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第4話

昼飯にはナナのリクエストで、もう一度干し肉サンドを食べることとなった。

もちろん今度は最初から醤油を垂らしたものだ。


んが!んぐ!と夢中になって食べるナナ。

ドモンが少しだけ呆れたような顔で自分を見つめていることに気がつくと「だって美味しいんだもん」と少し顔を赤くしながら答えた。



繋いでいた馬にも餌と水を与えてから、六芒星が描かれた絶壁までやってきた。


「わぁ本当だ。こんなところがあったなんて」

「ここから出てきたんだよ」

「この先が異世界につながってるのね!」


根っからの冒険者なのか、未踏の地に足を踏み入れることになるかもしれないということに対して、まるで躊躇がない様子。

なのでドモンは先程懸念していた問題点を話した。



「・・・つまり、もしかしたらここでお別れになるかもしれないってこと?」と一気に表情が曇るナナ。

「それに一緒に行けたとしても、帰ることが出来る保証もないということだ」

「・・・・」

「両親に二度と会えなくなるかもしれないし、当然俺とも会えないかもしれない」


ナナの顔の血の気が引いて真っ白になっていく。


「りょ、両親は覚悟してるわ。冒険者になった時から覚悟してるっていつも言ってるから」

「そうか」

「でもあの・・・」

「ナナは残った方がいい」


そう言ったドモンにまた涙を浮かべるナナ。


「違うの。やだ。一緒に行く」

「でもな」

「ドモンと一緒ならどこだっていいのよ!」



たった一日でどうしてここまでそう思ってしまったのかは、ナナ自身もわからない。

これが運命と言うなら、きっとそうだとナナは思う。運命なんて言葉は、今までずっと嫌いだったけれども。

人の死も「運命」の一言で片付けられるのが大嫌いだったからだ。


「私はついていく」

「・・・・」

「もし離れ離れになってもずっと待ってる」

「・・・・」


ドモンはあらゆる可能性を考える。

一緒に元の世界に行けたなら、まあなんとかなる。なんとかする。

だがもし自分だけが帰って戻れなくなった場合、ずっと待つのはあまりにも酷だと思ったのだ。


「もし俺だけが向こうの世界に行ってしまったら、待つのは一日だけにしろ」

「やだ」

「じゃあ一日だけ待って、それからはたまにここへ様子を見に来るだけにしろ」

「・・・うん」とナナは渋々了承した。


「ああそういえばアイテムボックスとかアイテムバッグとか、荷物が沢山入るような便利なものってあるか?」

「ないよ」

「ねーのか。異世界のくせに」

「どういうことよ」と笑うナナ。

「とにかくもし俺が一人で行った時には、今運べるギリギリの量の買い物をして戻るから」

「わかったわ」



そして、もしナナだけがあっちの世界に行ってしまった場合。

頼る者もなく金もない、そして即銃刀法違反で捕まるだろう。


「俺の世界では剣を持って歩いてはいけない法律がある」

「そうなの?!そんなに安全なの??」

「ああ、魔物はいないし野生動物も滅多に出ない。たまに熊が出て大騒ぎになるくらいだけど、すぐに対処されるし年に何度もない」

「じゃあ剣はここに置いていくわ」と、背負っていた剣をその場に置いた。


「あとこれも一応持っていけ」とポケットからレシートとペンを取り出し、レシートの裏にサラサラと連絡先と伝言を書いていく。

「なにこれ?」

「ん~・・まあその・・俺が昔付き合ってた女の連絡先かな?」

「むぅ~」とナナの顔がわかりやすいくらいに膨らんでいく。


「昔の話だよ昔の!俺もおっさんなんだから、恋愛のひとつやふたつ・・・まあいくつかはあるだろよ」

「キキタクナイ」

「とにかくだ!!もし向こうで一人になってしまったら、お店の人でも誰でもいいから、ここに連絡をしてほしいと伝えろ。わかったな?!」

「ワカリマシタ」


ドモンは不貞腐れるナナを宥めすかし、皮鎧のポケットにそのメモと、手持ちの中からいくらかのお金を突っ込んだ。




「さあ行くか」と左手でナナと手を繋ぐドモン。

不安そうに顔を見上げたナナに軽くキスをし、ついでに指でむにゅっと胸を突っつく。

だがナナは怒ることもなく「あとでね」と微笑み返した。


激しく鳴っている心音が、分厚い脂肪のおかげでドモンに悟られず、ナナは良かったと思う。

ナナはナナで、ドモンに余計な心配をかけたくなかったのだ。


ドモンが右手を六芒星に掲げタッチをすると、岩肌がまた白く輝きだし、四角く空間が切り取られていき、それと同時にドモンの身体だけが光だし、白い粒子のようにさらさらと岩肌に吸い込まれ消えていった。

ナナは握っていた手の感触が消えた瞬間、その場にへたり込んだ。ナナは一緒には行けなかったのだ。



「ドモン・・・ドモン!」

ナナは力を振り絞ってまた立ち上がり、光が一つ減り、3つだけ光を放っている六芒星に何度も何度も手を当てていた。


ドモンから話を聞いて、こうなる可能性もあるということは理解していた。

だが実際に離れ離れになった瞬間、とてつもない喪失感に襲われてしまったのだ。心にぽっかり穴が開く。

さっきまで手を握っていた右手がまだ温かい。冗談で胸を突っつかれた指の感触もまだ少しだけ残っている。

だがそれも徐々に消えてゆく。


「やだよやだやだ!ドモン!!おいていかないでドモン!!」


ワーッと泣きながら絶壁の岩肌を叩くナナ。

全身に鳥肌が立つ。知らない街で迷子になった子供のよう。

やはり止めればよかった。行かせなければよかった。一緒に自分の家まで帰って両親に紹介し結婚して、両親が営むお店を継いで仲良く暮せばよかった。

次から次へと後悔が生まれ、何度も気を失いそうになる。早く戻ってきてほしいと、ナナはただただ願っていた。




一時間ほどして、ナナはようやく落ち着きを取り戻した。


「何よドモンなんて」


どうせただのおじさんじゃない・・・昨日会ったばかりの図々しくてスケベなおじさん。

告白されて一晩を共にして、どうかしていただけだわ・・・と考えているうちに、今度は怒りが湧いてきた。


「私のこと置いて一人で買い物行っちゃったんだから!それにこんなに待たせて。買い物ってそんなに時間かかる?」


自分が買い物する時は半日がかりなのを棚に上げ、ブツブツと文句を言うナナ。

泣きすぎて目の下も腫れてしまった。


「誰のせいでこんな顔になったと思ってんのよ!」と革鎧のポケットに入っていたドモンが書いてくれたメモを、丸めてポイッと投げ捨てる。

そのメモが風に飛ばされそうになり、大慌てで追いかけて拾った。

どうしてそんなことをしてしまったのかと後悔し、また泣けてくる。


「これでお別れなのかもしれないね」


ドモンが残していった荷物を両親のお土産にしよう。

きっと驚くと思う。でも信じてくれるかな?異世界から来たおじさんの話なんて。

逢えてよかった。逢わなければよかった。

ドモンの言う通り、一日だけ待ってあげよう。

そして忘れよう。忘れられるわけないじゃない。


ナナの頭の中はもうぐちゃぐちゃになっていた。

二時間ほど経ち、また涙がこぼれてきた。その時である。




「ふぅ~い」という声とともに、白く光った岩肌から箱がドサッと飛び出した。

突然のことにキョトンとするナナ。

「これ持っていけんのか?」と更にふたつの箱が岩肌から飛び出す。

今度の箱には手が添えられている。


見覚えのある手。ナナがさっき握っていたあの手だった。


「おーいナナ~!荷物一つ受け取ってくれぇ!重てぇよ!!」


大慌てで駆け寄ったナナは荷物を受け取らず、飛び出していた腕を力いっぱい握って引っ張った。

「うわっ!」という声が辺りに響き、持っていた箱が地面にドサドサと転がる。続いて飛び出してきて草むらに転がったドモンに、ナナは飛び乗るように馬乗りになり「もう絶対許さない!」と抱きついた。


「悪いな、遅くなったわ」

「おかえり。遅い!遅い遅い遅い!!!」

「必要なもの色々買っモゴモゴ・・・」


ナナの口がドモンの口を塞いでしまい、結局何を言っているのかわからなくなってしまったが、今のナナにはそんなことはどうでも良かった。



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