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第372話

「ただいまぁ~ヒック」

「ちょっとドモン!どこ行ってたのよ・・・うわまた酒臭っ!!」


なかなか帰ってこないので、そろそろドモンを迎えに行こうとしていたナナが、玄関でドモンと鉢合わせた。

明日はコンサートの本番だというのに、いつもの調子のドモンにみんな呆れ顔。


「まあお土産持って帰ってきたみたいだし、今日だけは許してあげようか。さあみんな食べよ」とドモンの手から袋を奪うナナ。

「わぁ!美味しそう!」「ここら辺りの名物なのかな?」「私もいただこうかしらぁ」「あたしも食べていい?ギルも食べたら?」


ナナやチィ、サンやミィ、エミィやミユやギルが食べた。

・・・その結果、酷い目にあったのはエミィであった。


「うぅ~ん!!ブベェ!!ウゥゥゥ・・・酷い!酷いわ!!もう~!」

「お、お母さん・・・ククク」エミィを笑うチィ。

「ドモン様のイタズラねぇ!もう~嫌だわぁ!」

「他のは美味しいですよ」苦笑するギル。


残りの4つをクンクンと匂いを嗅いで、恐る恐るながらも食べきったナナとチィ。

あんな酷い目にあった様子を見ていたというのに呆れる食欲。


「うぅ~ん・・・おっぱい吸っていい?ムニャ」

「なんて寝言言ってんのよこのスケベ!!」

「・・・ん?ナナか・・・ナナのは今日はいいや・・・」

「なんですって?!一体誰のを吸おうとしてたのよ!!ちょっとドモン!起きなさい!こら!!」


ナナがドモンの襟を掴んで前後に揺すると、上着のポケットから銀貨がジャラジャラと落ちてきた。約40枚。


「うわ!銀貨がこんなに!ま、まさかドモン・・・お金欲しさについに・・・」

ナナにはドモンが真面目に働くという考えはない。強盗はないにしろ詐欺ならやりかねない。


「ち、違いますよきっと!御主人様は私達のためにお仕事をしてこられたのだと思います!」ドモンを信じるサン。

「仕事とはとても思えないほど酔っているけど・・・ほらドモン様起きて!」とチィがドモンの上半身を支え起こした。

「み、水浴びをした形跡はないので違うとは思いますけど・・・その・・・」ミィがドモンの首元をクンクンと嗅ぎ、女性のニオイがしないかを探る。


全員が『きっとそんな事はない』と信じつつも、どうしても女の陰を疑ってしまい、「違うわよきっと」「違いますよ」「そんな事ないわよ」と、額に青筋を立てているナナを宥めはじめていた。

疑われる寝言を吐いたドモンが悪い。



もちろんこの銀貨は、先程の店の夫婦が寄越したもの。

あんなにも売れたのは初めてのことで、夫婦で相談し、その日の売上の半分をドモンのポケットに詰め込んだのだ。

その間にも「今日はもう作らないのか?」と客が殺到し、おかみさんは嬉しい悲鳴。


「こんな奇跡みたいなこと起こるのね・・・そりゃこれがいつまでも続かないのはわかってるつもりだけどさ。あたし嬉しくて嬉しくて」

「なぁに、困ったらまたこの人に相談すりゃいい。売上の50分の1で良いってんだろ?」

「こんなお人好しの酔っ払った神様見たことないよ・・・ウフフ」


夫婦二人、涙を拭って抱き合い、ドモンに毛布を一枚かけて店を閉めた。

こうして用事を済ませつつ、遊びついでに経営コンサルタントの第一歩をドモンは踏み出した。浮気したと勘違いされながら・・・。



「ようやく目が覚めたようねドモン」「ご、御主人様・・・」

「うぷ・・・ありゃ寝ちゃってたか。ふぁぁ~どうだ歌の調子は」

「もう夜中よ。その前にあんた、私になにか言うことない?」

「な、なんだよ急に・・・」


ベッドに横になったまま、腕を組み見下ろすナナを見上げたドモン。サンはナナの横で困った顔。

ドモンにはまったく意味がわからないけれど、自分が今窮地に陥っているということだけはわかった。


「ちょっと待て。話せば分かる!」

「言ってごらんなさい」

「スケベはしてないです」

「浮気は!」

「してないってば!!酒は飲んだけど用事を済ませていただけだよ」


やはり疑われていたと知ったが、必死過ぎる言い訳は尚更疑われてしまうので、ドモンは呼吸を落ち着かせ正直に訳を話した。


「じゃあこのお金とあのお菓子は何なのよ」

「え?お金??あ!そういや俺のお菓子は?」

「た、食べたけど」

「・・・えー働いて俺が貰ったお菓子なのに・・・って、もしやその金・・・そうか、そうだったのか」


本当に仕事をしていたこととお菓子を楽しみにしていたことがわかり、少しだけナナとドモンの立場が逆転し始めた。


「ほら奥様!やはりお仕事をされていたんですよ!」サンはホッと一安心。

「まあちょっと試しというか、遊びでお店の経営の助言をしていたんだ。褒美にお菓子頂戴って言って。そしたらうたた寝してる間に給金くれてたみたいだな。こんなにいらないのに」


ドモンにとって見れば大したことはないアドバイスだけれども、あの店にとっては、その後の運命を変えるほどのアドバイスだということにドモンはまるで気がついていない。


「エミィさんがあんたのイタズラに引っかかって酷い目にあったのよ?」さり気なく話題を変えたナナが、そそくさとベッドイン。

「あぁ、あれに当たっちゃったのかアハハ。あれはイタズラなんかじゃなく、そういうものなんだ」

「どういうことだったのですか?」サンもさり気なく反対側へベッドインして川の字に。

「うん実は・・・」


午前0時。

ドモンの助言によって生まれた新たな名物の説明をしながら、三人は眠りについたりつかなかったりした。

机の上には剥がしたハートマークのシールがふたつ。



そうして迎えたチャリティーコンサート当日の朝。

開演時間は夕方なのでまだ慌ててはいないが、一応リハーサルを行うので、朝食を済ませつつ、迎えの馬車が来たらすぐに出発する予定。


「んぐ・・・流石に緊張して昨日はあまり眠れなかったね!んぐぐ」とツヤツヤのナナ。

「お前は本当に・・・すごい度胸してるよ。そんなに食って、歌ってる最中にゲップとか出たらどうすんだよ」

「大丈夫!歌う前にゲップ出し切るから」


横で頬をパンパンに膨らませたツヤツヤ顔のサン。

でもそのおかげで少し緊張も解けてきた。チィやミィもケラケラと笑っている。


対象的にミユは緊張の面持ち。

緊張なんてしないと思っていたはずなのに、ギルから聞いた来賓客のことや、助けが必要な被害者らのことを考え、一度だけ歌詞が出てこなくなったことがあった。


そのたった一度の失敗が、ミユの心を苦しめていたのだ。




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