第419話
薄暗い店内に入ると部屋の真ん中に女の子が集まり、その周りを囲むように丈夫な長方形のテーブルがやや楕円状に並べられていて、更にその外側に椅子がずらりと用意されていた。
女の子達は全員上半身裸で、膝上2~30センチの白いチアガールのようなひらひらミニスカート。
首には付け襟と蝶ネクタイ。
「は、裸ではないか!」「うわっ!!」
「いらっしゃ~い。端から順に座ってくださいね~」「何をお飲みになられますか?」「いらっしゃいスケベさん達」
全員開いた口が塞がらない。
義父だけはあの秘密の店で少しだけ慣れていたものの、あそこはまだ『同じ趣味を持つ者達』といった雰囲気があり、明確に店員と客で分かれているような感じではなかった。
ここでは完全に、街にあるような飲み屋で働く女性が、裸で働いているといった様子。
まるで服が透けて見えるメガネか何かをかけた気分。
じっと見つめる者、目を逸らす者、真っ赤になり両手を顔に当てる者など反応も人それぞれ。
働く方も働く方で、普段は男性客一人を相手にスケベな格好を披露しているが、大勢を相手ともなればなんだか街中で裸になっているようで落ち着かないし、羞恥心も湧く。
「ノーパン&トップレス、つまり上も下も下着をつけていないって意味だよ」と説明したドモンの言葉に、どよめきが起こる。
「そ、その下は・・・何も無いというのか?!」と義父が叫ぶと、男も女も全員顔が真っ赤に。
「ほらほら、お兄さんも恥ずかしがってないで飲んで飲んで!」と騎士のひとりに話しかけた女性。
「そ、そうは言っても・・・どこを見ていれば良いのやら・・・」「な、なあ?」
「たっぷり見ていいのよ?私達は見世物なんだから」
「!!!!」「!!!!」「!!!!」「!!!!」「!!!!」
ドモンからの教え。徹底的に見世物になれ。
欲望の対象となるのが目的だとはっきりと言われていた。
「気に入った女の子がいたら銀貨八枚で別部屋でスッキリさせて貰えるから、ドンドン指名してあげてね。ズッポシではないけれど」
「か、金で女を買えというのか?」
「そりゃそうだよ、色街だもの」
「た、確かにそうではあるが・・・」
義父にはまるでドモンが奴隷商になったかのように思えたのだ。
見世物のように客の前へと立たせ、気に入った者がいれば金で買う。
確かにここが色街だとは認識していたが、店の形態が今までとあまりにも違いすぎ、人道的にそれが許されるものなのかどうなのか?をつい考えてしまった。
ドモンもそうなることは百も承知。
だからこそ王様、特に奥様方は呼ばなかった。絶対に全てを頭ごなしに否定されるからだ。
今はこの店を世界中に広めるために、ある程度権力がある者達を籠絡して仲間に引き入れなければならない。
「私達にとっては外で裸を見せて客を誘うよりも、実は余程安全なのよ。はじめ聞かされた時は、そりゃあたしらも驚いたけどね」
「見世物だとは言ったけれど、私達は見られているんじゃなくて見せているのよ?」
「男の人達が喜ぶ顔が見たいの。喜んでもらいたいの・・・」
「お金が目的だというのも当然あるわよ。この身体があるうちは、あたしジャンジャン稼ぎたいわ!だからドンドンあたしを指名してね!エヘヘ」
理由は人それぞれ。だが働く女性達は皆胸を張っていた。
以前の色街の時とは違う、今はただただ前向きに。
義父は天井を見上げ大きく息をひとつ吐いた。
これが本当に女性達の意思なのか、それともドモンに騙され吹き込まれたのか?どちらかはわからない。
ただドモンが、この世界の何かをまた変えようとしているのだけはわかった。
「今の私達は働かされているんじゃない!自分の意思でここで働いているの!」
そう言った女性の顔には、仕事に対しての誇りが見えた。
きっとこれもドモンが変えたのだろう。
義父は、そしてその他の男達も、もう心置きなく楽しむことに決めた。
「午後11時となりました!ショーが始まる時間だよ!さあ心の準備はいいかな?」
新型拡声器で吠えるドモンはニコニコで、女性達の顔は真っ赤。
ドモンの指示で店長が照明を落とし、逆に床に置かれた照明をつけていく。
天井がぼやっと照らされ、店内はますます怪しい雰囲気。
「な、何が始まったのだ??」「さて?なんでしょうな??」
義父や大臣らも首を傾げる。
ここで本来ならば大きめのBGMを流したいところだけれども、残念ながらそういった音楽は用意されていないので、ドモンが拡声器を使用し、ボイスパーカッションで♪ドドパッツドドパッツドドパッツ・・・と気分を盛り上げた。
そんな中で、おもむろに目の前のテーブルの上に立ち始めた女性達。
「うおっ!!!」「え?!」「ま、まさか!!!」「そ、そんなところに上がっては!!み、見えてしまうんじゃ・・・」
見上げれば照明に照らされた丸出しの胸と、ギリギリ中身が見えない白いスカートと魅惑的な太もも。
前に出て覗き込めばすぐにでも中が見えてしまいそうな状況だけれども、臆して誰も出来ない。
義父以外は・・・。
「はい!そこのスケベジジイ!覗き込むのはご法度ですよ~!」
「むっ!」ドモンに注意をされて赤い顔のまま引っ込んだ義父。
「これから目の前の女の子とじゃんけんをしてもらい、勝った方はお楽しみが待ってますよ~!女の子は順番に回ってきます。隣を覗き込むのもヤメてください。それと女の子が躓くと危険なので、テーブルに手を出したりしないようにお願い致します!」
ドモンの注意に素直に従う男性陣。遊び方が少しずつ見えてきた。
女性達は事前の練習通り、ドモンのボイスパーカッションの音に合わせて、テーブルの上で足踏みをするように交互に膝を前に出し、ミニスカートを揺らす。
「声に合わせて目の前の女の子とじゃんけんしてください。では行きますよ~!そーれジャンケンポ~ン!アイコでしょ!」
数名の男性が勝利。
負けた者や二連続アイコで終わった者は何もなし。
「ソレッ!ソレッ!ソソレソレソレ!!はい次~」
「うお!!!」「見えてしまった!?!」「おお!!」「!!!」
ドモンの掛け声に合わせ、スカートの前の部分をパッ!パッ!パッパッパッパッ!と捲りあげるじゃんけんに負けた女性達。
そうなのだろうとは思ってはいたが、いざ本当に体験すると、心が躍るどころではない。
全員遊び方や楽しみ方がようやく理解できた。
女の子達は右回りにひとつ隣へ。
「そーれジャンケンポン!アイコでしょ!ソレッ!ソレッ!ソソレソレソレ!!はい次~」
アチラコチラで上がる歓声。そして悔しがる声。
だがほぼ皆揃って笑顔。
女の子達が一周したところで、じゃんけん大会は終了し女性達がテーブルから降りた。
「ぬぅ!!一度も勝てぬとはどういう事だ!!ドモン!貴様が何か入れ知恵したのであろう!!」皆が楽しむ中ひとり怒った義父。
「アッハッハ!たまたまだ!ショーはまだ続くから落ち着けよ」
ドモンの言葉で、義父はムスッとしたまま席に座り直した。
どの女性を指名するかを思案しながら・・・。
異世界物で風俗店のプロデュースする主人公も酷いし、それを書く方もどうかしている(笑)
ただすすきの育ちのドモンさんにとっては重要なことなので・・・




