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第408話

「スケベ大工さんですぅ!」

「いやぁ面目ない!ドモンさんしかいないと思いこんでいたんだ。まさかドモンさん以外がサウナに入るだなんて思っていなかったから」


サンに責められている大工を、羨望の眼差しで見つめる鍛冶屋と弟子達。

「女の方にいるわけがない」と、他は全員男風呂の方にいたのだ。

大工だけが一応確かめに行ったところ、あんな場面に鉢合わせてしまった。


「サウナの中に入っていて良かったですわ!」

「本当よ!女風呂を覗くだなんて!」

「本当にそんなつもりは微塵もなかったんだよ。サウナ小屋作るのに何度も足を踏み入れていたから、さほど抵抗もなくつい入っちまったんだ」

「本当でしょうね?嘘だったら街に帰った時に言いふらしてやるんだから!」


女性陣に責められ頭を掻く大工。

そもそも女風呂に乗り込んで、勝手に混浴にして一緒にサウナに入っていたドモンの方が悪いというのに。


「それはともかく、サウナは最高だったよ。ただしサウナの照明はもっと薄暗くして、肌色のような感じの方が良い。雰囲気としては、暗い部屋で暖炉に薪を焚べている時の雰囲気だ」

「ほうほうなるほど、すぐに取り替えよう」


ドモンのナニが元気だったという話になる前に、とっとと話を切り替えた。


「あとサウナの横には水風呂が必要だ。じゃないと死んじゃうよ。それとすぐに水分補給できる飲水も用意した方がいいな。椅子はさっきの俺らくらい寝そべることが出来る物もあるといい」

「ああ、やっぱりそうだったか。水風呂は後回しでもいいかと思っていたんだけど、やっぱり重要なんだな」


フムフムとメモを取る大工。

今必要な物を紙に書いて弟子に渡すと、弟子がエミィの兄の元へと走っていった。


お金や資材の管理ももうお手の物なエミィの兄。頭も切れて力持ち。その上リーダーシップまで発揮し、今では他の貴族達と対等に渡り合っている。住民達からの信頼も厚い。

犯罪率もこの辺り一帯はガクッと下がり、ここが街で今一番安全な場所だとも言われていた。


「じゃあそれらの工事が終わったら街に戻るよ」

「もう少しゆっくりしていけばいいのに」

「そうはいかないよ。高級宿を急いで完成させなければならないし」

「ああそうだったな。なんだか申し訳ないね」



大工と鍛冶屋が言うには、高級宿は有名な建築家が設計することに決まったという話だった。

浴場もドモンが思いつかないような立派なものになるという。


もうドモンがいなくてもオーガと住民達は上手くやり、ドモンがいなくても街は発展していく。

コンサルティング会社を設立しようとしていたドモンだったが、やれることはすっかり少なくなったと感じていた。

まだほとんど何もしていないのに不安が募る。


「そうだ、帰りに道具屋のギドのところに寄って、スマートボールと手紙を渡してきてくれないか?これも少し改良してほしいんだ」

「ああいいよ。元々寄る予定だったしな」


返事をしたのは鍛冶屋。今は共同で部品を作ることも多々あるのだ。


「今は料理に使うミキサーってのと、なんと髪を乾かす機械を作ってるんだと。その部品も頼まれて、弟子達が作っているんだ」

「なによそれ!絶対欲しい!!」「はい!」「どうして持ってきてくださらなかったの!」


女性陣大興奮。

今まではある程度拭き取った後、タオルの上に髪の毛を置いて更に水分を吸い取り、ただただ待つしかなかったのだ。

天気の良い日は、お日様に乾かしてもらっていた。

以前ヨハンの店を手伝っていた侍女が、水を床に滴らせてしまっていたのはこのため。

まさに夢のような道具である。


「ドライヤーまで作っちまったのかあいつ・・・そりゃすげぇな」


いつかドモンも作れたらいいなと思っていた物。

きっとナナもサンも喜ぶに違いないと考えていた。

ドモンよりも頭の良い天才が、そんな事を思いつかないわけがない。


ギルとミユは新型拡声器を手に入れてからというものの、次々と新しい歌を生み出し、人々を感動させていた。

最近ではドモンが伝えた歌も、滅多に歌うことが無くなったそうだ。


「さあさ!早いとこサウナをなんとかして街へ帰らないとな!」と大工。

「親方、そんなこと言って、いつものスナック行きたいだけですよね」と弟子のひとりがクスクスと笑う。


「あーあ、いいなぁ親方達は!新しく出来た色街に二人で行ったの知ってるんですよ!」鍛冶屋の方の弟子がジトっとした目で苦笑した。

「ち、違う!あれは開店祝いに行っただけだ!な?大工の」

「お、おう!」


どうやら女ボス達も向こうで店を開いたらしい。

建物が建設途中なため、仮オープン的なものらしいけれども。

ドモンがいなくても、こちらもしっかりと前へと進んでいた。


全てはドモンが望んでいたこと。

全てはドモンが思うままに・・・



大工達が作業に取り掛かったのを見届け、ドモン達はスマートボール場へ。


「わ!意外と難しいのね!どうしてそっちへ跳ねてしまうのよもう!」

「た、楽しいです~ウフフ」

「サン、上手ね。それに比べてナナときたら・・・力加減をして狙わなくてはなりませんことよ?」

「わかってるわよ!!・・・ん?ドモンどうしたの?」


三人が遊んでいるところから少しだけ離れた台で、ドモンは咥えタバコのまま、寂しそうにボールを飛ばしていた。

音楽隊に頼んで演奏し、録音させてもらった軍艦マーチをスマホで鳴らしながら、右へ左へと釘の上を跳ねるボールを見て「ふらふらふらふらと・・・まるで俺だな」と苦笑し、涙を浮かべていたのだ。


その日暮らしでふらふらと、誰にも必要とされずに暮らしていたあの日々を思い出し、何もかも壊してしまいたくなる。

こうなることを望んでいたはずなのに、それが叶う度に、ドモンは少しずつ孤独になっていく気持ちだった。


「どうしたのよドモン!」「いかがなされたのですか?」「ドモン様・・・」

「ああ悪い悪い。ちょっと考え事をしてたんだ」


「大工さん達が言ってたスナックや色街のことじゃないでしょうね?!行けなくて悔しいとかって」元気づけるためのナナの冗談。

「それも少しある」と冗談っぽくドモンは返したつもりだったが、顔は暗いままだった。


「ドモン様、お悩みがあるのでしたら何でも言ってくださって結構ですから。ワタクシ・・・いえ、私達はいつでもドモン様のお味方ですのよ?」

「おお、ありがとう。でも大したことじゃないよ」


シンシアも様子がおかしいドモンに気がつき励ました。

が、サンはもっと前から気がついていた。なにかに追い詰められたような表情をしていたことに。


輪の中心から外れ、階段の上から寂しそうに綿あめ作りをしているみんなを見つめていた時の目と同じ。

屋敷の玄関で、ひとりタバコを吸っている時の目と同じ。


絶望と諦めと孤独。サンはこの目をよく知っている。ドモンが現れるまでいつも鏡でその目を見ていたから。


「御主人様!御主人様!サンには御主人様が必要です!何があろうとサンは御主人様と共にいます!」

「私もよドモン」ナナも気がつきドモンに寄り添う。


ドモンは夕方のパチンコ屋の窓際で、一緒に景品のミニカーで遊んでいた子供達と西日に目を細めながら「また遊ぼうね!絶対だよ!」「明日も会おうね」と、別れ際に約束しあったことを思い出していた。

残念ながら二度と会うことはなかったけれども・・・。



「さあ!スマートボール場は明日開店だ!たくさん客が入るといいな」

「きっと大丈夫よ。楽しいもん」「えぇ!」「はい!」


無理に明るく振る舞ったドモンの背中にナナが抱きつき、ふたつの柔らかなムニムニで、ドモンの心を癒やした。




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