第421話
午前0時前。
もうすぐ二時間飲み放題が終了しようとしていた頃、義父が女性とともに個室からにこやかに戻ってきた。
「いやーハッハッハ、ではまた飲み直そう」
「ジジイ、今日はもう営業終了だよ。そもそもお試し営業だし」ドモンもそろそろ戻らなければナナ達に怒られる。
「何を言っている、夜はこれからではないか。いやぁハッハッハ、なかなか良い店を作ったものだなドモンよ。もっと・・・で・・・だったら良かったのだが」もう遠慮や思慮といったものはない。例のキノコもとっくに食べた。
「それは向こうの別の店に行ってくれ。そっちなら多分ズッポシ出来ると思うから。俺の管轄じゃないからよくわからないけど」
流石にドモンもすべての店の面倒は見きれないし、義父ひとりの相手だけをしているわけにもいかない。
王族達の様子を見るふりをして覗かなければならないし、トッポ達のスケベも覗かなければならない。
「ではそこの店に連れていけ」
「自分ひとりで行ってこいよ。ガキの小便じゃあるまいし。大体そこは結構高いんだ。銀貨三十枚は取られるぞ?」
「貴様の分など私が出すに決まっておろう!」
「え?そ、そう?じゃ、じゃあ仕方ないな・・・エヘヘ」
奢ってくれると言うなら話は別。
「ドモン様、ドモン様!店の方はまだ営業しても宜しいですかな??女性達もお客の皆様もまだ楽しみたいというのと、私もドモン様のように振る舞えるか試したいのでございます!」と店長。実はすでに延長分のお金を貰ってしまっていた。
「ああ、それは任せるよ。でもせめて夜明けまでにしとけよ?王族のお偉いさん達が起きてきたら・・・」
「わかっております!」
ドモンと店長の会話を聞いた皆がバンザイしながら盛り上がっていた。
「ジジイ、まだ飲めるみたいだけどどうする?・・・って聞くまでもなさそうだな。その顔見たら」
「まあここも名残惜しいが、もう気分は次の店に向いておるからな」
「んじゃ行こうか。一番いい女がいるっていう、一番高い店でもいいんだよな??」
「ふふふ、任せておくがいい」
そうしてドモンと義父は更に別の建物の別の店へと移動し、スッキリとした後、午前二時過ぎにふたり肩を組みながら、上機嫌で宿舎へと戻った。
「ただいま~ハァ疲れた・・・ってあれ?みんなまだ起きてたの??」
「ちょ、ちょっとドモン様!ちょちょちょっと!!」「遅いじゃないのよぅ!」「うぅ~~・・・」
起きていたのはわかるけれど、どうにもナナとサンの様子がおかしい。
ナナとサンが抱き合ってシクシクと泣いていて、シンシアがドモンを呼び、その理由を話しだした。
「スマートボール場に残されたお酒を捨てるのが忍びないと、ナナが残りを持って帰って、サンと一緒に飲んでから様子がおかしいのです!ワタクシは隣の部屋で先に休んでいたのですけれど、サンの泣き声が聞こえたので、慌てて様子を見に来たところなのですわ」
「え?!あぁまさか・・・」
例のキノコ入りのお酒をおそらく飲んでしまったのだろうと、ドモンはすぐに気がついた。
絶対にバレないように、エキスを抽出したあとに瓶からキノコを抜いていたのだ。それでは気がつくはずもない。
「実はその酒、あのキノコが入っていたんだよ・・・」
「まあなんてことを!」
「で、酔いも手伝ってあんな事になってしまったんだな」
「え、ええ・・・」
ナナとサンは、あられもない格好で抱き合っていた。
状況を詳しくは説明できない。
サンが吸っている何かの先っぽから、しっかりとミルクが出ていればいいのだけれども、きっと出てはいないと思われる。
「うぅ~御主人様ぁ!遅いですぅ!!」
「ごめんごめん!今日はみんなの相手もしなくちゃならなかったから」
ベッドから飛び出し、ドモンに抱きついたサン。
サウナの時から色々と我慢させられていた上に、酒とキノコでもう我慢の限界。
「グス・・・スンスンスン・・・ん?」
「どうした?」
「嗅いだことがない石鹸の匂いがします」
「・・・・」
サンの言葉でムクリと起き上がったナナと、ジトッとした目でドモンを睨むシンシア。
「お、おかしいな?例のあの店で手と顔を洗った時かな?きっとそうだ」
「クンクン・・・ドモンあんた・・・」
「や、やめてくれよ!そんなとこのニオイ嗅ぐのは」
「白状なさい!毎日あんたのニオイを嗅いでいる私達にバレないとでも思っているの?!・・・私達が悶々としている間にひとりでスッキリして・・・グギギギギ!!!」
「ち、ちが・・・」
全てを白状したドモンはキノコを食べ、一睡も眠ることなく朝を迎えることになった。
ツヤツヤになった三人と干からびたドモン。
特にサンは酔った勢いで今までの憂さ晴らしをし、これ以上ないくらいにピッカピカである。
「御主人様~奥様シンシア様~、お風呂に行きますよ~」
「サンお願い、少しだけ寝かせてふぁぁ」「ワタクシも・・・」
ドモンやサンの代わりに、シンシアを抱きまくらにして眠るナナ。
ふかふかポカポカの柔らかな何かに包まれ、シンシアもウトウト。
「俺はトッポや王族達の様子を覗・・・見てこないとならないから」
「ではご一緒に」
時刻は午前六時前。
サンはドモンの左手をキュッと握りながら、ルンルンとスキップするように歩く。
建物の中だけれども、ふたりきりのデートのようで楽しい。
だがそれも、三階廊下の反対側の奥の部屋の30メートルほど手前までの話。
チィやミィのなんとも言えない声が聞こえてきて、サンは顔が真っ赤。ものすごく大きな声。
「いきなりドアを開けてみようか?」
「だだだ駄目ですよぅ!!もう~ふたりともあんなはしたない言葉や声を~・・」
「サンはもっと凄かった気がするけれど」
「そ、そんなことないもん・・・」
頬を膨らましプイッと横を向いたサンを連れ、ドモン達は四階へ移動。
するとそこに見えたのは、想像を絶するほどの地獄であった。
「サン!見ちゃ駄目だ!!」慌ててサンの目を塞いだドモン。
「え?え?え??」
「どうしてこんなことに・・・」
「やだやだ怖いですぅ!」
焦るドモンの声色に、何か不測の事態が起きたのではないかと心配をしたサン。
よく考えてみれば護衛も付けてはいなかった。
それに元々は敵同士であった王族達もいたのだ。
「何があったのですか・・・うぅ」涙ぐむサン。
「何があったって言うか・・・」
ドモンはサンを連れてきてしまったことを深く後悔することになった。
 




