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第369話

「どういう事?」とナナ。

「ええ・・・音楽に関して造詣の深い国であるのは良いのですが、新しいものを拒むと言いますか、認めないと言いますか・・・とても保守的な考えを持っているのです」


話を聞けば、音楽はクラシック音楽のようなものが主流であり、その他は邪道と言われてしまう風潮があるとのこと。

ギルはそれを嫌い、新たな音を探すために国を飛び出して世界を巡ったが、ところどころでその気質を出してしまう自分が嫌になることがあった。


拡声器を使用した歌唱法も、ドモンに手本を見せてもらうまでは邪道と感じてしまった。そんな自分が悔しい。


「まあ国によってはそんなこともあるさ。俺らは俺らが良いと思った音楽を突き詰めりゃいいし、今は関係ないよ」

「それが少し関係があるのだ。今回に限っては」


ドモンの言葉に義父が口を挟む。

腕を組み、やや難しい顔。


「此度は公的な意味合いもある舞台故に、隣国に対し招待状を送ったのだが・・・あくまで形式的なものなのだけれども」苦々しい顔の義父。

「ま、まさか・・・」とギル。

「うむ。殆どの国が見舞金と称した義援金を寄付し、断りの連絡を入れる中で・・・」

「招待に乗ったというのですか!・・・く・・・」


すべてを察し、苦々しい顔を見せたギル。


国が主催する公的な催事を行う際に、あとになり「なぜ招待をしなかったのか?」と文句を言われないように、一応誘いの言葉をかけるのが習わしであり、それに対し丁重に断りを入れるのもまた習わしであった。

そちらの国のことは忘れていませんよ?といった友好の証でもある。まどろっこしいが。


いわばご近所づきあいの中での形式的な挨拶のようなもの。

今回その誘いに乗ったということは、本当に仲が良いか、もしくはただ小馬鹿にして優位に立とうとしているかのどちらかだ。


「明日から家族で温泉旅行なんですよ。あなたの家族も一緒にどうですか?」という建前に対し、「じゃあ行きます」と。

そして今回の場合の誘ったその相手は、例えるならば、庭に温泉が湧く豪邸を持つ家族のようなものである。


「わが街ののど自慢大会に有名な歌手や音楽家を冗談で誘ったら、快諾されちゃったようなもんか」

「うむ」「はい」困った顔の義父とギル。


「来てくれるってなら別にいいじゃない」と呑気なナナ。

「音楽にうるさい奴らがお前の歌を聴くんだぞ?下手な歌を聴かせたら、世界中に悪評を広められるんだよ。『アンゴルモア王国の歌手は酷く音痴だ。おっぱいしか能がない』とかって百年千年語り継がれたらどうすんだよ」


ドモンの説明でようやく理解したナナがしょんぼり。


「ナナさんだけじゃないですよ師匠。下手をすれば、このミユだって言われかねない。なにせ元より・・・」

「はじめから馬鹿にしようとしに来てるなら、そりゃ簡単じゃねぇな。必ず粗を探そうとするはずだ」

「そういうことです」


ギルの言葉でドモンも神妙な顔つきに。


「まあそこまで事を荒立てるつもりはないだろうが、嫌味のひとつふたつは覚悟せねばならぬだろうな」と義父は、演者であるミユやナナ達の心配をしていた。

「私達は別にいいわよ。どうせ初めから下手くそなんだし。あとはミユさんが頑張ってくれたら挽回できるわよ」

「だから今ミユだって言われかねないって話をしてんだろ!話を聞いていろよ、このバカおっぱい!」

「キィィィ!!なによスケベジジイのくせに!!」


ドモンとナナの取っ組み合いの喧嘩が始まったが、みんなが止める間もなく2秒でナナの勝利。

ドモン相手にマウントポジションを取ったナナが、そのままドモンに抱きつきキスをした。

喧嘩仲直り芸の進化系である。


ふたりはみんなに酷く怒られた。


「と、ともかく今は練習をしましょう。ミユ、お手伝いをしてきていいかな?」

「あたしはひとりで大丈夫。いえ、かえって今はひとりにして欲しいわ。少し集中したいの」

「では夕食の時にでも一度様子を見に行きますね」

「わかったわ。チュ。エヘヘ」


ミユもギルにキス。

目の見えないミユでもわかるくらいギルの顔は真っ赤になり、熱を発していた。


「で、ジジイは一旦戻るのか?」

「うむ。拡声器のひとつを皆に見せたいというのもあるが、それこそそろそろその隣国の者達が到着する頃だろうからな」

「丁重に出迎えてくれよ。あと今回はみんな素人だというのも伝えてくれよな」

「その辺は上手く誤魔化すつもりだ。では明日馬車を連れまた来る」


義父はそう言い残し、拡声器のひとつとギルから楽団へと託された譜面を預かり、王宮へと戻っていった。

それと入れ替わるように例の仕立て屋達がドモンの元へと到着。


「お待たせ致しました。ご要望の品の準備が整いました」

「悪いね、忙しいのに余計な仕事増やしちゃって」

「ドモン様、何をおっしゃられておられるのですか。これ以上に優先すべき事などありませんよ」


その言葉通り、仕立て屋達は店を閉めてやってきた。

それどころか昨日から店を臨時休業とし、ずっと衣装作りを行ってきたのだ。


数日前にドモンからの手紙が届き、ナナ達とミユの舞台衣装を急ピッチで仕上げた。

特にミユの衣装は豪華なものにしてくれとドモンに頼まれ、宝石が散りばめられた真紅のドレスを全力で仕上げてきた。

売ればいくらになるか分からないが、今回はすべて無償で提供。


「そういえば見てきましたよ。賢者様に差し上げたウェディングドレスを!いやぁもう驚いたなんてものではなく、震えました」

「そんな大げさなものではないってば。余ってたやつをあげただけだし」

「あれはまだまだ私達の技術では作り上げることが出来ません。当然模写していきながら、我らも技術を身につけていきたいところですが・・・」


暫くの間、メイド喫茶で使用するメイド服のことや、新たに作る店のことなどについての話し合い。

まだこっちはメイド喫茶が入る予定の建物すら建っていないというのに、仕立て屋の方はすでに新店舗が入る予定の物件を数店確保したとのこと。


夕方になり皆でぞろぞろと、ナナ達が歌の練習をしている部屋へ。

中に入ると拡声器を二つ使用して、ギルの伴奏に合わせて必死に歌っていた。


声を無駄に張らなくて良くなった分音程を取りやすくなったのか、それともギルの教え方が上手なのか、みんな随分と上達していて、舞台で披露しても問題はないくらいまでになっていた。


「神話になーれ!」「し・ん・わぅにぃなぅれぃ!」「神話になぁれ!」「神話になぁれ!」


微笑みながらパチパチと拍手を送った仕立て屋達。

ドモンも一緒にニコニコと見つめている。


「どう?ドモン。上手になったでしょう?」とナナ。

「ああ、かなり良くなったな。ナナはちょっと力みすぎて変な癖が出てるけど」

「なんでよ!きちんと歌ってたじゃない!」

「だから言ったじゃないの。ナナは格好つけようとしすぎなのよ」とチィからも注意されたナナ。

「なによ!いいじゃない!」


バチバチとした視線をぶつけ合うふたり。

相変わらず仲が良いのか悪いのか。きっとすごく良いのだろう。


「その辺はギルの言うことをきちんと聞いて練習してくれ。それよりもほら、お前達の舞台衣装が届いたぞ」

「え!?」「うそ?!」「ワァ!」「やりました!」


木箱を開け、ひとりひとりに衣装を渡していく仕立て屋達。


「一応一度ご試着頂けたら幸いです。合わないところはすぐに仕立て直しますので」と親方。

「では一度休憩ということで、皆さんご試着なさってください。私は一度ミユのところへこの方達と一緒に行ってきますので」とギル。


数名の仕立て屋達が部屋に残り、ナナ達が試着。

ドモンとギル、仕立て屋の親方ともうひとりがミユのいる部屋へ向かった。


部屋に近づくに連れ、徐々にその歌声が聞こえてきて、仕立て屋のふたりは額から脂汗を流し始めていた。




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