第415話
休憩所となる大広間には、全員浴衣で登場。
浴衣は館内着として使う予定で、例の仕立て屋に大量発注していたものだ。
作り自体は簡単なものなのですぐに作ることが出来、近々オープン予定のノーブランドの店でも売り出される予定。
この銭湯で使用されることによって、良い宣伝にもなるだろう。
畳ではないのが残念だけれども、カーペットの上に座布団を並べ、ずらりと三列に並んだ大きめのテーブルに、向かい合って座るお偉い様達。あとから護衛の騎士達なども合流する。
チィとミィによって飲み物が運ばれ、エミィが薄切りにした肉とタレを入れた小皿を配膳していった。
魔導コンロも一定間隔で置いてある。
大広間の奥には簡易的なステージも用意。もちろん新型の拡声器も。
いずれ何かしらの催し物もやる予定。ダンディーなおじさんグループが歌を歌うかもしれないし、若手お笑い芸人の登竜門になるかもしれない。
「おいドモン!私のバカ息子は何処行ったバカ息子は!」サウナでいい汗かいてエールをしこたま飲み、珍しく出来上がった義父。
「なんだよもう~、悪い酔い方しやがって・・・」
「うるさい!さっさとこっちに来て座るのだ!」
「ヤダよまったく。おい誰か、ジジイに水を飲ませてやれ。駄目だわこれ」
「酔っておらんわ!!大体貴様がはっきりしないのが悪いというのだ!さっさと養子になっておれば、私も頭を悩ますこともなかったというのにクドクドクドクド・・・」
渋々横に座ったドモンに義父の説教が続く。絡み酒の上、今にも手が飛んできそうな雰囲気。
パワハラで訴えたら勝てそうとも思ったが、当然揉み消されて終わるだろう。
「これは婿殿も困りましたなホッホッホ」とシンシアの父。母親まで一緒に「ホホホ」と笑っている。
「そっちはそっちで勝手に決めるなよ。大体あんたもジジイも俺を殺そうとしてたくせに。それに、ついこの前戦争ふっかけた国で風呂入って酒飲んで寛いでるだなんて、一体どういう事なんだ」
憮然とした表情で酒を飲み干すドモン。
「まあまあドモンさん、とりあえずこれでも飲んで」ドモンの空いたグラスに酒を注いだトッポ。
「おお立派なワイン・・・じゃなくて、お前はお前で、何を御酌して回ってんだよ。王様らしく座っとけ!」
「だってあっちの席、結婚相手がどうのってうるさいんですもん・・・」
トッポがちらりと横目で見た方向には数人の奥様方。
貴族の奥様方もいつの間にやら合流していた。
「そりゃ仕方ないだろ。いい歳で独り身なんだから。身分も文句なしだし。あ、歳の頃合いもちょうどいいし、シンシアなんかどうだ?」
「ドモン様!!もう!!」斜め前の席から間髪入れずにドモンにツッコんだシンシア。
「ぼ、僕はここだけの話・・・絶対に言わないでくださいよ?・・・・チィとミィと結婚しようかなと思っているんです」
「え?!ホントに??こ、子供は・・大丈夫なのか??」
トッポの思わぬ告白に驚きながらも小声で尋ねたドモン。
結婚がどうのもそうだけれども、一番に頭に浮かんだことが真剣に子作りに関してのことで、つい聞いてしまったのだ。
魔物を魔物扱いするなと言っていたけれど、そこがクリアできるかどうかはやはり重要である。
「それが、各地にオーガの仲間を探しに行った騎士とオーガの二人組ってわかります?」
「ああ、いたな。なんか一度戻ってきたんだろ?カールのところにも寄ったみたいだけど」
「ええ。で、先日謁見にやってきたんですが、どうやら懐妊されたみたいなんですよ」
「ええ~!!!本当かよ!!!うわ、やっぱりそうなんだ・・・いやぁこれは驚いた!」
「しーっ!ドモンさん!声が大きい!!」
慌ててドモンの口を塞いだトッポ。
ガヤガヤとしていた一同の目が、全員ドモン達の方へ向けられた。
「いかがなされたのですかな?」
「ああ、いやこっちの話なんだけど、こいつがこのふたりのオーガ達と結婚するんだって」タバコに火をつけたドモン。
「ちょっ!!」「バ、バカ!!言っちゃった!!」「あぁ~」頭を抱えるトッポとチィとミィ。
「・・・・」「・・・・」「・・・・」「・・・・」「・・・・」
唖然呆然。義父も知らなかった。
「どうだったチィとミィ、トッポの大きかっただろ?」
「そりゃ・・・って、あんた何言わせようとしてんのよ!」「もうっ!」
「なるほど、もうスケベしていたのかイヒヒヒ」
「あぁ・・・」「あっ!!」「・・・・」
あっさりとドモンの誘導尋問に引っかかったチィ。
ミィは真っ赤な顔をしてトッポの元に向かい、その胸に飛び込んだ。
「別にいいじゃないか。めでたいことだ。これに関しては、何処の誰にも文句は言わせねぇよ。な?」
ドモンが誰に対して「な?」と言ったのかはわからない。
だが全員が自分に対して言っているように感じていた。
文句は言えない。言えるはずがない。少なくとも、ここにいる者達は。
「じゃあほら婚約祝いに例のキノコやるから、今日の夜は宿舎の三階か四階でも行って、三人でズッポシやってこい!人がいないからスケベするのにちょうどいいんだよあそこは。ここほどじゃないけど風呂もあるしな」
「出た!あのキノコ!」「スケベドモン様!」「はい・・・」
その言葉に、一斉にぐるっとドモンの方を見た奥様方。
義父とトッポ以外、不思議顔のままの男性陣。
まあいいかとトッポ達を祝しながら、ようやく焼肉が始まった。
「ドモン様ドーモーン様!こちらへ!どうかこちらへ!」出入り口付近でドモンを呼んだシンシアの母と、座ったままおでこに手をやるシンシア。
「どうした?肉が口に合わなかったか?」
「違いますわ!ねえ皆様も少しこちらへ」「えぇ」「そうですわね」「すぐに」
「????」
部屋を出て、ドモンと数人の奥様達が隣の部屋へ。
「どうしたんだよ??流石にここで浮気スケベは、本当に俺の首が飛んじゃうから勘弁願いたいんだけど・・・」
「ち、違いますの!そ、その~」「先程のキノコよ!シンシアちゃんが悶えていた原因はそれなのでしょう?」
もう待っていられないと、横から口を出す奥様のひとり。
「シンシアが悶えていた?・・・あ?ああ~!!風呂に行く前に食わせちゃったんだった!!バカだなあいつ、すぐに言えばいいのに」
「ワタクシ達に気を使ったのですよ、あの娘」「それでそれで!」「ドモン様!男性が食した場合はお元気になられるのでしょう?ね?聞きましたのワタクシ達!」「そうですわ!」
シンシアに関しては完全にドモンのミス。
風呂での様子を詳しく聞いたところ、奥様方のイタズラで、何度も気をやっていたとのことだった。
実の母親の前で流石にそれは気の毒すぎるし、それならばキノコの話も白状する他ない。
「で?何が目的だ」
「お願い致します!す、少しでいいのですわ!それをお分けくださりませんか?」「ええ!」「この通りです」胸の前で手を組み、お祈りのポーズをした奥様方。
「駄目だ駄目だ!貴重なものだし、それに容量を間違えたらエラい事になっちまうんだから!心臓に負担もかかるしな」
「そこをなんとか!」「お慈悲を!」「責任はこちらが取りますわ!絶対にご迷惑はおかけいたしません!」「い、いくらお支払いしたら宜しいのかしら?金貨十枚くらいまでならすぐにお支払いできますわ!!」
ほぼ同時にドモンに話しかける奥様方。ものすごい圧力。
ドモンはグイグイと押され、いつしか壁際まで追いやられた。
「わかったよ!わかったわかった!少しずつなら分けてやるよ!金もいらねぇから」
「やりましたわー!」「素敵ですわ!!」
「本当にどんな事になっても知らねぇからな・・・」
先に結果だけ書くならば、この事があり、現在宿舎として使用している建物を取り壊すことをやめ、そのままこの世界初の『ラブホテル』として生まれ変わることになるのであった。




