第403話
「これでやっと心置きなくスケベが出来るな」
「あんたまたそればっかり!スケベおじさん」
ドラゴンに乗って去っていく竜騎士の背中に手を振るドモン達。
スキップしているように去っていくドラゴンを見て、道行く人々は皆ギョッとした表情をしていた。
ドモンが大好きなロールプレイングゲームの、黄色い鳥の乗り物に乗っているよう。
「プッ!本当に強いのかあれ」
「強いですわよ!その証拠に隣国にも竜騎士は居りましてよ?」
「シンシアの国だけじゃないのか。まあそりゃそうか」
「隣国の砂漠の国では、竜を讃えた地上絵を描いているとの噂を聞きました。竜はそのくらい尊敬されているのです」
自慢気に語ったシンシアの言葉に、ドモンは何か引っかかった。
「地上絵・・・?あの鳥みたいなやつか?」
「竜ですわ」
「あれって翼を広げた竜だったのかよ」
「ん?どうしてドモンが知ってるのよ?」不思議顔のナナ。
「ああ、いや、俺の世界にもあったんだ。それを今描いているってことは・・・」
そのおかげで、この世界の時代背景がある程度はっきりと見えてきた。
ナスカの地上絵が描かれたナスカ文化。西暦で言えば、紀元前後から約800年頃まで。
やはりこの世界は中世あたりで間違いがなかった。
ただそれよりも・・・
「ナナの本名って・・・」
「やだちょっと忘れたの?!ナスカよ!ナスカナタリア!もう!」
「だよな。そうか・・・ヒントにしちゃ随分と雑なヒントだな」
「???」「???」「???」
まだはっきりとはわからないし、確信とまでは言えない。
だが何か仕組まれたものを感じたドモン。元ギャンブラーの直感。
アンゴルモアといえばノストラダムスの大予言に出てくる恐怖の大王。
その予言の後にあっちの世界で流行ったのが、ペルーの予言。
そしてナスカの地上絵はペルーである。
やっと冗談の意味がわかったのか!と、どこかの誰かにケラケラ笑われている気分で、ドモンはなんとも嫌な気持ち。
この場に一泊し、次の日の早朝、シンシアを助手席に乗せて出発。
行きはナナ、帰りはここまでサンが助手席に座っていたということもあるが、もうすぐ王都に到着するということで、隣国と上手くやったというアピールをする狙いもある。
どこかの総理大臣とどこかの大統領が、一緒にゴルフをして仲良しアピールするのと一緒。
「きっと街では大騒ぎになりましてよ。戦争を終結させた英雄が凱旋するのですから」とシンシア。
「もしかしたら、あの音楽隊の噂も広まっているかもしれませんね!御主人様」サンもニコニコ。
「ま、まあスケベおじさんにしては格好良かったわよ・・・だってひとりで旗持って突っ込んでいっちゃうんだもの」ナナは本当は、早くみんなに自慢したくてウズウズ。
「そ、そうかな?」ドモンも満更でもない顔。
「武力でも魔力でもなく、音楽で戦争を終わらせただなんて前代未聞の出来事ですのよ!伝説に残りますわ!」
「そうね!」「はい!」
だが街に近づくに連れ、どうも様子がおかしいことに気がついたドモン。
「なんでみんなヤレヤレのポーズしてんだろ?」
「本当ですわね」
苦笑しているようにも見えるし、呆れているようにも見える。
中にはえらく怒っている人もいた。
戦争を終結させた英雄の凱旋の様子とはとても思えない。
ドモン達が今住んでいる王都近隣の街が見えてきた頃、車を一度停め、街から出てきた人にドモンが話を聞きに行ったが、すぐに渋い顔をしながら戻ってきた。
「なんだって言ってたの?」とナナ。
「お、おう・・・なんか俺のせいで戦争が始まって、謝罪しに行って戦争が終わったみたいに思われてたわ。まあ半分間違っちゃいない気もするけれど」運転席に座りながらドモンは頭をかいた。
「なんですのそれ!」シンシアも憤る。
「てか俺が姫様拐って犯したことで戦争が起きたことになってるし、向こうの王様を騙してまた姫を連れ去ったなんて噂も立ってるって」
「えぇ?!」「なんですって!」「・・・・」
サンだけは気がついている。
最初にシンシア達が攻撃したということ以外、ほぼそれが正しい情報だということを。
なぜこんな事態になってしまったのかを、サンはシンシアの両親から詳しく聞いていたのだ。
ドモンの口車に完全に乗ってしまっているのにも気が付いたし、ほぼ洗脳されていたのにも気がついた。
ドモンは不死身の戦士でも、なんでも答えを知る大賢者でも、おまけにアンゴルモア王国の使者でもない。遊び人だ。
よく考えてみれば竜騎士達も勝てないと思いこんでいて、あの態度だった。
ドモンはあの国の王宮まるごと騙しきった。ナナやシンシアも含めて。そしてある意味ドモン自身も。
「とと、とにかく!御主人様もシンシア様も、王宮から今回の一件についての正式な発表があるまで、お城の方に隠れていた方がいいかと思います!」
「そ、そうみたいだな・・・じゃあ夜になったら、こそっと城まで行こうか・・・」
サンの焦り様で、今聞いた噂がほぼ正しいということに気がついたドモン。
いくら大丈夫だとはいえ、車に石を投げつけられるのはあまりにも悲しすぎるし、みんなに責められるのも嫌だ。
ドモンは車を街から離れた森の中へと隠し、夜になるのを待ってから街へ入ることにした。
悲しすぎる英雄の帰還。
「ぐぬぬぬ!何処に行ったのだ!あのバカ息子は!!」カールの義父、大激怒。
「ひっ!昼前には街に入る様子だったと報告があったのですが、その後消息を絶ってしまい、未だ見つかっておりません・・・」震える伝令の騎士。
「戦争を終わらせたと報告があったと思えば、とんでもない無茶な事まで勝手に決めおって!!その上逃げるとはハァハァハァ!!」
「まだ病み上がりでございます故、落ち着いて・・・」と大臣のひとり。
「これが落ち着いていられるか!!く・・・胸が・・・おのれ!!」
義父が怒るのも無理はない。
元の世界で言うならば、勝手にEU、つまり欧州連合のようなものを発足した挙げ句、勝手に自国が参加させられ、その上サミットの開催と参加までも勝手に決め、更にまた隣国の姫を連れ帰ってしまったのだ。戦争となった一番の原因を。
トッポは各国への対応で大忙し。次々と使者を送り、次々と使者の話を聞く。
きっとそれがすべての国で同じ様に行われていることだろう。
義父や街の住民も怒らせ、突然サミットが開催されることになってしまったために、カールも大激怒させた。
結局何処に行っても怒られてしまうということをドモンはまだ知らず、「すっかり空が高くなったなぁ」と、呑気にたばこの煙をその空に向かって吐いていた。




