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第386話

結局『何者か』の正体はわからずじまい。

サンは少しだけ残っていた背中のかさぶたに、優しく薬草を塗りつけている。


「ドモン、今自分で言ってたことって覚えてる?」

「・・・・なんとなく」

「あれはドモンが言ったの?」

「俺が言ったんだろうな。でも俺が言おうと思って言ったわけじゃなく・・・寝言みたいなもんなんだよ本当に。寝言ってあまり言おうと思って言ってるわけじゃないだろ?それに覚えてたり覚えてなかったりで。そんな感じなんだよ」

「なるほどね・・・」


ナナに問われるも、ドモンに答えられるのはやはりこれだけ。

その答えに皆少しだけ納得し、ドモンが今どういう状況なのかも理解できた。


「それにしても、ご馳走さーんってなによもう!!」と怒るナナ。言い方も言い方だが、そのせいで何かを行ったことが全員にバレてしまった。

「俺は知らねぇよ!」


「サンの事はごちそうさましませんでした・・・それにサンじゃなくシンシア様を」薬草を背中にグリグリと強く塗るサン。

「痛い痛いサン!背中に穴あくってば!」


ナナやサンとのやり取りで、場は少しだけ和んだ雰囲気に戻ったが、義父や勇者など一部の者達は『命と魂を食べた』という言葉に表情を曇らせたまま。

ともかく斬られたドモン本人が許したことで、本日はこのまま解散となった。



馬車をあげると言ったものの、色街の宿舎まで帰らなければならないのと、ギルやミユも荷物を全て宿舎に置いてあるということで、同じ馬車に乗って戻ることに。エミィ達はチィやミィと一緒に宮殿へと招待を受けたのでここでお別れ。


「あーあ、この馬車に乗るのもこれで最後なのかしら?」とナナ。

「なんだか本当に申し訳ありません・・・」「ねぇ?」恐縮するギルと、色んな気持ちを「ねぇ?」の一言に乗せたミユ。

「本当に羨ましい話ですわ」

「・・・・」


当然のように会話に入ってきたことで、言葉を失くす一同。


「で、どうしてあんた・・・お姫様が一緒に乗っているわけ?」

「反対に、なぜワタクシがドモン様のお側から離れると考えたのですか?あなたは」

「何を当然みたいな顔してるのよ!!他所の国のお姫様でしょあんた!!」

「まあ、なんて乱暴で野蛮な口調なのかしら。ね?ドモン様」

「キィィィィ!!!」


馬車の座席に座り、ドモンを挟んで言い争うナナとシンシア。

ドモンがシンシアの同乗を無下に断らなかったのは、決してシンシアが、休日にローマを散策するような何かの映画のお姫様とそっくりな美人だったからではない。


「・・・と思いたい」つい何かの声が出たドモン。


「ドモンはすっごくスケベなのよ!」ナナのお決まりのセリフをドモンは黙って聞いていた。反論しても良いことがない。

「知っておりますわ」「あたしも知ってる」平然と答えたシンシアと、口を挟んだミユ。


「スケベなイタズラもするし、すっごく意地悪なこともするわよ!」

「ああたまりませんわ」「はい!」「あたしも知ってる」御者台からサンの良い返事。


「全身に爪を立てられて、恐怖で動けなくさせてから体を貪るように・・・ふぅんドモン~」

「あぁドモン様・・・」「フゥフゥフゥ!!」「ねぇギル・・・」

「やめろやめろ馬鹿!!ミユまでギルと何やってんだ!!」


シンシアがドモンに帯同することは、宰相も竜騎士達も反対したかった。

が、出来るはずもない。


「ドモン様のお側に居るのですよ?竜騎士であるあなた達でもまったく敵いもしない」とシンシアに嫌味を言われてしまい、反論の余地はなかったのだ。

もちろんその場ではドモンやナナも反論したが、聞く耳を持たず。トッポや義父も止めたが完全に無視。


「絶対にあんた達二人きりにはしないわよ!」

「ええ、ワタクシは皆様の前でも構いませんわ。だってワタクシ、五千人の目の前でドモン様から辱めを受けておりますのよ?」

「うーっ!!」


ダンダンと床を踏みつける音が御者台の方から聞こえる。

サンが夢の中で夢に見た、意地悪ドモン少年からの辱めを遥かに超える辱め。


やりたいかと言われればやりたくはない。

だけれども、乗り越えたことがないくせにと言われると、ただただ悔しい。


絶叫マシンは乗りたくはないけれど、「ああ、お前乗ったことないんだ」と言われるとなぜか悔しいのと同じ気持ち。


「私はなんとも思わないわ。ドモンのせいで街の中を下着も付けないで、スケスケの寝巻きで走っちゃったことがあるし。何千人に見られたと思ってんのよ。お姫様は経験ないでしょ」とナナ。流石にそんな人数ではない。

「あの時のナナは凄かったな。未だに街を全裸で歩いてたって間違った噂が流れてるくらいだもんな」ウンウンと頷いたドモン。

「く・・・」「うぅ!」


ナナの意味不明な自慢に悔しがるふたり。

馬車はスケベ話満載のまま、王都の門へ。


門番達はサンの姿を確認しソワソワしていたが、意を決したように通行証の確認をしにやってきた。

ちなみにこの日はチャリティーコンサートが行われていたため、時間外でも特別に門を解放中。


ドモンに向かって通行証を確認しにやって来た門番に対し、シンシアは不敬だと怒り心頭だったが、ドモンがその理由を話し渋々納得。

馬車の扉を開けて挨拶をした門番は、ドモンや隣国の姫、吟遊詩人や、もうここにまで噂が届いている例の歌姫などが勢ぞろいしている状況に大緊張。


「シンシアは通行証がないからここで降ろしていくか」「そうね」

「イヤよ!嫌ですわドモン様!ねぇあなた!ワタクシにも通行証というものをすぐに用意してちょうだい!」


慌てたシンシアの声に、ついクスクスと笑うミユ。


「シンシア、通行証を貰うには、全裸で身体検査を受けなければならないんだ。脚を自分で抱えあげて、パカッと開いて見せなくちゃならないんだよ」

「よ、よろしくてよ・・・ここで脱げば宜しいのかしら?」

「嘘です嘘です!!お脱ぎにならなくても結構ですから!!!」


ドモンの冗談でドレスを脱ぎかけたシンシアだったが、門番が大慌てで止め、大慌てで通行証を持ってきた。

こっそり脱いだ下着をこっそりまた穿いた赤い顔のサン。


ここからは宿舎まで騎士達が護衛に付くことになり、スケベな話を控えて少し真面目な会話。


「で、シンシアは本当にどうして来たんだ?いくらなんでも無茶なのは自分でもわかってるんだろ?」

「えぇ・・・無茶なのは承知しております。ですが・・・もっとしっかりとしたお詫びをしたいという気持ちもありまして」

「もう十分反省しただろ」

「はい。でも正直なところ一番は、ドモン様のお側で学びたいということでしょうか?もちろんお慕い申しておりますドモン様のお側にいられたらという気持ちもありますが」


シンシアの言葉に頷いたギル。その気持ちはわかる。


「また始まった!どいつもこいつも・・・学ぶことなんてなんにもねぇよ。俺はただの遊び人のおじさんだっての」「そうね」間髪入れずに相槌を打ったナナ。そんな事ないのは知っているが、シンシアにはお帰りいただきたい所存。

「それでも構いません。もちろん密偵として潜り込んでいるわけでも、技術を盗もうとしているわけでもありません。一言で言えば『好奇心から』・・・ではいけませんか?」


それがシンシアの本心。

もっとドモンと話してみたかったし、もっと知りたかった。

それに、今まで知らなかったことをたくさん知ってみたい。


もちろん国のためではないと言えば嘘になる。

だけど好奇心を満たしたい気持ちがそれを上回ったのだ。


「ドモン様はきっとくれるわ!新しい技術や新しい歌も、新しい生活や新しい食べ物も、希望も絶望もワタクシの知らない何もかもを!」目を輝かせたシンシア。

「そのかわりにお姫様が奪われるものがひとつあるからみんな心配してんのよ」どんよりとしたナナの顔。

「なにをですか?」


「あんたの貞操よ!」「はい!」


ナナとサンの言葉にミユはプッと吹き出し「ご愁傷さまでした」と笑っていた。

・・・が、結局シンシアのこの判断が、父親を激怒させることになったのは言うまでもない。




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