第418話
向こうでは騎士達が装備をその場に脱ぎ捨て、夢中になってスマートボールで遊んでいた。
王族や大臣達もスマートボールを声を上げながら楽しみ、ナナや従業員の女性達にお酒をお酌をされている。
「ねえあなた・・・」
「おお、そちらはどうだ?私はもう何度も揃っておるぞ」
「え、ええ・・・とても楽しいですわ!でもその・・・ねえあなたふぅん・・・」
「???」
貰った景品を袋に詰めてもらったものを持ちながら、奥様方が夫の横立ち、ピタリとくっついた。
自分の胸を押し付けるように。
「お願いこっちを向いて」
「どうしたのだ??」
「これをお食べになって?お願い。ね?元気になるの」
「な、なんだこれは・・・んぐ・・・」
ドモンが渡した例のキノコを、ドモンが想定していた通りに夫達に食べさせた奥様達。
ただしその迫り方が想像していたよりもずっとスケベな雰囲気で、ドモンは他の者達に見られやしないかとヒヤヒヤ。
特に義父になんかに見つかれば、ゲンコツが落ちて説教されてしまうこと必至。
幸い、皆スマートボールに夢中で誰も気がついていない。
「長旅だっただろうし、今日はそろそろ休んだらどうだ?良ければ宿舎の方へ案内するけれども。しっかりと人払いもしておくよ」
「そうですわね!ね?あなた」「そ、そうであるな。なにか体がムズム・・・」
「じゃあ行こう!すぐに行こう!俺が案内するからみんなはここで待っててくれ」
少し前かがみな王様がなにか言おうとしたが、すぐにドモンが制して店の外へ。
大臣達や護衛達がすぐについていこうとしたが、そちらは奥様方が制した。
四階まで上がって、薄暗い廊下を歩く一同。
元々が大人の店だったということもあり、元からスケベな気分だったのが更に盛り上がる。
「お風呂はここにひとつしかないから、まあ話し合って順番に使ってくれ。朝七時の朝食の時間まで、誰にも来ないように言っておくから、それまでたーっぷりと楽しんで・・・いや、ゆっくりと休んでくれよな」
「う、うむ」「わかりましたわ!」「感謝いたしますわ!ドモン様!」
「誰もいないからって、風呂まで廊下を裸で歩いたりしちゃ駄目だぞ?ぜ~ったいに。ま、バレたところでここにいるみんなはもうお仲間だから平気だけどな。朝までスケベの無法地帯だイッヒッヒ!」
「ハァハァ・・・」「はふぅ~ん・・・」
例のキノコの効果もあり、ドモンのスケベな言葉にもう冷静ではいられない一同。
妻の腕を強引に引っ張り、各自部屋へと散っていった。
「よしよし。これでうるさい奴らは消えてくれたな」
女性の権利や人権の尊重などを主張しそうな者達は排除。
これでドモンも好きなようにやることが出来ると判断。
王族達は四階だが、念のため三階から上に上がる階段の前に、誰も近寄らないようにすることを書いた看板を立て、ドモンはスマートボール場へと戻った。
時刻は午後十時。
「さて、みんなそろそろ閉店なんだけれども・・・」
「皆もう部屋で休んでおるのか?」と義父。
「休んでいるのか励んでいるのかは知らないよ。ただ見に行くのはヤメた方がいいイッヒッヒ」
「貴様まさか・・・例のキノコを盛ったのか?!」
「違うよ。盛ったのは奥様達の方だ。本当だぞ?」
ジロリとドモンを睨んだ義父だったが、ドモンは当然否定した。
半分は嘘だがドモンは正直に言ったつもり。『盛ったのは奥様達の方だ』と。確かに間違いではない。
「それよりもみんな、うるさいのがいなくなったところで、スケベな楽しい店で飲み直さないか?これぞ本物のすすきの名物とも言える店を用意したんだ」タバコに火をつけニヤニヤと笑うドモン。
「行きます行きます!僕も行きます!」とトッポ。
「あ、悪いけど今日はトッポは無理だと思うぞ?チィとミィが宿舎の三階の奥の部屋でトッポを待ってるから。ゴニョゴニョゴニョ・・・・だから早く行ってやれ」
「えぇ?!本当ですか?!!」
宿舎へ走っていくトッポを見送ったドモン。
チィとミィに関しては、先程婚約祝いにとあげた例のキノコを好奇心から自主的に食べてしまったと宿舎で聞いたので、三階の奥の部屋で待っているように告げてあったのだ。
これはドモンも予想外だったが仕方がない。
「ナナとサンとシンシアは先に部屋に戻って休んでいてくれ」
「ハァ・・・」
シンシアもナナからこっそりとドモンが何をしようとしているのかを聞き、大きな溜め息。
ドモンからある程度説明を受けた女性従業員達は、走ってドモンが準備する大人のお店の方へと向かっていった。
「で、ジジイとそこの大臣は行くとして・・・大体お前らが目で合図したから用意したんだからな」
「う、うむぅ」「そ、それは・・・まあ・・・」興味がないと言えば嘘になる義父と大臣のひとり。
「他の人達はどうする?騎士達も。二時間飲み放題銀貨三枚貰うけどな。ただ損は絶対にさせないよ」
「い、行きますか?」「・・・そうですな」「そのくらいなら支払えるかと」「行きます!」
結局この場にいた男達全員が行くことになり、ヤレヤレのポーズをしながら宿舎へ戻ったナナ達。
後片付けと店の戸締まりを店長と副店長のオーガ達に任せ、ドモン達は大人のお店が入る建物へと向かった。総勢約三十名。
「一体貴様が用意した店というのはどのような店なのだ?カルロスのところで行った秘密の店のようなものか?」と義父。
「あれとはぜんぜん違うよ。格好は似てるかもしれないけどな。まあ楽しみにしててよ」
咥えタバコでドモンが説明しながら薄暗い建物の中へと入ると、入って左側の奥が、ピンク色に薄ぼんやりと光っているのが見えた。
その怪しげな光の色に皆目が釘付け。
窓がないため中は覗けない。
ドアは開いているものの、ドアの先には暖簾のような布がかかっており、店内を歩いている女性達の脚だけが見えている。
そのドアの横には、木の板に乱暴に書かれた文字の看板が一枚。
「ノーパン&トップレス・・・とはなんだ??」義父にもわからない。どうやらこの世界にはこれらの言葉がない様子。
「ようこそ、ノーパン&トップレス、プッシーキャッ・・・子猫ちゃんの店へ。イッヒッヒ!男にとっての夢の国だぜ?」
かつてすすきの名物であった店。
全裸にミニスカと付け襟のみという過激スタイルで営業していた大人のお店であるが、スケベな行為だけではなく、なんと普通の飲み屋として利用されていた店でもある。
昼に入れば3000円前後で2時間飲み放題つまみ付き。
気に入った娘がいれば指名してスッキリすることも出来るが、殆どの客は飲み目的。
女の子がドリンクを要求することもない、本気で激安のスケベな飲み屋であった。
バカ共が作ったバカな決まりのせいで何度も摘発をされ、その度に過激度は減っていき、今では見る影もないほどつまらない店と成り果ててしまった、このすすきの名物。
前回『死に戻り』した際にすすきのに行き、その店の向かい側の道路の縁石でタバコを吸いながら誓った。
向こうの世界で必ず復活させてやると。
それにはドモンの心の中の、どこかの誰かも大賛成。
国中どころか世界中に作らなければならない。
そんな夢にまで見た店のプレオープン。
ドモンは覚えてはいないが、実際に夢の中で早くこれを作れと催促されていた。
「さあいらっしゃいいらっしゃい!銀貨三枚だよ!」
一瞬だけドモンの目が赤く光ったが、店内の様子に目を奪われていた一同は、それに気がつくことはなかったのであった。




