第385話
「ドモンさん・・・」
「お待たせ致しました皆様!」
「?!」「!!!」
なんとか口を開いたトッポと、明るい口調で改めて挨拶をしたシンシア。
その様子に皆呆気に取られた。
ドモンが斬られたこと、シンシアの身に何かしら問題が起きたことなど、それぞれが危惧する中で、その張本人がドモンと腕を組んで明るく入室してきて、待っていた一同は大困惑。
「お、おお、よくぞ戻った。それで先程の舞台は・・・何だったというのだ?」と義父。
「えぇ、ワタクシったら、皆様が観ているというのに粗相をしてしまい」
義父はドモンに聞いたつもりだったが、シンシアが饒舌に語り始めた。
とても嬉しそうに。
「まま、待ってください!あれはドモンさんが異世界の道具で音を出したのでは?」と、会話を遮るトッポ。
「いいえ!ワタクシあの時、本当に粗相をしてしまったの!ウフフ!でも、ドモン様に救われてフゥン・・・」シンシアが更にトッポの会話を遮った。うっとりとしながら。下唇を噛むサン。
シンシアは呑気にその状況を語りだしたが、宰相や竜騎士達は皆絶句。
「き、貴様がなにかしたのか?!」と義父。
「薬草がお腹に効いてしまったのですわ!ね?ドモン様?」ドモンを庇うシンシア。
「そんな事よりも、あなたもあなた達も、今すぐドモン様に謝罪なさい!特にドモン様を斬りつけたあなた!あなたは死になさい」
「え?!」「は??」「ちょ!」
すぐにパーンという破裂音が部屋に響いた。
ドモンがシンシアを膝の上に腹ばいにさせ、お尻を叩いたからだ。
シンシアは歯を食いしばりながら、サンとミィの方を見てなにやら目配せ。
サンとミィはシンシアに対して羨望の眼差し。
ただこの部屋で待機していた者達は、羨望の眼差しどころの話ではない。
あの気の強い姫が、ドモンに対して完全に服従していたからだ。
「と、とにかくこれから両国の関係について・・・」とシンシア側の宰相。
もう国として対抗・対立する意思はない。
シンシアの事に関してもそうだが、舞台上でのドモンの「技術は独占させるつもりはない」という発言で話し合いもしており、すでに決着はついていた。
宰相は自分の首ひとつでどうにか穏便に事を済ませて欲しいと願ったが、トッポはそれを拒否。
ドモンの意見に全て委ねるという話になっていたのだ。
部屋の中が重苦しい雰囲気になっていたのはこのため。
「両国についてのこれからも何もありませんわ。だってもう私の祖国はドモン様のものですもの」
「!!!!」「!!!!」「!!!!」
宰相の言葉を遮り、シンシアが爆弾発言。
ドモンがシンシアを膝の上に載せたまま、大慌てで首を横に振った。
「もうお父様へのご挨拶も予定されていますのよ!ウフフ!ああどんな式にしましょうドモン様。その場でまたワタクシに辱めのご褒美を・・・」
「待て待て待て!違う違う違う!!」ドモンは大慌て。当然である。
「ワタクシの国がドモン様・・・いえ貴方様の理想に染まっていくのが楽しみですわ。ああごめんなさい!貴方様のお国でございました!」ドモンの首に抱きつき、幸せそうに甘えるシンシア。
「き、貴様はまた・・・」焦る義父。
「違うってば!いつもの誤解だ!!」
「グギギギギ・・・あんた!いつの間にそんな話になってたのよ!!!」とても怒るナナ。
「そんな話になってるわけ無いだろ!!だから誤解だってば!!」
ドモンは当然否定するも、シンシアはオホホと笑うばかりで、まるでドモンが嘘をついているよう。
「な、何を言っているのですかあなたは!ドモンさんが治めるのはこの国です!!」今度はトッポが爆弾発言。
「それはワタクシ達の国の属国になりたいとおっしゃられておられるのですか?」
「違いますよ!!ドモンさんが治めるのはこの国だけです!!!」
「・・・・」「・・・・」「・・・・」「・・・・」「・・・・」
立ち上がり、テーブルにダーンと手をつき睨み合うトッポとシンシア。
そして呆れる一同。
「ウフフ!ドモンさんも大変ね。ふたつも国を治めるだなんて」イタズラっぽく笑うミユ。
「やるわけ無いだろ。俺が国王になったら、王宮内で女は服を着ること禁止にするぞ!まったく・・・」
「え?」「え?」「え!」
驚きつつも少し嬉しそうなサンとミィとシンシア。
「するかバカ!冗談だ!・・・で、そういやギルとミユはこれからどうするんだ?」
「えぇ、一度ミユを故郷に連れて行ってから、それから各国を巡ってみようと考えてます」とギル。ミユの顔が赤くなった。
「ああ、両親へミユを紹介するのか。結婚の挨拶で」
「そ、そういうことになりますね」ギルも赤い顔。
「じゃあ俺らからの餞別ってことで、立て替えたミユの借金はなしでいいよ。あと新型の拡声器はジジイから貰うだろうからいいとして、俺らが乗ってる新型の馬車もお前らにやる」
「えー!!」「えー!!」「えー!!」「えー!!」「えー!!」
ドモンの気前の良さに驚きの声を上げた一同。
何人かの竜騎士まで一緒に叫んでしまった。
「ちょちょちょ!!私達が馬車使う時はどうするつもりなのよ!!」慌てるナナ。しかも馬はナナの馬だ。
「だってもうすぐ冬だし、春までどこも行かないって言うんだから別にいいだろ。馬繋場にずっと置いておくわけにもいかないし」
「そ、それにしたって・・・えぇ?!本気なの??」
突然のことにナナは大混乱。サンまで頭を抱えている。
ふたりとも少からず、あの馬車には思い出と愛着があった。
なんとか馬だけは返してもらうことを約束した。
「駄目よ!ダメダメ!!ドモンさん駄目よ!!」もっと焦っているのはミユ。
「なにが駄目なんだよ?結婚祝いだって言ってんだろ」
「だとしても、いくらなんでもそこまで甘えられないわ!それにただでさえ、あたしあなたに恩を返しきれていないのに・・・」
「恩なら返してもらったよ。いい歌声だった。それで十分。な?みんな」
「うむ」「素晴らしいものでした」「・・・そうね」「本当に素敵でしたぁ」
ドモンに同意した一同。
ミユはギルの腕の中でわんわんと泣いた。
「さて、あとはシンシア達の処遇だけど・・・」シンシア以外がゴクリとつばを飲み込む。
「どうするのですか?」トッポも真剣な顔。
「俺を斬りつけた罰として、ギルとミユをしっかり護衛しながら全員無事に帰ること。以上!腹減ったから解散!」
「そ、そんな馬鹿な・・・」
自分の首を差し出すつもりであった宰相。
そしてその宰相を守るため、全員で自害する覚悟であった竜騎士達。
トッポを含むアンゴルモア王国の者達も、ほぼ全員が絶句。唖然呆然。
義父とナナ達、そしてシンシアは恐らくこうなるだろうと思っていた。
「じゃあ俺らは色街の宿舎の方に戻るから、被害者への義援金の分配だの何だのは任せたからな」とドモン。
「それは任せておけ。ああそれと、貴様が用意しろと言っていた薬草も用意したぞ。どれ、傷を見せんか」なんやかんやで義父は心配。サンは「私がお塗りします」と張り切っている。
「もう痛くはないんだけど、さっき見たらデカい傷跡が残っちゃってるみたいなんだよな」
その場で上着を脱いでみせたドモン。
流石にシンシアも気まずく俯いていたが、一番気まずいのは斬った張本人の竜騎士。
「あれ?!ないよ??ねえドモン、さっきの傷がない!」驚きの声を上げたナナ。
「そんなバカな?確かに傷の治りが早いのは自慢だけど、そんな簡単にあれだけの傷跡が消えるわけ無いだろ。暴行の時の顔の傷だって残っちゃってるんだから」
傷跡を見せたのはここに来る数十分前。
ドモン自身も自分で背中をもう一度触ってみたが、先ほどまであった傷の感触が全くない。
目の前で斬られたところを見ていたトッポを含む王族達や貴族達も驚いたが、やはりここでも一番に驚いたのは斬った本人の竜騎士である。
「い、一体どうなって・・・」ドモンを斬った感触がまだ手に残っているその竜騎士。
「わ、わかんねぇよ俺だって」ドモン本人も気持ちが悪い。
「・・・・」「・・・・」「・・・・」何かを察した義父とナナとチィ。
その瞬間、グルっとみんなの方を振り向いたドモンが、真っ赤な目をしてニヤリと笑った。
ビクッとする一同。全員身体に悪寒が走る。
「だから先に食ったと言っただろう。命と魂をな。ナナの身体もご馳走さーん」
そう言ったドモンに対し、思わずその場に膝をついたエミィの兄の青オーガ。
エミィは、チィとミィを庇うように抱きしめた。身構える勇者達と竜騎士達。
「ねぇ待って!あなたは誰なの?!」「待ってくれんか!!頼む!!」同時に叫んだナナと義父。
ドモンはゆっくりと目を閉じ、そしてゆっくりと目を開けるともう元の目の色に戻っており、キョトンとした顔でふたりの方を見ていた。




