第388話
アンゴルモア王国とシンシアの国は国交断絶となり、現在はもう自由には行き来が出来ない。
本来であればミユも強制送還されるところであったが、結婚を控えていたため特別に滞在を認められた。ただし出国は禁止。
協定を結んでいたいくつかの国はシンシアの国側につき、いくつかの国は裏切りアンゴルモア王国側についた。
それにより対立は更に悪化。
寝返った国に対して攻撃を仕掛けた国もあり、アンゴルモア王国に支援要請があった。
もう世界大戦待ったなしの状況。そしてそのきっかけを作ったのはドモンであり、シンシアでもある。
久々にあったトッポは痩せこけ、ゲッソリとしていた。
義父は心労で倒れ休養中。
多くの人が故郷の町へと避難し、ドモンが住む街もかなり閑散として寂しい雰囲気。
たったの二週間でこうなった。
来週には24時間営業の店も開店しようとしていたのに。
王都には志願兵も集まっていたが、それだけでは足りず、徴兵を行うかどうかの議論が今日も王宮内で繰り広げられていた。
その会議にドモンは呼ばれたのだ。
そんな話を聞かされたところでドモンにはどうすることも出来ないけれど、責任はあるという自覚もあったので、顔だけは出すことにした。
「ドモンさん、よく来て頂けました・・・」
「顔が青いぞトッポ、食事は取れているのか?」
「まあ・・・なんとか・・・」
「・・・・」
流石のドモンもかける言葉が見つからない。
なぜこんなことになったのかを聞いたところ、歌劇団に潜んでいた密偵が、全ての真相をシンシアの父親に伝えていた事が発覚した。
「ギルバートさんから手紙も届いたのですが、よくわからないので、ドモンさんにも見てもらおうかと思いまして」とトッポが手紙を渡した。
手紙にはこう書き記してある。
『久しぶりですね皆さん』
『めっきり寒くなりましたが、そろそろ皆様の首も寒いのではないですか?』
『戦いは始まりました。もう引き返せません』
『すでにこちらの戦力は十分揃っており、いつでも叩き潰すことが出来るでしょう』
『決して許されない過ちをあなた達は犯しました』
『天国に行けるよう、願ってますよ。特に師匠にはくれぐれも宜しくとお伝え下さい』
「はぁ、なるほどな・・・」タバコに火をつけたドモン。サンが慌てて灰皿を取りに行った。
「ね?訳が分からないでしょう?それでドモンさんを呼んだのです。これは彼からの決別宣言なのでしょうか?」
「いや、どうも俺が行かなきゃならないみたいだな。ギルの国へ」
「えぇ?!どうしてですか!危険ですよ!」
トッポは久々に大声を出したため、声がひっくり返った。
隣で手紙を読んだナナも寂しそうな顔。
あれだけ仲良くしていたのに、その友情が壊れてしまったということに。
「縦読み・・・文章の頭文字だけ繋いで読んでみろよ」と煙を大きく吐いたドモン。
「頭文字ですか?ええと、ひ・め・た・す・け・て・・・姫助けて!!な?!これはなんですかドモンさん!!」また大声を出したトッポ。王族達が大慌てで次々と手紙を確認。
「シンシアが幽閉されているか、それとも処刑されるのか・・・最後に『特に師匠にはくれぐれも宜しく』と書いてるってことは、俺に来てくれってことなんだと思うよ」
「ドモンさんが軍隊を引き連れて行くということですか?!」
「いやぁ俺とナナとサンの三人で行ってくるよ。どうやらその父親が俺に会いたいみたいだしな」
「ど、どうして・・・」
「俺が言ったセリフだからな。くれぐれも宜しくと父親に伝えとけと、あのコンサートの時に。それをギルが俺に伝えたということは、俺への私怨だと伝えたかったんだろうよ」
ドモンの推測はほぼ当たっていた。
ただ父親がドモンに会いたいという、その『会いたい』のニュアンスがドモンの想像とはまったく違う。
ギルはドモンの首が寒い、つまりドモンが殺されてしまう事を伝えたかったのだ。
必ずやドモンを見つけ出し、この手で殺す。そういった意味。
姫の救出は願うが、絶対にドモンは見つかってはいけない。手紙の内容を確認される中で、ギルは何とか今の状況を伝えようとしていた。
シンシアがドモンについての誤解を解こうと、国王である父に向かって何度も熱弁しその素晴らしさを語るたびに、皮肉にも父親はすでに娘が洗脳されてしまったのだと悟り、ドモンを更に恨むことになってしまった。
窓もない部屋にシンシアは幽閉されたが、そこでもドモンやアンゴルモア王国の素晴らしさ、そしてこの国の間違いを訴え続け、ついには父だけではなく母までをも激怒させ、悪魔に憑依されたのだという判断が下されたため、近日処刑することに決まったのだった。
ギルはドモンのそばにいたということで事情聴取をされ、その事実を知ることに。
実の娘に対して、あまりにも横暴とも思える態度の両親だったが、その見解がほぼ正解だというのも皮肉である。
確かにシンシアは洗脳され、悪魔に抱かれ、その悪魔からの加護を受けていたのだから。
「ギルとシンシアの国ってどのくらいの距離なんだ?」サンの持つ灰皿でタバコを消したドモン。
「恐らく新型馬車でなら三日、急げば二日で国境を超える」と勇者。
「なら、ちょっくら行って俺が挨拶でもしてくるよ」
「無謀過ぎますよ!!いくらなんでも!!」トッポが代表して叫んだけれども、皆同じ気持ち。
全員が心配していたが、ドモンは呑気に「まあなんとかしてくるよ」と、すぐにでも出発するつもり。
ドモンがなんとかするというのだから、本当になんとかするつもりなのだろうと、全員が神妙な顔つきながらも、心の中で僅かな希望を抱いていた。
ナナやサンもそんなドモンの態度に、いつものようにきっと上手いことなんとかしてくれるのではないか?と願う。
だが、実際のドモンは『ブチギレ』である。
ドモンもいい歳であり、ヤンキーだのチーマーだの半グレだのの全てを相手にしてきたが、強くもないドモンがなぜ『悪魔』というあだ名を付けられていたのか?
怒った時のドモンは、死ぬほど汚い手で勝つからだ。
目潰し、不意打ち、薬も盛る。
チート(インチキ)行為で『僕最強』と変わらないくらいの恥ずかしさ。
現にシンシアはそれでとんでもない目にあった。ドモンは本物のゴミクズ人間なのだ。
シンシアは訴えていた。
宰相も竜騎士も訴えていた。
ドモンには絶対に手出ししてはならないと。
だが国王がそれを聞き入れることはなく、その結果が今回の宣戦布告である。
賽は投げられてしまった。
そんなドモンの元へ、騎士がひとり大慌てで駆けつけた。




