひとりいびきをかいていたナナ。
誰もいないことに気がつき、慌てて浴衣一枚を羽織って部屋を飛び出した。
廊下でキョロキョロと辺りを見回すも人の気配はなく、ものすごく不安になったナナ。
知らない街にひとり取り残された気分。
一段抜かしで階段を降りると、うつらうつらとしながら立っていた護衛の騎士を発見。
ナナが走って駆け寄ると、騎士は驚きギョッとした表情となった。
浴衣の前が完全にはだけ、全てが丸出しだったためだ。
もちろん下着も何もつけておらず、ついさっきまでいた例のお店のように騎士は思えた。
「ね、ねえ!ドモンはどこ?!」
「ドモン様は皆様とご一緒に食堂の方へ・・・」
「ありがとう!じゃあねー」
「お、お待ちください奥様!着衣が!!ああ行ってしまわれた・・・」
一階まで下りる間に胸が出ていることに気が付き、赤い顔でサッと浴衣を直すナナ。
しかし胸は隠れたが、残念ながら下は丸出し。胸が邪魔して自分からは下半身を確認できなかったという不幸。浴衣に慣れていないというのも災いした。
食堂の方からガヤガヤとした話し声が聞こえて、ナナはとりあえずホッと一安心。
安心するのと同時に、今度は怒りが湧いてきた。
ドモンは用があったのだから仕方ないにしろ、サンとシンシアまで私を置いていくだなんて!と。
が、鼻歌交じりに肉を焼いているドモンの姿を見ると、やっぱりドモンにも腹が立ち、出てきた台詞が先のそれである。
「うわっナナ!起きていたのか・・ってお前、ちょっと待て」肉を焼いていたトングをカランと落としたドモン。
「どうして迎えに来てくれなかったのよ!サンもシンシアも!」大きな胸の下で腕を組み、ナナは脚を開いて仁王立ち。
「ちょ、ちょっとナナ!!」「わあ奥様!!」焦るシンシアとサン。
「なによふたりとも驚いて!やっぱり忘れていたんでしょ私のことなんか!」
仲間外れにされてプンスカと怒っているナナの下半身は丸出し。
驚いたのはサンとシンシアだけではなくここにいた全員。皆、慌てて目をそらした。
「サン!」
「は、はい!」
ドモンの一言で慌ててナナの浴衣を直したサン。
そこでようやく自分が丸出しだったことに気がついたナナが大赤面。
「ハァ・・・どうして俺の女はみんな浴衣を着ると丸出しにしちゃうんだ・・・」
「うるさいわね!」「??」「なんですのそれは?」
「向こうの世界にいた時に付き合ってきた女達みんな、ナナが着ているその浴衣を着ると、なぜかみんなに裸を見られちゃうんだよ」
「・・・・」「・・・・」「・・・・」
それもドモンの勘違いのせいである。エイのミニチャイナドレスの時と同様。
着物と同じで、浴衣も下着をつけないものだと付き合ってきた女性達に教え、そう思い込ませていたためだ。
実際は大昔浴衣を寝巻き代わりに着ていた時代、下着をつけずに寝ていただけの話なのだけれども、ドモンはそれを知らずに嘘を教えてしまっていた。
スーパー銭湯の館内着の浴衣などはすぐにはだけてしまうので、裸を大勢に見られることになってしまっていたのだ。
そのせいもあってか最近はハーフパンツっぽい館内着に変更されたが、ドモンはそれも下着はいらないと言い張り、ケーコは未だにそれを信じたままで、布越しのビンビンになった先っぽを大勢に見せている。
「・・・という訳なんだ。まあそういうドジな女が俺やっぱり好きなんだろうな。ナナみたいな。ほら、豚肉と目玉焼き」
「ド、ドジで悪かったわね・・・フンだ・・・ムフ」ドモンにポンポンと頭を撫でられながら、丼を受け取りナナはしてやったり。
「ワタクシお着替えしてきますわ」「サンも」
「駄目だ」
良からぬことを考えているシンシアとサンだったが、それはすぐにドモンに見透かされて止められた。
少しだけ不貞腐れつつ、ふたりもドモンから焼いた豚肉が乗った皿を受け取り食べ始めると、その美味しさですぐに機嫌は直った。
「あ、あれ?ドモンさん僕の分は??」
「いる?やっぱり?」トッポの方を見たドモンだったが、全員の視線が集まっていたことに気がつく。
「当然であろう!この馬鹿者めが!」
「む・・・ムカつくジジイだけは無し!あイタッ!!!」
ジュージューと肉を焼き続けるドモンの頭に、今日もまたたんこぶがひとつ。
朝から不本意なノルマ達成。ドモンの頭をサンが擦り、いつものように慰めていた。
だがそんな呑気なやり取りも、ナナのスケベな格好にも、皆もう目が行くことはない。
とんかつソースをかけた豚肉の美味さに驚愕していたからだ。
義父やナナ達は、ソースカツ丼を食べていたので普通の態度でいられたが、他の者達は一大事だとばかりに立ち上がった。
このソースは、今までの食文化を一変させるほどの宝だと気がついたのだ。
「か、確保を!このソースを今すぐに我が国へ送れるだけ送ってくだされ!言い値で買い取ろうではないか!」
「ワタクシの国にもお願い致します!!」
「我が国を優先してくだされ!アンゴルモア国王!」
「汚いぞ!これは我が国が・・・」
「な・か・よ・く!」
ドモンの一言でハッと気がつく王族達。
自分の欲深さに自身が飽きれるばかり。
後に各国の王達はこのソースの出来事などを教訓とし、かつてないほどの強固な友好関係が築き上げ、やがてそれが欧州連合(EU)のような強大な同盟関係の作り上げる第一歩となった。
「ま、まあ皆さん、このソースが量産出来るかどうかなどは、一度王宮の方へと戻らねばわかりません。出来る限り作りますから、その時は皆さんで均等に分け合いましょう。無論今回は無償でお渡しいたしますので」
「おお!」「まあ!」「なんと!!」
「では早速王宮の方に戻りましょう。どのくらいの量が確保が出来るかも早く知りたいですし、このソースを作り上げた料理人に話も聞きたいですから」
「うむ!」「わかりました」「すぐに準備いたしますわ!」
「え?え?え??」
トッポ達がトントン拍子で話を進め、突然帰り支度を始めてドモンはキョロキョロ。
この日は女性用風俗・・・ではなく、オイルエステの体験をしてもらい、ここにある様々な店の理解をより深めてもらおうと思っていたのだ。
「ではドモンさん、そういうことで僕達は一度王宮の方へ戻ります。来週には24時間営業のお店の準備を始めますので、ご協力お願いしますね!僕は合同会議でいませんが」
「ああそう・・・って、え?!来週??もう店舗出来てんの?!」
「ええ。ではまた~」
「ちょ待てよ・・・ああ行っちゃった」
こうして嵐のようにやってきた王族達は、嵐のように去っていった。




