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第365話

ギルとミユが馬車に揺られ、腕輪を貰ったチィとミィがトッポと一緒にミルフィーユカツに舌鼓を打っていた頃。


「御主人様~奥様~、お昼の準備が整いましたよ~」


エミィと一緒に、大工やオーガ達の食事を作っていたサンが、ドモン達の部屋へやってきた。

大人数且つ皆大食らいなので、一度の食事量はとんでもない量。

この日はチィとミィが王宮に向かったため、サンが手伝いを申し出た。


「ねえ早く!早く続きを書きなさいよ!ほらドモン!お酒ばかり飲んでいないで!」

「????」「そんな慌てるなよ・・・もう疲れちゃった」

「ああもうじれったいわね。じゃあ口でいいから教えてよ続き」

「何をなされてるのですか??」


サンが部屋の様子を覗くと、ナナに何かを急かされたドモンが、スマホを片手に漢字を調べ、ヒーコラと必死にペンを走らせていた。

ナナの目の前の机には、結構な量の紙が重なっている。


「ほら見てサン。ドモンが暇つぶしに小説を書いてるのよ。それがね、なんだかすごく面白くって」とナナ。

「ええと『推しが何故か今日も俺のベッドで寝てるんだが』・・・なんですか?これ??」サンが紙を持って内容を読みはじめた。


「幼なじみの女の子が有名な舞台女優になっちゃって、主人公の男の子が陰ながら応援していたんだけど・・・あ、女の子は偉い人から恋愛禁止を言い渡されてるんだけどね」

「フムフム」

「でもね、その女の子の方から、何度も何度もその男の子に仕掛けちゃうのよ。すごく好きなのよきっと。だってそもそもが、男の子に好かれようと思って舞台女優になったんだから」

「フンフンフン」

「で、男の子は舞台で輝いてるその女の子のことがもっと好きになったんだけど、恋愛禁止の約束があるから・・・」

「ムフゥ!!ももももう奥様!!もう言わないでください!!読みます読みます!サンも読みますから!」



みんな出かけてしまい、暇になってしまったドモン。

お金もなくなってしまい遊びにも行けないので、暇つぶしに小説を書きはじめたのだ。


そんなドモンの恋愛小説に夢中になったナナ。

もちろん小説自体本気で書こうとしたわけではなく、ほんの冗談で『んだが少年』の短いラブストーリーを書いて笑わせようとしたところ、ナナが思いの外大興奮。


調子に乗って様々なピンチを盛り込みつつ恋のライバルを出現させたり、努力によって成功をつかんだり、男の子の助けによって成長したりなどといったベタベタな展開をてんこ盛りにした結果、こうなってしまったのだ。


そうしてドモンのファンは二人になった。



「ほらサン、もう行くぞ?」

「ま、待ってください!あと少し」椅子に座って、物凄い早さで読み進めるサン。

「サン、そんなに急いでも、その先はまだ書いていないのよ?」ナナがヤレヤレ。


「えー!!御主人様、何をやっておられるのですか!!ダメダメ!もうお酒なんて飲んでしまって!しっかり書いてからにしてください!!」

「続きは・・・まあまた来年にでも」

「駄目よ!!」「ダメですぅ!!うーっ!!」

「あ、ほら、ギルとミユも帰ってきたんじゃないか?馬車が来たみたい」


もうまるで続きを書く気がないドモン。

適当に誤魔化すも執拗に食い下がるふたり。


「ちょ、ちょっと待ちなさいってば!恋敵の罠で足を挫いたまま舞台に立ったあとどうなるのよーっ!!」「そうです!」

「うるさいな・・・舞台の上に男の子が上がって来て、そばにあったベッドに女の子を押し倒し、即興演技で乗り切るんだよ。いつも女の子が自分のベッドに潜り込んできてる時の、いつもの会話をしながら。そこで初めての口付けを・・・」

「ムフ」「ムフゥ」


ドモンの適当な話だというのに、ものすごく気持ち悪い笑みを浮かべるふたり。

結局、いつか続きを書くようにとドモンは無理やり約束をさせられた。



「プククク・・・何をやってるのですか師匠はククク」帰ってくるなり訳を聞き、笑いながら食堂の椅子にミユを座らせたギル。

「いやぁ軽い冗談と暇つぶしで書いただけだよ。その内日記代わりに、自分がこの世界に来た話でも書こうと思って、その練習がてらで」とドモン。


「ング・・・ドモンは凄いのよ!本当に面白いんだから!ボフ」力説しつつ、口の中の物を撒き散らす残念美女。

「う~本当なんですよ!御主人様の頭の中を覗いて、お話の続きをすぐに見たいです」サンはちょっと怖い。


「ウフフ。私、本を読んだことがないからよくわからないわ。でもサンも夢中だと言うなら、本当に面白いのでしょうね」とミユ。

「ではあとで私が朗読してあげましょうか?実は吟遊詩人は歌だけではなく、その文字通り詩を朗読することもあるのですよ」とギル。


「や、やめろやめろ恥ずかしい!イタズラ書きみたいなものを声に出されて読まれるとか、どんな地獄だよ。それにお前らは歌の練習するなり、自分達独自の歌を作るなりで忙しいだろ」

「だってそこまで言われれば私達も気になりますよ師匠。少しくらい良いではないですか」「ウフフそうね!じゃあギル、お部屋でお願い」

「勝手に決めんな!」



食事を終えるなり、本当に小説を持って部屋に籠もったギルとミユ。

おかげでドモンはまた暇になってしまい、ナナとサンの監視のもと、やはり続きを書かされることになってしまった。


「も、もう右腕が・・・右手も痛い」

「私がいくらでもお揉みしますから!せめてあともう少し!」


ドモンが書いたそばから、横から覗き込むようにすぐに読み、ドモンの右腕を両手で揉むサン。

いつもはもっと上手なマッサージなのに、今はすごくおざなり。


「ああもう、サンが顔をくっつけるくらい近づくから、なんかちょっとスケベな気持ちに・・・」

「なによ!じゃあスッキリしたら書く?ほらサン、ドモンを脱がして。ほらほらドモンも立って」

「やめろやめろ!まだ夕方にもなってないってのに!みんな仕事してんだぞ!」

「仕方ないじゃない!こっちだって小説読んで結構ムズムズしてんのよ!今日の夜、ベッドに潜り込んでやるんだから」

「お前はいつも一緒に寝てんだろ!」


本当は昼食前からムズムズしていたナナ。そしてサンも。

ナナは自分が小説のヒロインになった気分で読み進めていたが、ドモンの構想では、ヒロインに意地悪をして怪我をさせた恋敵が実はナナをイメージしている。


「ほら!今よサン!羽交い締めしてるうちに脱がして!」「はい!」

「やめろバカ!本当に人が来るってば!!ああ、なのになぜ俺はこんな元気に」


その瞬間、突然ガチャリと開いたドア。

開いたドアの向こうには、ミユが一人で立っていた。

そのミユの2メートル前には、下半身丸出しで羽交い締めされたドモン。ミユには見えていないのだけが救い。


「ドモンさん!」

「わわわ・・・ミユ、どうしてここに」


ナナはそっとドモンから手を離し、音を立てないようにサンがそーっと下着とズボンを元に戻していく。


「着替え中?」首を傾げたミユ。

「おいバレてるじゃねぇか!お前本当は目が見えてんじゃねぇだろうな?!」

「だからあたし耳がいいと言っているのに。そんなことよりも!!お話の続きはどこなの?!もう出来ているのでしょう?」

「まだ出来てないよ。ちょっと疲れちゃって休んでたんだ」


下半身丸出しだったとしても、どうせ見えないのだからとミユは気にもしない。

それよりも小説の続きの方が今は大切。ドモンの小説のファンがここにもひとり生まれた。


「もう~!お酒の匂いもするわ!どうして真面目に書かないのかしら?」「ホントよ」「はい!」

「俺は最初から不真面目なんだよ。ギルはどうした?」

「今必死になって自分のノートに書き写しているわ。機会があればどこかの舞台でこの物語を語るんだと張り切っているわよウフフ」

「なんじゃそりゃ・・・かの吟遊詩人が何をやってんだよ」


話を聞いてドモンが呆れているところに、遠くから「師匠~!しーしょ~~う!!」という叫び声とドタバタという足音が聞こえてきた。


「ギルも続き書けっていうんだろ」

「それもそうなんですけど、これってもしかしてミユと私のお話ではないですか?!」興奮気味なギル。

「ん?ああ・・・まあな」

「えぇ?!」「あ!!!」「嘘?!」


確かにドモンがヒロインとしてイメージしていたのはミユ。主人公はギルだった。

だからこそドモンはふたりにだけは読まれたくなかったのだ。


「でも性格と口調と様々な困難があるってだけなのに、そんなのよくわかったな」

「そのままミユのような性格と口調ですし、舞台に上がるミユを好きになるというのも私と一緒ですから!ミユと同じくらいこの女の子のことが好きになってしまったので、どうにも困っていたんですが、やはりミユのことでしたか!これで一安心です」


腕を組み、目を瞑ってウンウン頷くギルと、ここまではっきりとみんなの前で好きだと言われ、顔を真っ赤にしたミユ。

ナナとサンは、小説を読んでいる時と同じくらいのムフフ顔でミユの顔を見た。


「じゃ、じゃあこのふたりの結末は・・・どうなるのでしょう?」とドモンに聞いたミユ。

「さあなぁ、まだ決めちゃいないよ。小説は小説だからな。幸せになってほしいか?フフフ」

「そ、そりゃそうよ!あたしだってその・・・幸せになってみたいもの」


そんなミユの手をギュッとギルが握りしめる。


「これはあくまで俺が書いた物語だ。お前らはお前らで、お前らなりの物語をこれからふたりで作り上げれば良いんじゃないか?ゆっくりとな。慌てて結末を知る必要なんかないんだからさ」


ドモンのその言葉で、ギルはチャリティーコンサートを終えた後、ミユを連れ世界中を旅することにした。

ふたりの物語を作るために。


この日ドモンが徹夜で書き上げたこの小説は、なぜかトッポの元へと届けられることになった。

当然王宮でも複製され、全員が夢中になって読んで大いに楽しんだ。



小説の結末はもちろん、ご都合主義のハッピーエンドである。





吐血事件により話のストックが無くなり、幕間用に書いていたものをまた引っ張り出し、ストーリーに沿って改変。

本来の予定だと、今後何度かの幕間の中で、ドモンが書いたその小説を小出しで発表するはずだったんだけど、もうそんな余裕もなくなりヤメた(笑)



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