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第401話

「ドモン遅いわね」「はい」


王宮の間と呼ばれる豪華な部屋で食事を待つナナ達。

ナナはドモンがまたなにやら美味しいものを作っていると聞き、楽しみにしていた。


「ドモンはまだ厨房にいるのかな?」

「いえ、その・・・奥様方のところへ行くと、お風呂の方に向かったと聞きましたが・・・」ナナに答えた侍女。


「え?いつ頃?会わなかったわよ?」

「三十分ほど前でしょうか?」

「ワタクシ達が出てきてすぐくらいですわね」


侍女の答えにシンシアも首を傾げる。

サンはもう嫌な予感。


「御主人様はもしかしてそのお風呂に・・・」祈るように聞いたサン。

「はい。案内をした侍女達にお背中を流・・・」

「行くわよ!」「行きますわよ!」「ああもう」


話の途中で立ち上がった三人。

ため息を吐き、テーブルに突っ伏したミユが、おでこをゴンとぶつけた。

ギルは天を仰ぐ。



「絶対に内緒だぞ。わかったな?この国の運命はお前達にかかっていると思えよ」

「は、はい・・・」「わかりました・・・」

「さあしっかりと俺の上に跨るんだぞイヒヒヒヒ」

「待ちなさいドモン!!」「許しませんわドモン様!!」


何かが行われてしまう前に、風呂場の扉をガチャッと開けたナナとシンシア。

サンが横からそそくさと侍女達を救い出したが、当の侍女ふたりは不思議顔。


「あんた!!女の子を脅してスケベしようとするなんて!!」「脅迫罪に強姦未遂!投獄ものですわよ!」

「違う違う違う!!」

「何が違うってのよ!!」「そうですわ!」

「腰を揉んでもらおうとしてただけだってば!鞭で打たれたから!」


ジトっとした目で睨むナナとシンシア。

サンが「本当ですか?」と侍女達に聞いたところ「はい」「本当です」との答えが返ってきた。


「そらみたことか!」

「嘘じゃないでしょうね?」


侍女の方をジロリと睨むナナだったが、侍女がコクリと頷く。


「ま、まったく早とちりしやがって。それにあいつら服も着ていただろ?」

「でもなんかあんた、元気になってきているように思えるんだけど」ナナの疑いの目は晴れない。

「そ、そりゃ可愛くてきれいなお前達が来たから・・・ついQBKに」

「なによ?そのキュービーケーって」

「そりゃもちろん急にボッ・・・」

「ダメダメ!ダメです御主人様!!」


途中でなにかに気が付き、大慌てて止めたサン。

スケベ語録は現在猛勉強中。

兎にも角にも侍女達を出て行かせ、三人はホッとひと安心。


ドモンも一緒にこっそり安心。

頃合いを見計らい、スケベに持ち込もうとしていたことは、もちろん秘密である。

侍女達の唇とメイド服の胸の部分が、やけに湿っていたこともバレずに済んだ。ドモンは先に顔だけじゃぶじゃぶと洗っていたのだ。


「もう少しでご寵愛頂けたのに」「まだきっと機会はあるわよ」


女とは、げに恐ろしき生き物なり。

ドモンが政治家や有名人になっていたのならば、あっという間にハニートラップに引っかかり、醜態を晒すのは目に見えている。

むしろハニートラップ大歓迎として、地の果てまで落ちていくことだろう。



十五分後、少しだけツヤツヤした三人組に連れられ、ドモンも王宮の間へ。


「ドモン様直伝のお料理の準備が整いました!」と声を張ったマスターシェフ。自信満々である。

「これは一体??」シンシアの兄。

「エビに小魚、そして野菜の天ぷらというものでございます。お塩で味付けしてあります故、そのままどうぞご賞味ください」

「エビと魚だと?この場になぜこんなものを」シンシアの父の額には青筋が立っていた。


ドモンの方を一度見たマスターシェフが、笑みを浮かべて一度コクリと頷き、「どうぞ温かいうちに」と促した。

何を言われようが、その自信は崩れない。

箸がないのでナイフやフォークが用意されていたが、ドモンは手でエビのしっぽをつまんでお先にパクリ。


「お?上出来上出来。もう俺よりも全然美味く作れるようになったんじゃないか?」と、ドモンが納得した表情を見せながら、親指と人差し指についた塩と油を舐めた。

「そのまま切らずに食した方が宜しいのかな?」とドモンを見て判断したシンシアの父。フォークで海老の天ぷらを刺し、サクッとひと口。


その瞬間、背中にまで衝撃が突き抜ける。

目をカッと見開きながら、ドモンの方を一度見た。


ドモンはこれを「上出来」と言い放った。

生まれてこの方、これ以上に美味しいものを食べたことがない程のものを。


「ぎ、ぎ、技術の供与というのは、食事のことも含まれておるのか?!」


食事の感想よりも、本音が思わず出た。

口調もついいつもの王様口調に。


「そりゃそうだろ。でもまあレシピはこの中だから、俺の気分次第だけどなハハハ」

「まったくもう・・・」


人差し指で自分のこめかみ付近をちょんちょんとやってるドモンを見て、味噌と醤油の時を思い出したナナ。

呆れながらナナもひと口。


「んんーー!!!ん!んぐ!!出た!!また出たわ!!」

「何がだよ。鶏の卵みたいに言うな」

「あんた!どうしてこんな食べ物あるって隠していたのよ!!酷いじゃない!!」

「天ぷらといえばエビが必要不可欠だったんだよ。まさか他の国にこんな立派なエビがあるなんて思ってなかったから」


ずっとそばにいるはずのナナが知らないもの。

すなわちそれは、この世界で初めてのものなのだと理解した一同。

お互いに顔を見合ったあと、慌てて天ぷらを頬張った。


「なんですのこれ!!」

「エビ?!本当にこれがあのエビだというのか???」

「異世界の魔法か何かで騙されているのではないのか・・・」

「幸せ!幸せよあなた!!口の中が幸せで溢れていますわ!!」


部屋の中は騒然。マスターシェフは鼻高々。

魚や山菜に近い野菜の天ぷらも一気に食べ、それぞれが感想の意見交換。

食事の時は静かにしているのが当然のマナーである王宮で、こんな事になったのは初めてのこと。


「そういやその卵でも天ぷらが出来るんだぜ。めんつゆがないと駄目だけど。てかめんつゆ残っていたら、もっと美味しく食べられたし、米にも合うんだなこれが」

「もう!どうしてないのよ!」

「お前がどうしても違うものが食べたいって言うからだろ」

「も、もっと強く止めなさいよ!!」


ドモンとナナの会話にも聞き耳を立てていたマスターシェフ。

「もっと美味しく食べられる」というドモンのセリフに居ても立っても居られない。

食事中に聞くのは失礼なのは百も承知で、すぐにドモンにめんつゆの話を聞いた。


「そ、そんなものが存在したのですね・・・ああ、せめてそのうどんと呼ばれるものを配っていた場に居られたなら・・・」

「まあめんつゆなら帰ればまだあるし、今、故郷のカルロス領ってとこで醤油づくりも始めたらしいから、めんつゆも量産出来るようになると思うよ?いつかわからないけどさ」


いつの間にか全員がドモンの会話に聞き耳を立てていた。


「そのような物の生産が始まっていたとは・・・」とシンシアの父。

「これを機会にお互いに食材や調味料とか、いろんな道具とか楽器とかも輸出だの輸入だのすりゃいいんじゃない?他の国にもまだ珍しいものあるなら、それぞれが出しあって。ここの食材には俺も驚いたくらいだし」

「ふむ」

「お偉いさん方みんなで集まってさ、より強固な同盟というか、連合国家みたいな感じで仲良くやる話でもすりゃいい。ついでに『うちの国にはエビや魚がありますよ』みたいに宣伝したりすればいいんじゃないの?今は新型馬車で冷凍したまま輸送できるんだぜ?」

「な、なるほど!」


ガタッと立ち上がるシンシアの父。

この世界の偉い人達は、驚いたりした時に立ち上がりがち。


「今回だって、しっかり話し合いが出来ていれば戦争なんて回避出来たことだろ?ならいっその事、毎年どこかに王様だの何だの、国の代表が一箇所に集まって話し合いすりゃいいだろ」

「確かにそうだ!」「そうですわ!」「うむ!!」

「そういう話し合いをするための高級温泉宿なんかもカルロス領で作ってるんだぜ、今」

「なんと!ではそこで会議を行えばよいですな!」「素晴らしい!」


天ぷらを食べた時よりも盛り上がる王宮の間。

めんつゆ欲しさかどうかはわからないが、マスターシェフもその会議のための料理を作ると張り切っている。


「い、いや、でもまだ宿は出来てないと思うんだけどね・・・」


もう誰もドモンの話は聞こえていない。

調子に乗って適当な話をしてしまった自分に後悔。


「冬になる前に、早急に行わなければならぬな!」

「お父様!新型馬車には暖房もついていましてよ!それにドモン様が今回お作りになられました馬の必要がない馬車でしたら、きっと真冬でも移動が可能ですわ!」

「そ、そうか!うむ!確かにそうであるな!」「素晴らしいですわね」「でかしたぞシンシア!よくぞドモン殿を婿に」


勝手に盛り上がる国王一家。


「自動車にまだ冷暖房ついてねぇし、そもそも婿じゃねぇし、宿も出来てねぇし、トッポとかカールとかに話もしてねぇし」

「あーあ勝手に決めちゃって。私は知らないわよ?ング!あ~美味しい」


ドモンの分の天ぷらも勝手に食べたナナ。勝手なのはお互い様。


「俺じゃないだろ、決めたのは」

「おじいちゃんにその言い訳、通用すると思う?怒られるわよ~きっと」

「・・・・」


この夜、への字口のドモンは、トッポや義父、そしてカール宛に手紙を書いたのだった。




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