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第366話

「ねえチィ、歌い出しが遅いよ!」

「あんたが早すぎるのよ!」


ナナとチィの、胸と胸とがぶつかり合う壮絶な争い。

間に入って今すぐ喧嘩を止めたいと、恐らくこの世のすべての男が思うことだろう。


「ミィ、声が小さいですよ」

「サンだって」


サンとミィもなにやら言い合っているが、常に手を繋いでいて可愛い。

指揮棒を持つドモンもニコニコ。お箸だけれども。


「ねえドモン、結局この歌は何なのよ?」とナナ。

「これは向こうの世界の人間なら、誰でも一度は聞いたことがあるというくらい有名な歌なんだ。若い奴もジジババも」

「・・・本当でしょうね?」

「本当だってば!大当たりで必ずこれが流れるんだから!大体今まで俺が嘘ついたことあるか?」

「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」


トッポの勧めでチィとミィも舞台で歌を披露することに決まったのだけれども、何故かナナとサンまで巻き込まれ、四人で歌を披露することに決まった。

本日はその練習。一緒に来るつもりがやはり大臣達に止められたトッポは、イジケながら王様のお仕事中。


「はい!また最初からやるぞー!イチ!ニィ!サン!ハイ!」

「♪ざ~ん~こーくな~天使の~」


今はまだ伴奏がないため、なかなか歌が揃わない。

伴奏に関してはギルが今まとめ上げている最中。

一緒にその歌を聴いたミユが、横で助言をしながらお手伝いをしていた。


ミユの耳の良さや、音楽に関する記憶力は異常とも思える能力で、一度その曲を聴いたなら、ギルとの共同作業によりほぼ完全再現が可能となった。

ギル自身も様々な異世界の詩に触れたのと、ドモンの小説を読んだせいなのか、作詞能力が格段に向上。


新しい歌のアイデアが次々と湧き出てもう止まらない。

もはやドモンから頼まれた歌を楽譜にまとめる作業など、ギルとミユにとっては良い気分転換程度の話。



そんな日々を繰り返しながら、チャリティーコンサートを翌日に控えた昼過ぎ。

ドモンは久々にやってきたエルフ達と顔を合わせていた。


「一体いつになったら占いの館が出来るんじゃ!」

「仕方ないだろ。建物壊すのはすぐ出来ても、建てるのは容易じゃないんだよ」


「それはわかってはおるが、オーガ達の力でなんとかならんかの?」

「力仕事だけじゃないからなかなか難しいと思うよ?配管も考えないとならないし、セメント固まるのを待ったりもしなくちゃならないしで。でもさ、今までよりずっと良い建物を作るから、もう少しだけ我慢してくれ。な?」

「うむぅ」


クレーマーエルフ達を必死に宥めたドモンは、施工業者にでもなった気分。

一部の建物ではドモンの指示の下で、健全な営業形態でのスケベな店が営業再開していた。憲兵を配置した交番のようなものも置かせたので治安も良い。


更にはドモンがレシピのアドバイスをした居酒屋や、スナックとガールズバーのような店も数件仮オープン。

パチンコに少し似た、スマートボールと呼ばれる遊技場ももうすぐオープン予定である。


続々と店舗が営業を開始し、現時点で三割程度が稼働している状況。

だがこの時点でも、色街自体の客の入り具合は、以前の十数倍。


だからこそエルフ達は焦っていた。

周りが皆儲けて、ほくほく顔をしていたからだ。


「まあ怒らないで風呂にでも入っていけよ」

「ま、またドモン様が一緒に入ると言うんだろう?」

「す、全てお見通しさね・・・」「うむ」


警戒しつつ、少しだけ何かしらの期待をしたエルフ達。

エロババフからエロママフになったものの、現在は徐々に元に戻りつつあり、そろそろお情けが欲しいところ。


そんなギャーギャーとうるさいエルフ達を連れ、ドモンは隣の建物へ向かった。


「俺は入んないよ。だってほら、ナナ達もみんな入ってるもの」

「む?!」「こ、これは??」「なんじゃ??」


「これは元ある風呂を改造した、銭湯という有料の大浴場だ。まだ開業はしてないけどな。王都の鍛冶屋にも協力させて、みんなで入ることが出来る風呂を作ったんだよ」

「はえ~・・・」「これは驚いたさね・・・」


暖簾をくぐり、ドモンが女湯の脱衣所にエルフ達を案内。

するとそこには脱ぎたてほやほやの裸のエミィがいて、叫び声を上げた瞬間ナナが風呂場から飛び出し、ドモンはあっさりと追い出された。



「ふぃ~・・・人工の温泉のようなものかの?」と湯船に浸かったエルフ。

「そうね。ドモン様が作ってくれたの。実際に作ったのは大工さんと鍛冶屋さんだけど。昨日出来たの」お湯に浸かりながらタオルを頭に乗せたチィが答えた。


「食事処の用意など、まだまだ改良すべき点が多々あるそうで、開業は先とのことですが」「それまでお風呂は自由に入っていいとおっしゃられておりまして」サンとミィ。湯けむりでどっちがサンかわからない。


「まったくあのバカ!普通に女性用のお風呂に入ってきて!」戻ってきたナナがドボンと風呂に飛び込んだ。

「それに関しては止めなかったわしらも悪かった」

「だがそれでも・・・大した男じゃな」

「信じられんわい・・・フゥ・・・」


エルフ達も天国気分。

ドモンが褒められたことによりナナの機嫌も上昇した。

いやぁ良かった良かった一件落着・・・と、ボイラー室の穴から女湯を覗きながらドモンが呟いている。



そんなドモンへ、コンサート前日のギリギリに、ようやく必要としていた物が義父の手により届けられた。


「歌を披露するのにこんな物が本当に役に立つのか?」と義父。

「はっきり言ってわからん。それよりもこんな物があるなんて驚いたよ。魔導コンロ以来の衝撃だ」

「国王の演説があると言っておろう。どうやって国民相手に演説を行っておったと思っていたのだ貴様は」

「そりゃトッポがメチャメチャ大声で頑張るのをちょっぴり想像してたよハハハ」


ドモンは笑いながら、ダンボールで作る空気砲のような、穴の空いた四角い箱を不思議そうに眺めていた。




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