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第392話

「魔物ではなかったというのか!ではなんなのだあれは!!」

「住民達を掌握しただと?!」「無理やり従わせたのか?!」

「いえ!お、大人も子供も皆にこやかに、街はこれまでにないほどの賑わいを見せております・・・」


偵察隊や騎士らの報告に、驚き立ち上がった国王と大臣達。

二千人以上が広場に集まり、飲めや歌えやのお祭り騒ぎとなっていると知り、愕然とした。


「バカな・・・戦時下であるのだぞ・・・」国王であるシンシアの父は、ボソッと呟き、力なく椅子に腰掛けた。


当然異常なのはドモン達である。

宣戦布告後に少人数で乗りこんだ敵国内で、そこの住民達を集めて仲良くやっているのがおかしいのだ。


もしも日本が開戦宣言を行った数日後、どこかの大きなスクランブル交差点の真ん中に外国人を乗せた戦車がやってきて、二千人以上を集めてパーティーを行っていたとしたら・・・それもその戦車に子供らまで乗せて。


「すぐに人々を解散させ、その者達を始末しろ!!」吐き捨てた大臣。

「そ、それが、向かった者達がひとりたりとも戻らないのです・・・」

「一体、何が行われておるというのだ・・・」


シンシアの父は頭を抱えるばかり。



広場で多くの人々にうどんを振る舞ったドモン達であったが、持ってきためんつゆがあっという間に底をついてしまい、うどん配りはすぐに終了となってしまった。

だが、それぞれが持ち寄った食材などでドモンが次々と珍しい料理を作り、皆に振る舞った。

奥様方はメモを片手にドモンの周りに集まり、広場はちょっとした料理教室。


「ドモンさん!トルティーヤってこんな感じでいいのかしら?」「ああ」

「サンちゃん、マカロニはこのくらいの太さ?」「はい!素晴らしい出来栄えです!」


ナナは酔っ払いの男達を相手におしゃべり。

店をやっていることもあり、こういった男達の扱いは馴れている。

酒を奢られナナもすっかり酔っ払い、へんてこな踊りを踊っては大量のチップを貰っていた。


一同大騒ぎの中、広場の向こう側が更に騒がしくなる。


「し、師匠!!うわミユ!本当に師匠がいましたよ!!」「えぇ?!」

「おお、ギルとミユ、無事だったか」

「無事だったかではないですよ!どうして師匠とナナさんとサンさんだけで来たのですか!」「サンでいいです」


群衆の中にドモンの姿を見つけたギルとミユ。横でサンがいつものセリフ。

敵国から何者かがやってきて料理を振る舞ってると聞き、慌てて飛んできたのだ。胸が大きな女性と可愛い女の子がいるとも聞いた。


突然の吟遊詩人と歌姫の登場に人々は大騒ぎ。

音楽の都なだけあって、すでにミユの歌とその噂は国中に広まっていた。


「だってあの手紙、王様が俺に会いたいってことだろ?あとシンシアがまずいことになってるってのと」

「シンシア様がまずいことになっているのは合ってますけど、師匠が狙われてるという意味ですよ!なのにどうして・・・」

「あーだからあんなに攻撃されてたのかハハハ。寒いから炎の魔法は助かったけど、今時期の氷の魔法はまいっちゃったよ」

「よ、よく無事だったわね・・・」


呆れるギルとミユ。

サンが丈夫な自動車の説明をして、ようやくふたりは納得した。


「それにしてもですよ!どうしてこんなことになっているのですか!今も命を狙われてますよきっと。ここまで来る途中にたくさんの兵も見ましたし」

「どうしてって言われても。気が付いたらこうなっちゃったんだよ」

「まあわかりますよ。師匠のことだから。わかりますけどね・・・」「無駄よ、この人に何言ったってウフフ」

「説教はもういいから、お前らも歌でも歌って盛り上げろよ。酒がまずくなるだろ。拡声器は?」

「馬車に積んでありますよ。もう・・・」


酔っ払って地面に寝転ぶドモン。

ギルはヤレヤレのポーズで楽器と拡声器を取りに。ミユは民衆達の握手攻め。

ギルが戻ってくると、いつの間にか人々がその場に座り、音楽を楽しむ姿勢となっていた。流石は音楽の都。


ミユが歌を披露すると、その場にいた全員がその心を奪われた。潜んでいた刺客の騎士も含めて。


音楽の都での音楽の力は絶大であり、それに比べれば武器も魔法も陳腐なもの。

皆隣の者と肩を組み、恥じることもなく涙を流し、声援を送る。

ドモンもいい気分でアカペラで歌を披露。


「♪生まれた~ところや~皮膚や目の色で~」


カラオケでいつも高得点を出していたドモンの十八番。

なんの気なしに歌ったこの歌が、人々の心を打った。

やはりチャリティーコンサートの時と同様、この国の国民は感受性が強い。


新たに現れた刺客も武器をぶん投げ、その場に体育座りし、自身の愚かさと罪深さを痛感し、天を見上げた。


そんな者達からドモン達は現在の詳しい状況を聞いた。

シンシアの父、つまりは国王陛下がかなり焦り始めていること、姫であるシンシアが必死にドモンの事を守ろうと訴え続けていること、そんなシンシアの処刑の日が迫っていることなども。


「この人が悪魔だって?こんな料理が出来て歌の上手い悪魔なんかいるかね!」

「そうだそうだ!」「そんなことあるもんか!王様はなんだってんだ!」


怒れる人々。「いるんだけどね」とぼそっと呟いたナナに「奥様奥様・・・」と小さく呟くサン。


「大体実の娘である王女様を処刑するだなんて、一体何をお考えなんだ!」

「それは私達も・・・」「何とか説得をしているのだけれども・・・」


騎士達の表情も曇る。

実際にドモンらと触れてみて、シンシアの言い分が本当のことなのだと悟った。

ならばいくらドモンのことが憎かろうが、シンシアが処刑される謂われはない。


「ねえドモン、どうにかしたげて。可哀想よ」ナナの言葉に、騎士や周囲の人々もドモンの方を向く。

「どうにかしろと言ったって、そこまでこじれてるとは思わなかったしなぁ。そもそもあれだけ攻撃受けるとも思ってなかったくらいだし。話し合って謝って、適当に誤魔化しちゃえばいいかなと思ってたんだけど。まあ多少仕返しもするつもりだったけどな」


騎士達がいる手前、やんわりとした表現をしたドモンだったが、本当はシンシアの時以上の生き恥をかかせるつもりだった。

当然ドッキリの看板などの用意もせずに。大衆の前で、例のキノコと下剤をたらふくお見舞いしようとしていたのだ。


「御主人様、私からもお願い致します。なんとかしてあげてください」本当のシンシアとふれあったサンは涙目。

「なんとかしたくても、近づくこともままならないんじゃ・・・」


城の殆どの者がドモンを殺そうとしている状況。

暴力団の事務所に単身乗り込むよりもずっと危険である。


「では師匠、近づけないのでしたら音楽で抵抗してみてはいかがでしょう?音ならば近づかなくとも届くはずです」とギル。

「何だよ音楽で抵抗って。おとぎ話じゃあるまいし」

「ここは音楽の都、音楽の国です。もし師匠の音楽が素晴らしいものだと知れば、話し合いの場を持つことも考えるのではないでしょうか?」

「そんな都合よく行くもんかねぇ?」


ドモンは疑心暗鬼。

とてもじゃないが通用するとは思えないし、それで戦争が終結するとは思えない。


「いや・・・陛下は、あなたのことがわからずに恐れているのです。魔物を使役する大悪魔だと考えているほどに」

「話し合いが出来るなどの考えも持てず、悪魔に取り憑かれ、洗脳されたアンゴルモア王国を滅ぼすことだけを考えておられるのです」

「もし話し合いが出来る余地があると知れば、きっとその場を設けることでしょう。恐れさえなくなれば・・・」


騎士達がまくし立てるようにドモンに訴えかける。

結果的にほぼ正解なのがなんとも皮肉。


「つまり得体の知れないおばけみたいなのが迫ってきて怖がってるけど、そのおばけが実は話の通じる相手だとわかれば、怖さも減って話し合いも出来るってところか」タバコに火をつけたドモン。


確かに幽霊は話が通じないから怖いと感じるものである。

「こんにちは。地縛霊ですけど取り憑いちゃってもいいですか?」「駄目ですよ」「そうですか」なんて会話ができるならば怖さも半減するし、なんなら美味い酒でも買って持っていって、身の上話のひとつでも聞いてやろうかとも思えるかもしれない。


「なのでこれが師匠の音楽だと示すことができれば、きっと向こうから歩み寄ってくれると・・・思うのですが・・・」なぜかトーンダウンしたギル。

「ですが?」

「この国は・・・いいえ、正確にはこの国の王室は、以前も話した通り、新しいものを良しとしないと言いますか・・・その・・・」

「ああ、俺が知ってる歌のようなものじゃ駄目なのか」


ため息交じりに煙を吐いたドモン。


「恐らくは。ミユの歌のおかげで、最近になってようやく一般の人々に認められはしましたが、立場や位の高い者ほど伝統を守りたがる気質を持っていますので」

「じゃあこの作戦はやっぱり駄目だな」

「師匠の国の伝統音楽や行進曲などはありませんか?それならばきっと・・・」

「あるにはあるけど、スマホにゃ入っちゃいないし、俺は全く知らないからな。俺の音楽の成績は小中高とずっと下から二番目だぞ。ジャジャジャジャーンのやつもジャジャジャジャーンのとこしか知らんっていうのに。それになんだよ行進曲って。マーチバンドがツッタカタッタッターってやるやつか??ん・・・あ??」


ギルと会話しながら、ポロッと口からタバコを落としたドモン。

自分の言葉で思い出したのだ。何百回と聞いたあの曲を。




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[一言] パチ繋がりで昔懐かしの軍艦マーチかな?ww
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