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第393話

「竜騎士達の証言によると、剣で斬りつけてもすぐに傷が塞がり、たとえ殺せたとしても、また蘇るだけだそうですな・・・」

「以前あったあの不気味な鐘の音が、あの者が復活した時のものとか」

「・・・・」


大臣達の報告に、国王は絶望した。

その気持ちを例えるならば、何かのホラー映画に出てくるような恐怖の対象を、多大な犠牲を払いながら何とか倒したとしても、あっさりと復活して『次回へ続く』になることが確定しているという事を、ついうっかり知ってしまった心境。


そしてその映画の本当の結末は・・・バッドエンドしかないのである。


なぜこちらから手出しをしてしまったのか?

どうしてそんな危険まで冒して、アンゴルモア王国が覇権を握ることを阻止しようとしたのか?

今は後悔しかない。


映画に出てきた者達もきっと同じ気持ちだっただろう。

キャンプなんかに行かなければ。あんな人形を貰ったり、そんなビデオなんて見なければ。


せめて話の通じる相手であればと国王は祈ったが、そんな都合のいい事がないのも理解している。

井戸から這い出てきた相手に一斉攻撃を仕掛け続け、テレビから飛び出してきたところで『やはり話し合いしませんか?』と言うようなもの。


送りつけた刺客達もすでに殺されたか、洗脳されていると思われる。

万が一戻ってきたところで、きっと娘のシンシアや宰相、竜騎士達と同じことを宣うだけだろうと予想した。



「・・・といった訳で、私達が戻ったところできっと同じ扱いを受けるだけかと・・・」

「なんて強情な王様なの!」「はい!」


「この様子を見られていたならば、裏切り者として処分されることもあるでしょう」

「そりゃまあそうでしょうけど」「はい・・・」


う~んと悩んでいる様子のドモンを見かねて、ナナとサンがどうにか出来ないものかとあれこれ提案したが、刺客としてやってきた騎士達は王宮に戻ることを拒否。


「先程なにか思いついたのではないですか?」とギル。

「いやまあ、俺がよく知っている曲がひとつだけあるんだけど、それをどうギルに伝えて、そしてそれを誰が演奏するんだよって話なんだよ」

「師匠が鼻歌かなにかででも歌ってさえいただければ、私が楽譜に書き起こしますけれど・・・」

「あたしも手伝うわ」


ギルとミユが手伝うといったものの、ドモンが頭に浮かんだその曲は、大人数で演奏しなければならない。

そもそもが、大人数で演奏しなければならない曲を、鼻歌から再現できるとはとても思えなかった。


「王女様を助けるにはそれしかないんだろう?仕方ないねぇ、久々に楽器を引っ張り出そうかねぇ」と微笑んだ恰幅のいいおばさん。

「ラッパは必要か?腕が錆びちゃいなけれりゃいいが」酔って赤い顔のおじさん。ドモンよりは年下か?

「太鼓叩く力が残っちゃいりゃいいけどよ、一週間、いや、せめて五日くれねぇかな?鍛え直さねぇと」

「僕たち笛なら得意だよ!ね?」「うん!!」


俺も私もと、話を聞いたドモンの周りの者達が立候補。

その数は一気に膨れ上がり、手伝いたいと申し出た人数は百人を超えた。


「おいおい」「どうなっているのよこれ」驚くドモンとナナ。

「師匠!ここをどこだと思っているのですか。音楽の都ですよ!」


誇らしげに胸をドンと叩いたギル。その目には涙。

サンが右へ左へありがとうございます!と頭を下げる。


「出来んのかよ、そんなこと・・・」

「やるんです!やらねばなりません!皆さん、私に三日ください!それまでに演奏曲を用意してみせます!そこから三日練習し、今日からちょうど一週間後に王宮へと向かいましょう!!」


ドモンの小さな頃から、耳に、体に染み付いている『あの曲』

心の奥底にある大和魂を掻き立てる『あの曲』だ。


「私らも王宮の仲間になんとしてでも知らせ、シンシア様の延命を図ります!」と騎士のひとり。

「この命を賭してでも必ずや!」

「誰もそのような事は望んでいないのです!ドモン殿、いやドモン様!なんとか・・・なんとか姫をお救いください!!」


ドモンに頭を下げた刺客の騎士達。


「俺の鼻歌にシンシアの命がかかってるとか、なんの冗談だよ・・・」

「師匠!」

「やるよ、やればいいんだろまったく。いらっしゃいませいらっしゃいませ~ありがとうございますいらっしゃいませ!ジャンジャンバリバリジャンジャンバリバリってか」

「???」「???」「???」「???」


ドモン達一行とギルとミユは、とある店の地下倉庫へと案内された。

別の刺客が現れて邪魔をさせないためだ。


ギルとミユは馬車を自宅まで走らせてもらい、帰宅したように見せかけ、ドモンの自動車は街外れに移動し、住人達が交代でドモン達のフリをした。裸になって・・・。



それから三日。

ドモン達は時折仮眠を取っていたが、ギルとミユは一睡もしていない。

スマホに録音したドモンの鼻歌を何度も何度も再生し、様々な楽器で再現しては、ドモンが聴いて細かく修正。その繰り返し。


「ズチャチャチャチャ!ですよね?」

「違う。そこはズチャズチャチャ!だ」


気の遠くなるような作業である。

食事を運びに来た者達も手伝い、合奏もしながらまた確認作業を繰り返していく。

ドモンはすっかり疲れ果ててしまったが、ギルとミユ、そして住民達は目に炎が見えるのではないかというくらいに燃えていた。


そうして今日、ドモンの鼻歌から完全に音符を譜面に落とし込むことに成功した。

それぞれの楽器のリーダーと副リーダーが一度この場に集まり、それぞれが譜面を書き写した後、合奏を行った。


「なんと勇ましく・・・」

「心が踊り・・・」

「勇気が湧く曲なのでしょう!」


演奏していた本人達も感動に打ち震える完璧な演奏。

ナナとサン、ギルとミユも抱き合い涙を流す。


「ああ、ほぼ完璧だ。いらっしゃいませいらっしゃいませ、これが『軍艦マーチ』だぜ」


ドモンはタバコに火をつけて、パチンコ屋に通い詰めていた日々を呑気に思い出す。

今はもうパチンコ屋でも聴けない、ドモンの思い出の曲である。




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