第405話
「それでそのサミットと呼ばれる合同会議を行う、カルロスのところの温泉宿はいつ完成する予定なのだ?」
「いや俺は知らないよ。一応早く作っとけと手紙出したけど。グラの方が詳しいだろ」
「えぇ・・その・・・保育園や学校などと並行しての作業となっております故・・・」
王城の会議室のテーブルを囲む王族達と大臣達とグラ、そしてドモン。
なにやら難しい話が始まり、ナナはこの場から退散し、子供達とアイスクリーム作りに出かけてしまったので、代わりにシンシアがドモンの横に座り、会議に加わった。
国家機密的な話もあるが、シンシアも同様に自国のことを話すと約束し、意見交換をすることに。
いつも通り、サンは王宮の侍女に混ざってせっせと皆の世話係。
何が必要で何を送るべきか?
ドモンが授けた技術や知恵などは、何を何処まで無償で提供するべきか?
話はドンドンと難しくなっていき、ドモンはすっかり面倒になってしまったので、早くナナのところへ行きたかったが、ドモン自身が「技術は無償提供する」との約束をしたこともあって、いちいちドモンが判断しなくてはならなくなってしまったのだ。
国家間の取引の場合、どうしても「じゃがいもあげるから人参ちょうだい」というわけにも行かず、それなりのバランスが必要となってくる。
技術に関してもそうであり、いくらこちらが無償で提供すると言っても、向こうが無償では駄目だと言うならば、こちらも有償にしなければバランスは取れない。
二カ国間の協議だけでもこれだけ面倒なのだから、十カ国程参加するその会議には絶対に参加したくはない。
こういう時は丸投げに限る。
「技術の独占とかしなけりゃ多少儲けてもいいからさ、そっちで上手くやってよ。ジジイなら俺の意図くらいわかるだろ?」
「また貴様は面倒になりおって・・・理解はしておるから任せておくがいい。ただ姫にはまだ話し合いに参加していただかなければならぬが・・・」
「それは致し方ありませんわ」
「やったぜ!じゃあサン行こう!」「はい!」
許可を得るなり会議室を飛び出していったふたり。
「まったく彼奴は・・・あれが戦争の本格化を阻止し、この世界の常識をひっくり返しているとはな」出ていったドアの方を見つめる義父。
「すぐに街に拡がったドモンさんの汚名を晴らさねばなりません」トッポは真剣な目。
「となれば、明日にでもドモン殿のおかげで戦争が集結したことを、陛下の方から発表なされた方が宜しいかと」と宰相。
「ワタクシもお手伝いを致しますわ!そもそもワタクシが誤解を招いた原因ですから」
会議は明け方まで行われることとなった。
一方ドモンはナナと合流し、子供達とのアイスクリーム作りに参加。
広い部屋でサッカーのようにアイスクリームを作るおもちゃのボールを、ナナと男の子ふたりで蹴り合っていた。
もう夜も更けてきて、ローズはそれを座って見ながら、ふぁ~ふぁ~と何度もあくびをしている。
「もう出来たかしら?」「きっと出来てるわ!」気が早いナナとローズ。早く食べたいし早く寝たい。
「絶対まだだよ!な?ドモン」と男の子。
「お前はまだ遊びたいだけじゃねぇのか?」ドモンは数回蹴ったあと、疲れてサンの膝枕でゴロリ。
やっぱり自分にはこうしている方が幸せだとドモンは思う。
責任は負いたくないし、期待もかけられたくはない。
美味しいものを作って食べて、遊んで酒飲んでタバコ吸って、誰かとスケベして寝る。それだけでいい。
「そういやアイスクリームでも天ぷら作れるんだぜ。やったことないけどな」
「えー!嘘よ!溶けちゃうじゃない!」ドモンの言葉に驚いたナナ。
さっきも聞いた『天ぷら』という言葉に、子ども達もドモンの前に集まってきた。
新しい料理が出来る予感がして、期待に胸を膨らませている。
「じゃあ厨房借りてちょっと作ってみようか?俺もどんなのか食べてみたいし」
「やった!」「やったわ!!」
ドモンが厨房へ向かったという話を聞いて、料理人達が大慌てで厨房へと集まってきた。
もう午後10時過ぎであり、殆どの者達が部屋で寛いでいたため、数人は私服のまま。
アイスクリームに天ぷらの液をつけて油で揚げ始めると「まさか?!」「そんな馬鹿な??」と声が上がった。
「こ、こればっかりは俺も初めて作るから、みんなと同じ気持ちだよ」
「ちょっと!本当に大丈夫なんでしょうね?!」
珍しく不安そうに調理しているドモンの背中に隠れたナナ。
爆発する未来しか見えない。
「多分・・・高温で一気に揚げれば、冷たいままでも揚がるはずなんだ。あ、これが天ぷらね。詳しいことはシンシアの国の料理人に聞いてくれ。もう彼奴等の方が上手だからさ」
「ぐ・・・」「はい・・・」
料理人達も王族達と同じ様に、隣国に出し抜かれた気分。
ただこのアイスクリームの天ぷらだけは先に知ることが出来て良かった。
「出来たぞ・・・多分」
「何よ多分って・・・じゃあ食べるわよ?んぐ・・・あつっ!つめたっ!!な?!何よこれ???んーっ!!!」
「ど、どれ!俺も食わせろ」ナナの様子を見て、ドモンも慌てて味見。
「おぉこれは・・・うんまぁ~い。サンもほら」
「はふっ!ほっほっほ~ぅ???冷たいです?!あー!!とても美味しいです御主人様!!」
サクサクととろり。熱々と冷え冷え。
それらが口の中で混ざり合い、得も知れぬ快感をもたらした。
「ズルいぞお前達ばかり!」「そうよ!」「そうだ!」
「ほら、今揚げたてをやるから。中が溶けちゃう前にすぐに食べるんだぞ?」
ローズも一口で食べられるよう、今度は子供用に少しだけ小さめのものを作った。
小さめだと溶けるのも早く、少し加減が難しい。
「んわ?!な、なによこれ??はわぁ~」両手で頬を押さえて、上半身を左右に揺らしたローズ。子供特有の美味しいダンス。
「なんだこれ?!すごい!!」「うわ!本当だ!そして美味いぞすごく!」男の子達が目を見合わせる。
「みんなの分も作ってやりたいところだったけど、もうアイスクリームがないや」
「お任せくださいフフフ」
冷凍庫からトレーに入ったたっぷりのアイスクリームを出した料理人達。
色んな味があるようで、ナナもそれを見て思わず「ドモンの世界のアイスクリーム屋さんみたい!!」と叫んだ。
ドモンが伝えたアイスクリームは、王宮の料理人達の手により、すでに発展を遂げていた。
これもドモンが望んでいた通り。
技術や道具、食べ物など、ドモンはきっかけを与えるだけ。放置系のゲームのように・・・。
「・・・・」
「いかがなされたのですか?御主人様」
「ああなんでもないよサン。さあお前達も食べてみてくれよ」
「はい!」「ありがとうございます!」
その役目を終えた時、自分が一体どうなってしまうのかをふと考え、ドモンは少し寂しい顔をして笑っていた。




